2017年度決算から見る「ソニー復活」の理由、ゲームと半導体事業の“強さ”と“弱点”

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ソニー

4月27日、ソニーが2017年度連結決算を発表した。売上高は8兆5440億円、営業利益は7349億円と、大幅な増収増益である。

2012年、平井一夫氏が社長に就任した段階では、ソニーは「家電不調」を代表するような経営状態だった。それが急速に業績を回復したのはなぜなのか? ここで改めて振り返ってみたい。

ソニー平井体制が「儲からないビジネスを儲かるものに変えた」

ソニー経営陣

ソニー経営陣。中央が、代表執行役 EVP CFOの十時裕樹氏。

2017年決算の内容を見ると、現在のソニーは、多彩な収益源を確保しつつあることがわかる。大きな柱は「ゲーム」「半導体」「金融」。だが、家電事業や映画・音楽事業についても業績は良好で、十分な利益を挙げている。

2012年、前平井社長の就任当時のセグメント別売上・利益を見ると、同社の構造がいかに「利益を生めるもの」になったかがわかる。同じように利益を挙げていたのは金融だけで、他は比較にならない。その金融も、5年前との比較では、300億円ほど利益が増えている。

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以下、説明がない限りソニー・2017年度決算資料より抜粋。モバイル分野以外、かなり高い利益水準になっている。


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ソニー・2012年度決算資料より抜粋。事業セグメントについては定義が現在と同じではないので、参考まで。売上は出ているものの、2017年度に比べると利益水準が非常に低いことがわかる。

収益構造を徹底して見直し、「儲からないビジネスを儲かるものに変えた」のが、平井ソニーの本質である。

ではなにをしたのか。まず大きいのは、「売上・利益が大きくなるビジネスを強化した」ことだ。この領域には、現在の「ゲーム」「半導体」が属する。

2012年度、ゲームの売上高は7071億円、利益は17億円という水準だった。だが、2017年度は売上が1兆9438億円、利益が1775億円とまさに桁違いに成長している。背景にあるのはPlayStation 4(PS4)の大ヒットだが、ハードウエアの販売台数だけを見ると、実はそこまで大きな差はない。

2012年度の据え置き型ゲーム機(PlayStation 3が中心)の販売台数は1650万台。2017年度におけるPS4の販売台数は1900万台だ。ただし、PS4ではネットワークサービスが有料化され、ゲームの販売も、ソニーのネットワークを介したダウンロード型の直販の比率が上がっている。

その結果、ネットワークサービスは2017年度で1兆332億円を売り上げるようになった。PS4がなかった2012年度と2017年度の差は、まさにネットワークサービスの分といえる。

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2017年度のゲーム事業。1兆9000億円を超える高い売上高と、1700億円を超える利益の高さが目立つ。


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PS4の販売台数も大きいが、注目はネットワーク売上高の推移。2017年度は1兆円を超え、PS4事業が成長するに従い、強固なビジネス基盤となっているのがわかる。

PS4はなぜ「儲かるゲーム機」になれたのか?

PS4

Shutterstock

PS4の企画が進行していた頃、ゲーム業界には「もはやゲーム専用機は終わる、大きなビジネスにはならないのでは」という空気が蔓延していた。スマートフォン向けのゲームで代替され、リスクの大きなゲーム機のビジネスは厳しくなっていくだろう……との観測があった。ソニーはまだゲーム機ビジネスに自信を持っていたものの、一方で、PS3の立ち上げで苦しんだ経験から、「PS4はリスクを軽減したビジネスモデルにする」ことを選択した。

そのリスク回避の一つが「ネットワークの有料化」だ。ネットワークサービスへの依存度が高まると、そのインフラ維持にかかるコストは大きくなる。ゲームの無料提供などの利便性をセットにし、月額制の会員サービスにすることでインフラ整備コストと収益を確保するビジネスモデルとした。

PS4の普及が一段楽しても、ゲームが売れて利用が続く限り、ネットワークサービスからの収益は維持される。また、仮に次のプラットフォームが登場するとしても、ユーザーは「同じネットワークの中で築いた友人関係」を大切なものと考えるので、ビジネスの移行リスクが軽減される。

PS4の予想以上のヒットがソニーを救ったのは事実だが、業績を支えたのは、ヒットしたこと以上に「ビジネスモデルのトランジション」が大きいのだ。

2011年春、ソニーのネットワークサービスは不正アクセスを受けて、大規模な個人情報流出事件を起こした。当時、ソニーのネットワークサービスはうまくいっておらず、「アップルやグーグル、アマゾンとは比較にならない」との評価を下されていた。そこに不祥事とあっては、投資やビジネス計画の減速が起きても不思議はなかった。

だが、ソニーはそこでブレーキを踏まなかった。踏みとどまって整備に努めたことが、PS4世代のビジネスリスクを軽減するだけでなく、ソニーの屋台骨を支える継続収益源へと成長するきっかけとなったのだ。

強い技術力を持ちつつも「周辺事情」に左右される半導体事業

もうひとつの柱である半導体事業は、主に高級スマートフォン向けのイメージセンサーの需要に支えられている。

スマートフォン向けの部材は競争が激しい領域だが、ことイメージセンサーについては、ハイエンド市場でのソニーの強さに変化はなく、それがそのまま強みにつながっている。先行投資が優位に働いており、なにより、構造改革を経て利益率が劇的に向上したのがポイントだ。数字だけで語るなら、2017年度の利益は、2012年度の利益の3倍以上になっている。

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半導体事業は利益率が高くなったように見えるが、外的要因による変動も大きく、そこにいかに対応するかが大きな課題だ。

ただし半導体事業は、外的要因による変動を特に受けやすい分野でもある。2016年度には熊本地震の影響による損益を計上しているし、2015年度にはスマートフォン市場の減速に伴い、カメラモジュールとしての事業について、長期性資産の減損を行っている。

部材の性能としては強みを維持しているものの、スマートフォンの売れ行きひとつで大きな影響を受けるのがこの事業の特徴だ。特に、ソニーが得意とするハイエンドスマートフォン向けのセンサーは、アップルを初めとした特定の数社の影響が強く、自社要因だけでビジネスが完結しない。

4月1日にからソニーの社長に就任した吉田憲一郎氏は、CFO時代に決算発表の中で何度となく「外的要因による変化に素早く対応できる事業体制を作り上げる」と話していた。特に半導体についてはその要因が大きく、現在はようやく変化に強い体制作りができたところなのではないか……と筆者は考える。

「ブランデッド・ハードウエア」で戦うソニー、それでも危ういモバイル事業

一方、スマホという意味では、ソニーの事業の中で唯一沈んでいるのが、スマートフォンを軸にした「モバイル」分野だ。そもそもは、アップルやサムスンと同じく世界市場で広く戦うことを目指していたが、結果的に、アメリカや中国などで他社と同列で戦うことができず、規模を縮小して今に至る。

家電や映画などが黒字化に成功していく中、スマートフォンだけはまだ厳しい。自社に素晴らしいイメージセンサーがあってもそれだけでは差別化できず、販路拡大やマーケティングなどを考えると、結局は、上手くいっている日本などを中心にしたビジネスへと規模を縮小して事業を維持する、という作戦だ。

そうした方向転換は2016年度に行われているが、いまだ黒字化はしておらず、厳しい状態のままだ。

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モバイル事業の状況。ソニーの事業セグメントの中で、唯一大きな赤字を出している。ここから当面、「出血を絞る」局面が続く。

平井体制下のソニーでは、「まず赤字を止血する」という判断のもと、赤字事業の売却や事業体制変更が行われた。テレビやオーディオ、カメラといったいわゆる「家電」事業は、収益の低い低価格製品を止め、ラインナップを絞ることで高収益化を実現した。

ソニーは2017年度決算より、これらのハードウエア事業を「ブランデッド・ハードウエア」と呼称している。ブランドをつけた、というのは別にブランドだけで売るということではなく、高品質・高付加価値のモデルに絞ってビジネスをする、という意味を指す。

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家電事業は「ブランデッド・ハードウエア」として展開。「SONY」のブランドを維持できる高品質・高付加価値モデルに絞ったビジネスを今後も続ける。

ただ、ブランデッド・ハードウエア事業の中でも、スマートフォンだけは赤字だ。

それでも事業を続ける理由について、同社の十時裕樹代表執行役 EVP CFOは「5Gの時代になれば、すべての家電で通信が重要になる。そのためにもノウハウは必要」と話している。「ノウハウのために残す」という発想は2016年以降変わっていないが、今も出血は止まっていない。先月までソニーモバイルの社長も務めていた十時氏は「ターンアラウンドできなかったことには責任を感じている」とも話しており、現状を良しとはしていないようだ。

モバイルが大きな懸念ではありつつも、大きなビジネスを当面目指さないことで、これ以上出血の範囲も広がらない。それが、今のソニーの選択なのだ。

十時CFOは「現在の懸念は、油断すること」だと言う。これは、前社長の平井氏・現社長の吉田氏も同様のコメントを残しており、ソニーのエクゼクティブ全体に共有された考えなのだと推察できる。

いろいろな努力の末に黒字化は果たしたが、状況変化への対応が遅れたり、コストの考え方に緩みが生まれたりすると、2017年度に実現した高利益水準は再現できない、と考えているのだ。ソニーが本当の意味で「復活」したかどうかは、2018年度にも高収益体制が維持できたかどうかで判断すべきかもしれない。

(文、写真・西田宗千佳)


西田宗千佳: フリージャーナリスト。得意ジャンルはパソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主な著書に『ポケモンGOは終わらない』『ソニー復興の劇薬』『ネットフリックスの時代』『iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』など 。

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