[更新]日本関連タンカー攻撃の真犯人、テロ専門家はこう考える。「イラン革命防衛隊」か「反政府テロ組織」か

タンカー オマーン湾

6月13日、ホルムズ海峡近く、オマーン湾のイラン沖で攻撃を受けたタンカーと消火活動にあたるイラン海軍の船舶。

Tasnim News Agency/Handout via REUTERS

安倍晋三首相がイラン訪問中の6月13日、ホルムズ海峡に近いオマーン湾のイラン沖で、日本関連のタンカー2隻が何者かの攻撃を受けた。犯人は現在のところ明らかになっていない。

アメリカのポンペオ国務長官は同日、「イランに責任がある」と発言した。その根拠は「米情報機関の分析」で、特に使用された武器や作戦規模が国家の軍隊レベルであり、それが可能で、しかも動機があるのはイランということだが、明確な証拠は示していない。

その後、トランプ大統領もこのポンペオ発言を支持。続いてシャナハン国防長官代行も、イランの継続的攻撃を非難した。アメリカの要請で同日、国連安全保障理事会の特別会合も開催された。

アメリカは、5月に起きた石油タンカーなど4隻への攻撃でも、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)が「イランの機雷によるものであることはほぼ確実」と断定しているが、やはり明確な証拠を示していない。

証拠はまだ一切出ていない

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タンカー攻撃について、「イランに責任がある」と発言したポンペオ国務長官。

Win McNamee/Getty Images

今回のタンカー攻撃の背景にあるのはもちろん、アメリカの軍事的圧力とそれに対抗するイランという構図である。イランはアメリカに対抗することを宣言しており、ホルムズ海峡で軍事的行動をとる可能性についても、対米けん制の文脈でかねてから示唆していた。

表立って軍事行動をしなくても、裏工作でホルムズ海峡の安全を脅かすだけで、アメリカの軍事力では地域を安定化できないこと、さらにはアメリカの軍事的圧力がむしろ地域の安全に悪影響をおよぼすことを示すことにもなる。

こうした「動機」の点、さらには「能力」の点でも、イランが関与を疑われるのは仕方ないだろう。ただし、イランとアメリカの間の緊張を高めることを狙った、「なりすまし」犯行である可能性は否定できない。さて、本当は誰のしわざなのか?

まず重要なのは、現時点では誰も犯行を認めていないことだ。匿名で行われた謀略的なテロ工作で、しかも犯人は「不明」である。

前述したように、イランの関与を断定するアメリカはいまだ証拠を提示しておらず、説得力に欠ける。イランはもちろん公式には強く関与を否定しており、実際、仮にイランであることが露呈すれば、政治的にも大きなマイナスになる。

そんな見方から、「イランがやるわけがない」との憶測が飛び交っているが、今回は匿名の謀略工作なので、イランの犯行ではないとの断定もできない。したがって、現時点では「イラン説」も「なりすまし説」の両方とも可能性があることを、強く指摘しておきたい。

イラン説なら、実働部隊は「イスラム革命防衛隊」

IRGC イラン 革命防衛隊

ペルシャ湾岸エリアで戦闘訓練を行う「イラン革命防衛隊(Islamic Revolutionary Guard Corps)」の陸上部隊。

Hamed Malekpour/Tasnim News Agency via REUTERS

「イラン説」が正しいとすると、第1容疑者は「イスラム革命防衛隊」だろう。革命防衛隊はハメネイ最高指導者に直結する軍隊で、イラン政府の枠外の組織だ。「コッズ部隊(クドス部隊とも)」という、やはり最高指導者直属の謀略工作専門の特殊部隊を持ち、これまでもさまざまな謀略工作を行ってきた。対米強硬派の牙城でもある。つまり「能力」も「動機」もある。

仮に革命防衛隊の犯行だとすると、勝手に「暴走」した可能性は低い。革命防衛隊司令官も、その工作部隊であるコッズ部隊の司令官も、ハメネイ最高指導者と直結しており、こうした謀略工作では、少なくとも大枠ではハメネイ最高指導者の了承を得ている可能性が高い。ただし、あらゆる作戦についてそうなのか否かは、外部からはうかがい知れない。

なお、コッズ部隊は海外での謀略工作を、しばしば配下である外国の武装組織にやらせてきた。レバノンの「ヒズボラ」がその代表格で、いまではそれ以外にも、イラクのシーア派民兵組織「人民動員隊」や、シリアのアサド政権を支援するシーア派外国人部隊、イエメンの「フーシ派」などがある。

ただし、今回の攻撃はホルムズ海峡近くのオマーン湾であり、そうした外国の武装組織にとって行動エリア外であるから、関与した可能性はきわめて低い(イエメンのフーシ派はサウジアラビアのタンカーを攻撃したことがあるが、イエメン沖の紅海での犯行だった)。

なりすまし説なら、反イランのテロ組織

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イラクの首都バグダッドに集まった同国シーア派主導者ムクタダ・サドル師の支持者たち。隣国でシーア派のイランとアメリカの対立が緊迫したことを受け、関係正常化を求める集会。このエリアの置かれた状況は複雑だ。

REUTERS/Alaa Al-Marjani

他方、「なりすまし説」でまず考えられるのは、反イランのテロ組織だろう。前述したように、イランとアメリカの間の緊張を高めるという「動機」がある。

問題は、航行するタンカーを攻撃できる軍事的能力があるか否かだが、そこは微妙だ。本格的な戦闘用の艦艇による攻撃はさすがに難しい。しかも、水雷での攻撃もあったとの情報があり、そうなると実際のところテロ組織にはかなり難しい。いずれにしても、現時点の情報だけでは判断しにくい。

仮に攻撃ができたとして、どういったテロ組織が考えられるかというと、まずイランには「ムジャヒディン・ハルク」など1979年のイラン・イスラム革命以来の反体制派組織があるものの、こうした武装闘争は久しく行っていない。

現役で武装テロ活動を行っている組織としては、イラン南西部フゼスタン州で活動する「アフワズ民族抵抗」がある。アラブ人の分離独立派ゲリラで、革命防衛隊の軍事パレードを襲撃したことなどもあるが、活動エリアはイラン西部なので、今回のオマーン湾での攻撃とは活動エリアが一致しない。

スンニ派の過激派「ジェイシュ・アドル(正義の軍隊)」

そうした点からすると、第1の容疑者は「ジェイシュ・アドル(正義の軍隊)」という反体制派ゲリラ組織になるだろう。

イラン東部からパキスタン西部にかけて居住するバルーチ人の地下組織で、スンニ派のイスラム過激派の系譜になる。シーア派のイラン政権の打倒を掲げており、しばしばイラン南東部のシスタン・バルチスタン州でテロを行っており、前出の最高指導者直結の軍隊である革命防衛隊を攻撃したこともある。

第2の容疑者としては、イラクやシリアでイランのコッズ部隊と敵対関係にあったIS(イスラム国)にも動機がある。ISにとってはアメリカもイランも敵なので、互いに殺し合えば都合がいい。

ただ、ISおよびそのシンパのテロリストはこれまで、彼らなりの大義を掲げて堂々と戦う傾向が顕著にあり、そう考えると、今回のような匿名の謀略工作はなかなか考えにくい。アルカイダ系にも同じことが言える。

犯行が露呈したときのリスクから見えてくるもの

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2019年5月、イランとの関係悪化を受けてアラビア海に派遣された米海軍の強襲揚陸艦「キアサージ」(前)とミサイル駆逐艦「ベインブリッジ」。

U.S. Navy/Mass Communication Specialist 1st Class Brian M. Wilbur/Handout via REUTERS

ほかに容疑者として考えられるのは、第三国の工作機関だ。イランを悪者にしたいという動機で、たとえばアメリカ、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、イスラエルなどが考えられる。

動機と能力はある。つまり、可能性はあるが、ハードルはきわめて高い。謀略工作を行って得られる利益に比べて、露呈した場合の政治的ダメージが大きすぎるのだ。アメリカやサウジの犯行だったことが露呈した場合に比べれば、イランの犯行だったことが露呈したときのダメージははるかに小さい。その文脈では、テロ組織の犯行が露呈して受けるダメージはさらに小さい。

第三国の工作機関が、前述したようなテロ組織を扇動してやらせた可能性もゼロではないが、それもやはり露呈のリスクが高すぎる点では同じだ。

イランが配下のシーア派組織に代行させるテロのように、そもそも自分たちの敵に対する攻撃であれば、テロ扇動が露呈したり、あるいは強く疑われたりした場合でも、さほど致命傷にはならないが、謀略工作で敵方ではない対象を攻撃したことが露呈した場合には、その政治的ダメージは計り知れないのである。

したがって、可能性の高さの順位という観点で考えるなら、第三国による謀略工作の可能性は高くない。今回のタンカー攻撃では、前述したような「イランであるはずがない」という見方が多く、そこから安易に「第三国の陰謀に決まっている」と飛躍する論調も散見するが、あくまで主観的な憶測に過ぎないことに留意されたい。

頻発する「海賊行為」の可能性は低い

ほかに、同海域で頻発している海賊行為の可能性も考えられるが、今回は単に破壊を狙った攻撃だけなので、それも考えにくい。あるいは、まったく私的な謀略という可能性だが、そこまで飛躍して考える根拠情報も特にない。

こうした状況を考えると、容疑者としては「革命防衛隊」と「ジェイシ・アドル」がやはり有力だ。ただし、繰り返しになるが、現時点での情報ではあくまで「不明」である。アメリカが「イランの責任だ」と断定するに至った証拠、あるいはイラン反体制派の犯行声明でも出てくれば話は変わってくるが、それがないうちは「不明」ということだ。

なお、今回、安倍首相のイラン訪問時に日本関連の船舶が攻撃されたことで、「日本に忠告した」などの推測もみられるが、故意に日本の会社の船舶を狙ったとの証拠はなく、そうした推測も、あくまで主観的な憶測に留まる。

追記:米中央軍は6月13日付で、日本の会社が所有するタンカーから、イラン革命防衛隊の小型船が不発の吸着機雷を回収する場面のビデオ映像(下)を公開した。

米中央軍が公開した映像。

USNI News Video

安全のために回収した可能性もあるが、早い段階で回収され、しかも米側が映像公表するまでイラン側が黙っていたということは、革命防衛隊による証拠隠滅だった可能性も濃厚である。


黒井文太郎(くろい・ぶんたろう):福島県いわき市出身。横浜市立大学国際関係課程卒。『FRIDAY』編集者、フォトジャーナリスト、『軍事研究』特約記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て軍事ジャーナリスト。取材・執筆テーマは安全保障、国際紛争、情報戦、イスラム・テロ、中東情勢、北朝鮮情勢、ロシア問題、中南米問題など。NY、モスクワ、カイロを拠点に紛争地取材多数。

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