会場には発表された製品を含め、すべてのSurfaceシリーズが並ぶ。
撮影:西田宗千佳
マイクロソフトが、同社のハードウエア製品「Surface」シリーズで一気呵成(かせい)の勝負に出た。10月2日(現地時間)、米ニューヨークで発表会を開催し、2020年発売の2製品を含む7つの製品群を発表したからだ。
発表会後のハンズオンでわかった「新機種の魅力」を語って行きたい。
一挙発表されたSurfaceシリーズ7製品の全実機
左が電話もできてAndroidベースのSurface Duo、右がWindows 10 XベースのSurface Neo。どちらも発売は2020年ホリデーシーズンと1年後ほど先。
撮影:西田宗千佳
今回の新製品というと「Neo」「Duo」の2画面Surfaceが話題。だが、これらの機種はハンズオン会場で試すことはできなかった。あくまで「すぐに発売される製品」のみがハンズオン対象だった。会場では多少遠いところから写真を撮ることだけが許された。
Surface Duo。2枚の液晶を使った2画面で、他の2画面スマホとは違い、1枚の有機ELを折り曲げたものではない。
撮影:西田宗千佳
「Surface Neo」の実機。二つ折りを強く意識したWindows 10の新バージョン「Windows 10 X」を採用。外付けキーボードを上に置いてタイプもできる。このサイズに主要キーをおさめるため、右端のキー配列がやや特殊であることがよくわかる。
撮影:西田宗千佳
これらの2画面Surfaceが出るのは2020年のことなので、まだ少し先。まずは現行Surfaceの進化をアピールしたい、というのがマイクロソフトの狙いだったのだろう。
今回はPCとしては、「Surface Pro 7」「Surface Pro X」「Surface Laptop 3」を発表し、その他に完全ワイヤレス型イヤホン「Surface EarBuds」を発表している。
Surface Pro 7。現行Surface Pro 6の正常進化版だ。
撮影:西田宗千佳
「Surface Laptop 3」。左がグラフィック性能重視の15インチモデル、右が13.5インチモデル。
撮影:西田宗千佳
マイクロソフトの完全ワイヤレス型イヤホン「Surface EarBuds」。249ドル。日本での発売は未定。
撮影:西田宗千佳
「2画面」はまだ先、野心的な最新「Surface Pro X」の正体
CPUにARM系・マイクロソフトオリジナルのチップ(SoC)「SQ1」を採用した「Surface Pro X」。日本での発売意向はあるものの、時期は未定。キーボードの上端にペン収納スペースがあるのが見える。
撮影:西田宗千佳
3つのPCの中で最も話題が豊富なのが「Surface Pro X」だ。日本でも「発売意向はある」とマイクロソフト側はコメントしているが、後に述べる2製品と異なり、具体的な価格や発売時期は公開されていない。
これまで、Surfaceの主力製品である「Surface Pro」シリーズでは、すべてインテルのCPUが使われていた。それがSurface Pro Xでは初めて、ARM系プロセッサーである「SQ1」を採用した。
SQ1はマイクロソフトのSurface専用プロセッサーで、Qualcommと共同開発されたもの。LTEモジュールも搭載しており、スマートフォンのように携帯電話ネットワークに常時接続し、通信ができる。
Surface Pro Xの内部。手前にある切手のような小さなものが、新規設計のプロセッサーである「SQ1」だ。
撮影:西田宗千佳
現在のWindows 10では、ARM系プロセッサーを採用した場合でも、エミュレーションによってx86系CPU用のWin32アプリケーション(いわゆる普通のWindows用アプリ。ただし32ビット版に限る)を動かすことができる。そのため、対応アプリであれば、ARMかx86かを気にせずに使える。
ただし、すでにレノボやサムスンから発売されている、ARM系プロセッサー(QualcommのSnapdragon)を使ったPCの場合、メインメモリーが4GBしかなかったり、ストレージが128GBしかなかったりして、性能面でかなり不満があった。しかも価格は十数万円で、一般的なPCと変わりなく、費用対効果の課題を指摘する声は少なくない。
だがSurface Pro Xの場合、メモリーが最大16GB、ストレージも最大512GBと、一般的なPCと同じように選べる。
Surface事業トップのパノス・パネイ氏は筆者の質問に答え、「PCとして妥協のない使い勝手を実現するために、いわゆる『モバイル系』プロセッサーではなく、PC用プロセッサーを開発する必要があった」と話す。
Surface Pro Xのシステム表記。CPU名は見慣れぬものになっているが、メモリーが16GBあり、「ARM Based Processor」表示であることに注目。
撮影:西田宗千佳
本体のサイズは従来のSurface Proとさほど変わらず、より薄く、より軽くなった。さらに、ディスプレイは12.3インチから13インチへ大きくなり、見やすくなった。
Surface Pro Xは厚さ7.3mm。Surface Pro 7(8.5mm)より薄い。明暗の関係で見辛いが、USB Type-C端子が2つあるのが見える。
撮影:西田宗千佳
Pro Xの右側面。
撮影:西田宗千佳
また、取り外し式のキーボードである「タイプカバー」は新モデルになり、専用タッチペン「Surfaceペン」を収納・充電可能になっている。
カバーのキーボードと本体の間に入る形でかなり巧みなデザインだ。本体を薄くするため、タイプカバーとSurface本体をつなぐコネクターは新しいものに変わっていて、Surface Pro Xでしか使えない。その点も含め、完全な「新世代Surface Pro」といっていい製品になっている。
Surface Pro X用タイプカバー。薄いペンをカバー側に収納し、充電できる。タイプカバーに既存のSurfaceシリーズとの互換性はない。
撮影:西田宗千佳
一方、Surface Pro Xがパーフェクトかというと、課題も抱えている。ARM系プロセッサーを使っているだけに、従来のWindows用アプリケーションの互換性問題があるからだ。現在増えている、x86系CPU向けの64ビットアプリが使えないのだ。
例えば、アドビのプロ向けアプリやビデオ編集ソフトなどがその代表格といえる。また、業務用カスタムアプリなどで「動作に不安がある」という人もいそうだ。
Surface Pro 7。Pro Xほどの新奇性はないが、従来モデルからさらに進化した安心感のある製品だ。
撮影:西田宗千佳
そうした「より一般的であること」を求める、比較的保守的なモデルとして用意されたのが「Surface Pro 7」だ。こちらは現行の「Surface Pro 6」の進化モデルであり、タイプカバーなどの周辺機器にも完全な互換性を持つ。USB Type-C端子を本体側面に搭載し、USB Type-C経由での充電もできる。
「Surface Laptop 3」は完成度が高いMacBook Proキラー
Surface Laptop 3。マイクロソフトが「世界で最も顧客満足度の高いノートブック」と主張する前モデル(Laptop 2)のの進化版。
撮影:西田宗千佳
ルックスこそ保守的だが、非常に完成度が高いのが「Surface Laptop 3」だ。
現行のSurface Laptop 2は、13.5インチのディスプレイを備え、キーボード側の表面にファブリック的な素材の「アルカンターラ」を使っていることが特徴だった。
スタンダードなラップトップ型としては完成度の高い製品だったが、インターフェースに近年流行のUSB Type-Cがないなど、仕様に古さもあった。
今回新型は大きく変わった。
まず、サイズが13.5インチと15インチになり、キーボード面が「金属」むき出しの、一般的なテイストのものも用意される。15インチは「金属のみ」だ。
左が15インチモデル、右が13.5インチモデルのSurface Laptop 3。CPUも、15インチがAMD、13.5インチがインテルと分かれている。
撮影:西田宗千佳
CPUも変わる。13.5インチはインテル製のCPUを採用するが、15インチはAMD製の「Ryzen 5モバイル/Ryzen 7モバイル」を採用する。
15インチモデルを用意した理由を、マイクロソフトの担当者は「グラフィックパフォーマンスに尽きる」と語る。
RyzenはGPUパフォーマンス(グラフィック性能)が高いことで知られており、ゲームやエンジニアリング、ビデオ編集など、よりグラフィック派フォーマンスを求める人々に向けたモデルとして、15インチモデルを用意した格好なのだ。
なお、13.5インチで採用されているインテル製のCPUも開発コード名「Ice Lake」と呼ばれるGPUを強化したバージョン。だから、従来モデルよりはパフォーマンスがかなり上がっていると期待できる。
今回からUSB Type-Cも搭載し、こちらからの充電も可能になっている。
ディスプレイの解像度が高いこと、ボディの完成度が高いことなどから、アップルのMacBook Proなどと比較されることの多い製品だったが、Laptop 3ではさらに完成度を増して、お買い得度ではMacBook Proより上になった。性能面も含め、きわめて充実した製品になっていると感じた。
なお、今回の3製品群では、内部のストレージを「とりはずせる」ようになった。これは修理などの際、ストレージを取り出しての活用や交換が容易なように、という配慮に基づくものだ。
Surface Laptop 3の内部。「256GB」と書かれているのがストレージで、取り外し可能な設計になっている。だが、特殊なネジで止められていて、個人による取り外しや交換はサポート対象外だ。
撮影:西田宗千佳
では自分で交換できるのでは……と思われそうだが、マイクロソフトとしてはそれを保証しない。本体は特殊なドライバーを必要とするビズで止められていて開けることはできない。マイクロソフトが認定する修理業者のみがアクセス可能としている。
(文、写真・西田宗千佳)