経団連の発表によると、冬のボーナスの支給額は2年連続で過去最高を記録しているという。
撮影:今村拓馬
冬のボーナスのシーズンが近づいてきた。
経団連の11月14日の発表によると、大手企業の冬のボーナスは1人当たり平均額が96万4543円で、2年連続で過去最高を更新したという。
一見「景気が良くなった」感じがするニュースではあるが、20〜30代の若手世代はお財布にゆとりあるボーナス月と言われても、ピンと来ない人も少なくない。その理由を尋ねた。
冬ボーナスは奨学金に消える
「もらえてるとは思うけれど、毎日12時間以上労働の対価に見合っているかはわからない」とリュウイチさん(25)。
「時計とか買いたいものはありますけど、何も買わないと思います」
都内の有名ITベンチャーで営業として働くリュウイチさん(25)の冬のボーナスは約40万円。年収も450万円ほどで、25〜29歳の平均給与の326万円(国税庁)を大きく上回る額ではあるが、リュウイチさんは浮かない顔だ。
「奨学金を返さなければならないんです。普段は毎月数万円を返してますけど、ボーナス時期は10万円単位で飛んでいきます。いままでに貯めたお金も、地元で使う車代や奨学金に消えていたので、ほとんど貯金もないですし」
リュウイチさんは昨年までバイトとして働いていたが、今年同じ会社で晴れて正社員に。今回が初めてもらえる高額ボーナスだ。
待遇は良くなったが、仕事はさらに厳しくなった。毎日平均して午前9時から午後11時頃まで働いており、土日もほぼ稼働。「自分は特別多くもらえているとは思うけれど、労働環境に見合う対価をもらっているかはわからない」とボヤく。
数年前に宮崎県から上京してきたリュウイチさん。地元には、年収200万円台の友人も多く、「ボーナスが史上最高額」のニュースからは縁遠い人ばかりだ。
「『東京に行けばそれだけもらえるの?』って言われることも多いですけど、そんなことは絶対ないと思う。みんな夢を見すぎなんじゃないかな」
月15万円あれば生きていけますよね
「いま必要なのはお金よりスキル」というのはユウスケさん(29)。
そもそも、冬ボーナスとは無縁の生活を送っている人も多い。
「退職の前に読むサイト」 編集部が、社会人217人を対象に、ボーナスの支給額を尋ねるアンケートを実施したところ、ボーナスの支給はないと回答した人も2割近くいた。
ユウスケさん(29)は、大学を卒業してからいまに到るまで、ボーナスを受け取ったことがない。手がけてきた仕事は、派遣労働やバイトなどが主で、現在の手取りは23万円ほど。
「結婚する気も子どもを持つ予定もないので、貯金をする意味もないかなと。しばらく前までは実家暮らしだったので、月15万円あれば生きていけますしね」
現在は彼女と同棲して、毎月5万円の家賃を負担している。
貯金は「毎月1~2万円できるかな、くらい」だというが、そのことに不安や焦りはない。「お金よりも必要なのはスキル」だと考え、キャリアアップが望める仕事を探している最中だ。
「自分以外の人の責務を負っているなら、貯金は必要かな。バイト先で『結婚したいな〜』と言ってる人もいますけど、だったら貯金しなよ、って思ってしまいますね(笑)」
結婚資金に250万円貯めないと
貯蓄がないばかりに結婚・出産をためらう20〜30代も多い。
「上場企業のボーナス額のニュースを聞くたびに、世の中にはお金があるんだなって。でも(そんな企業は)少ないですよね。数パーセントって世界だから、もはや自分と比較もしないですけど」
都内のITベンチャーで正社員として、働くハルナさん(30)も、ボーナスシーズンにピンとこない一人だ。
転職を3回重ね、現在の月給は手取りで30万円台。特別に不自由を感じていないが、会社は年俸制を取っているため、ボーナスは支給されない。それでも、ハルナさんは将来へ向けて貯金をしっかりとしている。
「毎月のお給料をもらったら、3分の2は使って3分の1は貯金、と決めています」
貯金をする目的は、自身の結婚式のためだ。
「メイクに衣装にと女性の方がお金がかかるじゃないですか。どう考えても、色々なオプションをつけたくなると思う。そういう時に妥協したくないんです。500万円かかるとして、夫婦で折半するとしても250万円は貯めないと」
結婚、出産、さらに子どもの学費や生活費……。将来のことを考えれば、いくら貯金しても、しすぎることはない。そんなハルナさんだが、いまのところ結婚する予定はないという。
「え、でも絶対しますよ。独りで生きるのはイヤですね。相手はこれから見つけますけど、見つかったあとに(貯金がなくて)後悔したくないので」
奨学金に消える、そもそもボーナスは無縁、お金にゆとりはあっても将来のために貯金 —— 。ボーナス月とは言っても、パーっと景気よく使う発想にはならないのがいまの若年層のリアルな現実なのかもしれない。
(文・西山里緒、写真・今村拓馬)