目からウロコの「Apple Card」を1カ月使ってみた。先行ユーザーが語る「クレカを再定義」とは?

アップルカード

Apple Cardはこういった包装で届く。カードの素材はチタン系の金属。デニムなどの色移りがしやすいなどのウィークポイントはアメリカのメディアで話題になっている。

提供:五島正浩氏

8月20日にアメリカでの一般提供が開始された「Apple Card」。カードを入手したという人々の利用報告が次々とネットに上がり始めている。

それに先立つ8月上旬ごろから先行してApple Cardを入手したという一部ユーザーからの報告が行われており、「自分も早くほしい」という利用者の欲求を刺激するのに一役買っていたのは間違いない。

今回はそんな先行入手ユーザーの2人である、シリコンバレー(ベイエリア)在住の起業 家・吉川欣也氏とネットワークエンジニアの五島正浩氏の2人に、先行ユーザーならではの1カ月弱使った感想を聞いた。

Apple Cardがやってきた

アップル

出典:アップル

── Apple Cardをかなり早い段階で入手されました。どのような経緯で手元に?

吉川:アップルが好きな人たちってはいつも同じなんですが、私は登録が始まったらすぐにやって、通知がきたらすぐに申し込むという流れです。

今回は五島さんとカフェで話していたら、すでに五島さんはApple Cardが届いたと。それで、すぐに別のメールアドレスで再登録したら、翌日に通知がきました。ただ、通知がきたのが最初のメールアドレスか、後から登録したものだったかは覚えていません。

五島:私の場合は、8月6日朝に一部の人に招待状が届いたという報告を見て「外れたな」と思っていたら、翌7日に招待状がきました。登録して、物理的なApple Cardが届いたのは(5日後の)12日でした。

吉川:アップル社員の人はもう少し早くから持っていたでしょうし、ベイエリア在住の人には少し提供が早く行われるというのは、ひょっとしたらあるかも。 テスラの申し込みもそうですが、そういうことをやる人はアメリカの中でもベイエリアが圧倒的に多いはずなんですよね。

アップル的には「そういうこと(地域優先は)はやっていません」かもしれませんが、ベイエリアだったりニューヨークだったりの人の方が、新しいものに対していち早くアクションを起こすでしょうから、結果として早く届いているのかもしれません。 普通の人は、わざわざクレジットカードの申し込みに誰よりも早く殺到したりしないでしょうし。iPhoneにしても何にしても、「出たらとりあえず申し込む」。

アップルカード

Apple Cardのアプリ画面。

出典:アップル

── 先行して日常的に使ってきて、どういう感想を持っていますか。

吉川:ほとんどの話は皆さんのブログで書かれていたりすることなんですが、まず最初の感想は日本のクレジットカードなんかに比べて契約書だったり、利用条件だったり、支払いが遅れたときのペナルティだったり、そういう説明が一切ないことです。

アップルがiPodやiPhoneで取説をなくしたのと同じように、まったくマニュアルがない。金融商品でこういうのをやった会社は、おそらく初めてじゃないでしょうか?

── 普通のクレジットカードは物理カードが前提なのに対して、Apple Cardは基本iPhoneがあって、そこにバーチャルなApple Cardと物理的なApple Cardが載ってきます。その差でしょうか?

吉川:普通は文言を入れて、法的に安全な方に傾きますよね。うちに子守りをしに来てくれている大学2年生の子がいるんですが、彼女に聞いたら、「Apple Cardを持っている」というんですよ。初めてのクレカが、Apple Cardという人がもう生まれている。

何が面白いって、そういう子たちが「クレカってこういうものなんだ」と特に何も感じないまま、Apple Cardを使い始めることのすごさです。

クレジットカード

Apple Cardの実物。

提供:五島正浩氏

── 「すごさ」はのちほどお聞きするとして、他に普通のカードとの違いはありますか。

吉川:Apple Cardを眺めたときに見えてくる「アップルロゴ」ですね。今まで、クレジットカードにはカードブランドのロゴが券面に入って自己主張していました。それが(Apple Cardのカード発行会社でクレカ事業に初参入の)Goldman Sachsのロゴと一緒にMastercardのロゴが「裏面」に入っているわけです。

Appleのこだわりなんでしょうか、どういう条件だったのか。「アップルユーザーが使いたいカードだから、あなたたちは後ろね」ということなのか。(決まった経緯を想像すると)なかなか衝撃的です。

五島:私はすでに3週間使っていますが、最初にアクティベーションをするときの体験が面白いと思いました。すでに日常的に使うクレカになっていますが、その中で特に良いと感じるのがウォレットアプリと統合されている体験(UX)部分です。

チェイス(アメリカの銀行の1つ)とかのカードでは、いちいちアプリを開いて履歴をみないといけないものが、Apple Cardではウォレットアプリから直接見られます。Face IDのロックを解除すればすぐに使えるので、昔ながらのクレカはユーザーインターフェイスなどの面で一気に使い勝手が落ちて感じます。

Apple Cardの「色」は白ではなかった

── 毎日使った金額がその場でキャッシュバックされる「Daily Cash」や、返済計画を可視化できる独特のUIメニューなど、Apple Cardには(決済を追いかけているライターとして)気になる機能が多いです。

吉川:単純にキャッシュバック目的なら、アマゾンのクレカなどでもいいのですが、実際に締め日が来るまでキャッシュバック状況がわからないんですよね。

それがApple Cardを使うと「あ、この店は1%、あの店は2%、Apple Storeで買い物すると3%だ」とすぐにわかります。

これを、先ほどのように若い子たちが使うようになると、「この店は1%なんだ。なんで2%じゃないの?」という風に、還元率によって“店のブランド価値が変わる”んじゃないかと考えるようになりました。 実際、お気に入りのカフェが1%だったりすると嫌ですよね。どこまでアップルが「考えてやってる」のかわかりませんが。

業界単位で還元率が決められているのではなく、お店側が2%とか3%の比率を決められるのであれば、1%というのはちょっとケチなように見えるかもしれません。キャッシュバックが毎回見える化されるようになったことで、若い子たちが気にするようになるんじゃないでしょうか。

アップルカード

出典:アップル

── 最初のアップルの説明だと、Apple Cardの物理カードを使うと1%、Apple Payの非接触決済で2%、アップル関連ストアの買い物で3%(現在はUberも追加)。実情は、お店によって比率が違う?

吉川:いま見ると違いますね。全て物理Apple Cardで買い物しているのですが、航空会社でフライトを予約したら1%だったのが、近所のパン屋やスポーツ用品店で買い物したら2%だったりしますね。まだ私も実験中ですが。

還元率は誰が決めているのかわからないのですが、ここまで見えるようになってしまうと、「うち2%にしてよ」とか出てくるんじゃないですかね。今までもUberのカードみたいに利用分がポイントで蓄積されていって、後でポイントをキャッシュ変換できるサービスはありました。けれども、こういう風にリアルタイムで反映されるサービスはなかった。

実際、買ってから「おっ、3%戻ってくるじゃん」というのは嬉しいですよね。そういえば五島さん、Apple Cardをアクティベーション直後に使ったら10%バックがあったんでしたっけ?

Daily Cash

Daily Cashは還元率が店ごとに異なる。

提供:吉川欣也氏

Daily Cash

数時間前の買い物の還元率が数時間から1日程度で反映される(写真は272ドルの買い物に対して3%キャッシュバック)。

提供:吉川欣也氏

10%ものキャッシュバックがあった?

五島:私は「Apple Cardを最初に使うならここだろう」ということで、アクティベーション直後にApple ParkのVisitor Centerにあるカフェで使いました。すると、10%キャッシュバックになっていました。

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10%のキャッシュバックが付与された際のスクリーンショット。

提供:五島正浩氏

── Daily Cashっていうのは、その場ですぐに還元額がApple Pay Cashに振り込まれる形なのでしょうか? 付与のタイミングとかが気になります。

吉川:いま見ているとけっこう違いますね。1時間くらいというケースもあれば、先ほどの3時間前の買い物は、まだ保留状態だったりします。

付与に1日近くかかることもありますし、まちまちの印象です。不正利用防止のためにいろいろ裏で何か行われているのかもしれません。

── あと、吉川さんはすぐに「カード番号の再発行」を試したと聞きました。

吉川:友人や知人の前で、よくデモンストレーションをするので、それが終わったらすぐに新しいカード番号を再発行して、「ワンタイムパスワード」的に使っています。なので、今では「カード番号ってこういうのでよかったんだ」と思っています。出張に行くたびに変えればいいので、盗まれそうだなと思ったらその場で変えちゃえばいいんですよね。

── 物理カードも再発行は必要ないんですか?

吉川:物理カードはそのままですね。番号を変えても、カード自体を落とさない限りは自分と紐付いているようです。これは根本的にセキュリティーの考え方が変わりますよね。

また、いまはApple Cardの情報を入れていないのですが、定例的に引き落とされるサブスクリプションのようなものだと困るので、Apple Cardを2枚持つのもいいかなと(2枚発行してもらえるかはわからないですが)。

ただ、Apple Cardの登場によってクレカの使い方がいろいろ変わるのは間違いないだろうなと感じています。

あと、些細なデメリットとして、「カード番号が見えないので、いちいち確認する」必要があります。番号を打ち込むのが(スマホの画面で切り替えながらやる必要があって)めちゃくちゃ面倒なので、やはりApple Payとかあらかじめ入力されている情報で支払いたいですね。

Apple Cardは「白」くない?

アップルカード

五島さんと吉川さんのApple Cardの券面。生活スタイルの異なる2者で、まったくアプリ上の色あいが異なることがよくわかる。

五島:物理カードが真っ白なので「Apple Cardは白いんだ」と思ってる人はまだ多いですよね。私も白いカードを見せ合うのが「自慢ポイント」なのかと思っていたのですが(笑)、3週間使っていて視点が変わってきました。

Apple Watchにカードを登録してApple Payで支払っているのですが、自分が使った用途に合わせた「色」がWatch上に出てきて、この色が変わっていくのが面白いんです。

例えばレストランだとオレンジ、旅行だと緑色(ジャンルは推定)だったりするのですが、使った履歴に合わせて、ダイナミックに色あいが変わっていくんです。ヘルスケア関連アプリとかではないですが、日々の活動状況に応じて色あいが変化して、個性が出てくるわけですね。これをインスタにアップロードしてみたりとか、そういうことを楽しむこともできそうです。

クレジットカード会社ではないからこそできること

apple card

Apple Cardの公式サイト(アメリカ版)。

出典:アップル

── 1カ月弱ほど使ってきて、Apple Cardは今後メインのカードにしますか?

五島:ここまでApple Cardをメインで使ってきましたが、最近Apple製品をApple Storeで買うことが増えたんですよね。そこで3%がつくのは大きいです。

またApple Pay Cash(アメリカで使える個人間送金機能)をけっこう使っていて、妻とのお金の精算はiMessage経由でやりとりしています(Apple Payにおける送金は、いったんApple Pay Cashの口座にプールされる)。ここにDaily Cashがたまっていくわけで、使い方としては自然な流れですよね。

吉川:Apple Cardもきたし、今年はカード整理の年だという気がしてます。個人的に(出張が多いため)ユナイテッド航空やサウスウェスト航空のものをもっていましたが、エアライン系のカードは(還元率や利便性の観点で)使わなくなりそうです。

あとは、Uberやアマゾンのカードがありますが、これとApple Cardを組み合わせつつ、1枚くらいBank of America(銀行)のカードを残しておこうかなと。 いままでのカードは情報を盗まれてからの対応が面倒で、再発行依頼から物理カードが届くのに5日とか10日間かかっていました。それが、Apple Cardではスキミングの心配がないので海外で安心して使えます。

まだ海外で使っていないのでわかりませんが、サインもないですから。もっとも、中国や日本では、(サインがどこにもないので)利用を嫌がられる可能性はあるかもしれません。

五島:ユナイテッド航空のカードもマイレージがたまるのでいいかと思っていたけど、期限がくると失効するし(注:ユナイテッド航空は2019年9月以降にマイル有効期限を廃止している)、マイレージそのものが制限が多いですよね。

それより、日々の買い物がDaily Cashでバックされるカードが日常生活に入ってくる方がいい。そういったものをメインに使いたいと思います。

── Apple Cardを含む今後のAppleの決済ビジネスに期待することはありますか?

吉川:アップルはカード発行の基準を下げて、学生を含む広い層にApple Cardを提供しようとしていると聞きます。こうしてApple Cardを通じて日々の活動が可視化されるなかで、学資ローンなんかをやっていくのか、進化の行く末が楽しみです。

かつてiPodが進化してiPhoneへと至ったように、ソフトウェアとハードウェアをセットにしてアップルがどのように金融を考えていくのか。あるいは単純な使い勝手のいいカードのアプリで終わるのか。

アメリカではやはりキャッシュは使わないので、AppleTVとかニュースとか、サブスクリプションがリンクしたときに見え方が変わってくるのか、そのあたりに興味があります。

五島:クレカというとポイントとかの比較になりますが、それよりはソフトウェア的なところ、例えばiPhoneから日常的なアクティビティが見られるとか、そういう1つのカード会社ではできなかったところに期待したいと思います。

吉川:もう1つ、「言葉の使い方が違う」のも興味深いです。カード会社って「Pay Early」みたいな「早く払って」という表現をしないんですよね。やはり手数料がほしいので。

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iPhoneのアプリ画面から。金融っぽくないわかりやすい表示、というのもポイントの1つ。

出典:吉川さん提供

アップルをひいき目に見ると、Apple Cardにあるような「Pay Early」の表現は金融業界の表現とは全然違います。いままでになかった、わかりやすいものといえそうです。

アップルはカード審査の基準を低くして学生も含めて広くApple Cardを提供しているようですが(※1)、今後初めて使うクレカがApple Cardという学生たちにBank of Americaとかのカードを作らせたら、めちゃくちゃ古く感じるかもしれません。

今後、初めて使うクレカがApple Cardという学生たちにBank of Americaとかのカードを作らせたら、めちゃくちゃ古く感じるかもしれません。

これから、そうした層が4〜5年でどんどん出てくるわけで、「初めてのカードがApple Card」世代がどんな体験をしていくのか。非常に楽しみでもあります。

五島:クレカ会社も新しい競争が生まれてどんどん改善していくんじゃないですかね。

吉川:Googleが「Google Card」のようなものを出してもいいと思うんですよね。

※1 Goldman Sachsが公開している資料によると、設定される年間の利率(APR:Annual Percentage Rate)は12.99%から23.99%までとかなり幅がある。各個人のクレジットスコアなどを勘案して設定されるとみられ、使っているうちに利率が変化するほか、学生などの信用が低い個人には上限に近い利率が設定される可能性もある。必ずしも同じ条件でApple Cardが利用できるわけではないと考えられる。

(文・鈴木淳也)


鈴木淳也:モバイル決済ジャーナリスト/ITジャーナリスト。国内SIer、アスキー(現KADOKAWA)、@IT(現アイティメディア)を経て2002年の渡米を機に独立。以後フリーランスとしてシリコンバレーのIT情報発信を行う。現在は「NFCとモバイル決済」を中心に世界中の事例やトレンド取材を続けている。近著に『決済の黒船 Apple Pay』(日経BP刊/16年)がある。

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