「YouTubeは、私の人生をめちゃめちゃにした」
カリフォルニア州在住のYouTuber、ナシム・アフダム容疑者(39)が4月3日、シリコンバレーのYouTube本社でハンドガンを発砲し、3人を負傷させ、自殺した事件は、他のソーシャルメディア企業に大きなショックを与えている。
Youtubeは彼女の動画への広告掲載を停止していた。
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シリコンバレーではFacebookから約8700万人の個人情報が不正に第3者の手に渡った事件が明るみに出たほか、YouTubeなどがテロリストのリクルートに利用され続けているのに対応し、ソーシャルメディア各社がコンテンツの監視を強化している矢先だった。
しかし、そのポリシーの変更が気に入らないという理由で、ユーザーが本社を銃器で襲撃するという事件が現実に起きた。
米メディアによると、アフダム容疑者はYouTuberで、英語、ペルシア語、トルコ語で4つのチャンネルを持ち、自分のウェブサイトも持っていたという。40本以上のビデオを投稿し、ソーシャルメディアで積極的に自分の主張を述べていた。襲撃直後、YouTube、Facebook、インスタグラムなどの彼女のアカウントは消去された。
「私はYouTubeに差別され、検閲された」
アフダム容疑者の家族によると、彼女はYouTubeを憎んでいたという。
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シリコンバレーの地元紙マーキュリー・ニュースが編集した容疑者のビデオには、彼女の怒りの声が記録されている。
「私はYouTubeに差別され、検閲された。私だけではない。私の過去のビデオを見ると、たくさんのアクセスがあった。今、その数は減らされている」
マーキュリー紙やロサンゼルス・タイムズによると、チャンネルには、彼女が奇妙なエクササイズをするビデオのほか、残酷な動物虐待の映像、ビーガン料理のレシピなどが投稿されていた。ビーガンとは肉だけでなく、魚、乳製品、卵に至るまで制限する厳格な菜食主義。彼女は2009年の動物愛護のデモで取材され、「私にとって、動物の権利は人権と同じ」とコメントしていた。
YouTubeは、これらのビデオが「ポリシーに反する」として、彼女のビデオに広告をつけることを停止。彼女のYouTuberとしての収入が断たれていた。最近は、YouTubeを攻撃するビデオが増え、同社に対する不満が高まってきていた様子が分かる。
1月28日には、彼女が投稿した腹部のワークアウトのビデオが、「際どい」という理由でYouTubeに検閲されたと批判しているビデオをアップしている。マーキュリー紙が編集したビデオには、アフダム容疑者がミリタリー柄の体にぴったりとしたレオタードでスクワットをしている映像がある。
3月18日にはインスタグラムに投稿。彼女のYouTubeビデオへのアクセスが減っているのは、「追放そのもの」だと糾弾している。
「これは、経済や政治、大企業のタメにはならない、真実を語る人々をオンラインで抑圧するための、体のいい戦略だ。私は最近、インスタグラムにも検閲された。もしかしたら、YouTubeが私を検閲するように言ったのかもしれない……」
父親イスマイルにも、YouTubeからの支払いが止められたことを打ち明け、「YouTubeは、私の人生をめちゃめちゃにした」と語っていたという。
「YouTubeに行くかもしれない」と伝えた家族
4月4日未明、地元警察はアフダム容疑者の名前を特定し、シリコンバレーから約800 キロメートル南にあるカリフォルニア州サンディエゴの住人だと発表した。容疑者の家族は、2日から彼女と車が行方不明になったとして、警察に届けていた。警察は襲撃の約12時間前、彼女が車の中で寝ているのを発見し、家族に通報。父親は、彼女が発見された場所がYouTube本社から近いことを地図で確認し、「彼女はYouTubeを憎んでいるから、YouTubeに(何かしに)行くかもしれない」と警察に伝えていた。
「しかし、警察は彼女をモニターしなかった。そして人が傷つき、彼女は死んだ」と、家族の一員はロサンゼルス・タイムズに語っている。
事件発生直後、警察は、アフダム容疑者がボーイフレンドを狙った事件とほのめかしていたが、容疑者の身元が判明すると、YouTubeと長期間にわたり、論争を続けていたことがわかった。 負傷したYouTube社員ら3人と面識があったかどうか、本社内にどうやってハンドガンを持ち込めたのかは、明らかになっていない。
YouTubeのスーザン・ウォジスキー最高経営責任者(CEO)は事件直後、次のツイートを発信した。
「今日の攻撃は言葉にできないほど、恐ろしい事件でした。。警察、救急当局の迅速な対応に深く感謝しています。またこの事件の負傷者と被害を被った人々に思いを馳せています。家族として団結し、傷を癒していきましょう」
(文・津山恵子)