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- ハワイにあるマウナロア観測所によると、大気中の二酸化炭素(CO2)の月平均濃度が410ppmを超えた。
- この数値は、観測可能な過去80万年のデータで最高レベル。
- 我々の健康と地球環境に壊滅的な影響を及ぼすと見られている。
過去80万年の大気の状態について、我々はかなり正確に把握している。
我々人類、つまりホモ・サピエンスが進化を遂げたのは、わずか20万年前のこと。だが、グリーンランドと南極の氷を調べれば、人類が誕生するはるか以前の地球の様子が詳しく分かる。氷床を3キロメートル以上掘削すると、気温ならびに大気中のCO2濃度が過去どのように変化してきたのかを確認できる。
データから、大気中に現代ほど大量のCO2が含まれていた時代はかつて一度もなかったことが明らかになった。
ハワイにあるマウナロア観測所(Mauna Loa Observatory)の観測によると、2018年4月、大気中のCO2の月平均濃度が観測史上、初めて410ppmを超えた。
これは偶発的なものではない。人類は、過去2世紀の間に大気中に大量のCO2を排出し、大気を急速に変化させてきた。近年、我々はCO2濃度を未知のレベルにまで押し上げている。
こうした変化は、必然かつ恐ろしい結果をもたらす。研究によると、上昇したCO2濃度をこのまま放置すれば、大気汚染に起因して何万もの人が死亡し、人間の認識能力を低下させるレベルに達し、さらに海面上昇や熱波、巨大嵐など科学者が気候変動の影響だと考えている事態が引き起こされる。
「科学者として、私が最も危惧していることは、CO2濃度の継続的な上昇が実際、何を意味するのかだ。我々は、唯一の故郷である地球を使って、前例のない実験を猛スピードで進めている」と気候科学者のキャサリン・ヘイホー(Katharine Hayhoe)氏はツイッターに記した。
南極の巨大な氷河は、地球温暖化によって溶け始めているようだ。その結果、何世紀にもわたって海面が上昇するかもしれない。
NASA
人類は、経験したことのない空気を吸っている
我々が観測可能な80万年間、大気中のCO2の平均濃度は、概ね170〜280ppmで推移してきた。だが、産業革命の時代に化石燃料を燃やし始めると、事態は急激に変化した。
産業革命の頃に初めて、CO2濃度は300ppmを超えた。そして、2013年には400ppmを超え、それ以来、上昇を続けている。
科学者の間には、地球の歴史上でCO2濃度が過去にこれほど上昇した時期についての議論がある。200万年〜460万年前の鮮新世は、海面が現在より18〜24メートルほど高く、CO2濃度が高かった可能性がある。あるいは、1000万年〜1400万年前の中新世も、海面が現在より30メートル以上高かった。
80万年分のデータを見ると、CO2濃度が35ppm上昇するのに約1000年かかった。現在、CO2濃度は年平均で2ppm以上、上昇し続けている。つまり、今後45年以内に、CO2濃度は500ppmに達するかもしれない。
人類が、こんな空気を吸ったことはなかった。我々にとって良いことではないだろう。
地球の気温は、大気中のCO2濃度と密接に関連している。平均気温の上昇は、熱波による数万人の死者、大気汚染の悪化による肺がんや循環器系の病気の増加、アレルギーや喘息の患者の増加、異常気象の多発、ダニや蚊を介した伝染病の拡大などをもたらす恐れがある —— すでに、そうした事態は起きている。
■1959年から2016年までの世界の年間気温とCO2濃度の推移
Source: Environmental Protection Agency; NOAA
CO2濃度の上昇は、オゾン汚染も悪化させる。2008年の研究によると、CO2濃度の上昇に伴って気温が1度高くなるごとに、オゾン汚染が引き起こす呼吸器系の病気や喘息、肺気腫による死者は2万2000人増加する可能性がある。最近の研究では、すでに結果として、大気汚染によって毎年900万人の命が奪われていることが明らかになった。
他の研究も不安をさらにかき立てる。現在のCO2の平均濃度は、我々が吸うべき空気のものではない。また都市の空気は、平均よりはるかに多くのCO2を含む傾向があり、室内では濃度はさらに高くなる。ある研究によると、CO2の濃度上昇は、人間の認識能力や決断力に悪い影響を及ぼす恐れがある。気候変動が人間の健康に及ぼす影響については、アメリカ環境保護庁(EPA)のウェブサイトに包括的なリストがある。
オバマ政権時代の2009年、EPAはCO2は汚染物質であり、大気浄化法で規制する必要があるとの判断を下した。しかし、トランプ政権はその判断を再検討している。
スモッグに包まれた中国・南京。
Thomson Reuters
増え続けるCO2
だが、CO2濃度の上昇がもたらす健康への影響は、全体像から見ればごく一部でしかない。
近年、我々が目にしているCO2濃度の上昇スピードは、歴史的な傾向よりもはるかに速い。一部の専門家は、21世紀の終わりまでにCO2濃度は550ppmに達し、世界の平均気温は6度上昇すると考えている。
ちなみに、巨大嵐の増加、海面上昇、ダニを介した伝染病の拡大など、我々がすでに直面している問題は、気温が0.9度上昇したあとに出現した。海面上昇の予測は、CO2濃度が上昇し続けることに伴って、高くなる一方だ。
Data from Parrenin et al., 2013; Snyder et al., 2016; Bereiter et al., 2015.
Ben Henley and Nerilie Abram/The Conversation
現時点で、CO2の排出量は依然として増え続けている。2015年のパリ協定では、世界の平均気温の上昇を、産業革命前から2度未満に抑えるという目標が設定された。だが、4月下旬に『ネイチャー』に掲載された記事によると、気温は3度以上上昇する可能性がある。
そうした事態を回避したければ、我々は一刻も早く劇的な変化を起こさなければならない。マウナロア観測所の最新データがそう告げている。
(翻訳:遠藤康子/ガリレオ、編集:増田隆幸)