「女性専用車両は戦場」報道に批判の声。TBS取材に答えた女性が「誤解」と告白、局は謝罪

女性専用車両に乗りたくない女性たちが増えていると、テレビのワイドショー番組やウェブメディアなどが相次いで報じている。「戦場と化した女性専用車両」「女たちのバトル」と題して一部の女性たちの声を伝える一方で、反論がTwitterでトレンド入りするなど、報道姿勢そのものへの批判の声も多く上がっている。

TBS「Nスタ」の街頭インタビュー取材に答えた女性は「内容が正しく伝わっていない」と訴え、本日1月17日、TBSは番組内で訂正、謝罪した。メディアで一体、何が起きているのか。

あぶらとり紙がTwitterトレンド入り

女性専用車両

相次ぐ報道を受け、SNSでは「#女性専用車両は必要です・シェルターです」などのハッシュタグで女性たちがその重要性を訴えるなど、危機感を募らせている(写真はイメージです)。

shutterstock/Ned Snowman

女性専用車両特集を組んだのは、テレビ朝日系「羽鳥慎一モーニングショー」(2020年1月13日)、Jタウンネット(同上)、TBS系「グッとラック!」(1月15日)、TBS系「Nスタ」(同上)などだ。

Jタウンネットの「女性専用車両は臭くて汚い? 利用者が明かす実態」と題された記事で紹介された、

「女性専用車両はとにかく汚い。使用後の丸めたあぶらとり紙が散乱している」

という女性の声に対しては、「そんな状況を見たことがない」「そもそも今はあぶらとり紙を使う女性自体が少ないのでは」などの反論がTwitterに多く投稿され、「あぶらとり紙」は15日のTwitterトレンドに入った。

「羽鳥慎一モーニングショー」では「戦場と化した女性専用車両」「女たちのバトル」として、

  • ブランドかぶりでマウント奪い合い
  • ファーやポニーテールが顔にパサパサと当たって痒くなり、くしゃみをしたら怒られた 
  • 周囲の視線を気にせずスマホに没頭
  • スペースの奪い合いから小競り合いに発展 

などの事例を街の女性たちのインタビューなどをもとに紹介。スタジオで「『同じブランドで私のは新作よ。あなたのは旧作よ』なんていうマイナーチェンジに女性は結構目が光ってる」と説明した。これに対しても「ブランドかぶりなんて気にする人はいない」「スマホを見ているのは普通車両も同じ」などの投稿が多く見られ、違和感を感じた女性は多かったようだ。

「女同士の争い」「男の目があれば」は誰得?

電車

「みんな体幹がなさすぎて、ちょっと揺れたらワーってなって。 お父さんたちが支えてくれてないと、ああなっちゃうんだなって」など、男性の不在を嘆く声も紹介された(写真はイメージです)。

GettyImages / Kirsty Lee / EyeEm

どの報道にも共通するのは、女性が女性専用車両に「乗らない・乗りたくない」理由として、“女性の装いならでは”の問題があるという声を紹介していたことだ。「化粧や香水のにおいがきつい」「他人の化粧がつく」「ヒールが怖い」「体が当たった仕返しにハイヒールで無言の反撃がある」などがあげられていたが、これらに対しても「そんなこと思ったこともない」「まず化粧しないと失礼だというマナーを完全に日本から消してくれ」などの疑問や批判の投稿があった。

女性専用車両でトラブルが起きる背景について、インタビューを受けた女性たちやスタジオの出演者からは、「男性の目がないから好き放題やっちゃう」「男性がいたらある程度は遠慮するんじゃないか」という意見が出ていたが、そもそも女性専用車両は痴漢被害対策の一環だ。その加害行為を透明化し、一部の女性が主張するマナーの悪い女性を取り上げ、「女 vs. 女」の構図を強調するような特集そのものが女性差別的だという意見もある。

「香水をたくさんつけるのもゴミ捨てるのも人の持ち物チェックするのも、そういう人がいれば起こる事で、女性専用車両一つも関係ない

「女性の目があっても男性は股をガッと開いて座ってるし、ベビーカーの女性には嫌がらせするし、痴漢されても誰も助けてはくれないわけで、女性を性的な対象としてしか見なさない男性目線が女性専用車両を作り出してしまったのに『男性の目がないから』と男性目線で言われても

「『女は男の目がないとガサツになる。男を意識するからこそ美しく振る舞う』という妄想」

「価値観がアップデートされていない。今は2020年でお互いに助け合おうとしている女性たちがたくさんいるんだよ、目覚まして」(Twitterより)

インタビューが逆の意味に

電車

「女性はどこの車両にも乗れて男性が1両目以外にしか乗れないのは、不公平」と話す男性も(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

「羽鳥慎一モーニングショー」では、

「隣の女性専用車両に行けば座れるのに、混んでる一般車両に乗るあなたのせいで座れない男がいる」

「Nスタ」では、

「女性しか乗れない女性専用車両があるのだから、一般車両の座席は男性に譲って欲しい」

というネットの男性の声を特集の冒頭で取り上げている。つまり特集自体が男性目線の問題設定になっているのだ。

上記ネットの投稿とそれが話題になっていることを知った上で、番組の取材に協力したという20代の女性は言う。

「こうした男性の意見についてどう思うかと聞かれたので、『その言い方だと女性は普通車両に乗ってくるなととらえられる。それは今のご時世的にはどうなんだろう』と答えました。でもまるで男性の肩を持っているような編集になっていて、驚きました。女性専用車両を批判したつもりはないのに」(女性)

女性のインタビューが使用されたのは「Nスタ」だ。

「その存在を必要とし積極的に利用する人が多い一方で、いま一部の女性たちから湧き上がっている本音」というナレーションの後に、「乗らない派」というテロップ表示と共に、「逆に言えば、女性は普通車両に乗ってくるなと聞こえてしまうので、それは今のご時世的にはどうなんだろう。性差別というわけではないが」というインタビューが放送された。女性がインタビュアーから問いかけられた質問内容はない。

女性のインタビューの後には「聞かれたのは、なぜ女性だからと言って女性専用車両に乗らないといけないのか?という声」とナレーションが続く。女性の前には「乗らないですね」「自分的にはいらない」という2人の女性の声が紹介されていた。

メディアは痴漢被害をどう報じてきたか

リップ

「Nスタ」では「電車内のメイクどこまで許せる?」と題し、口紅・ファンデ・香水・髪の毛の4項目に分けてスタジオで議論が行われた(写真はイメージです)。

shutterstock / ViewFinder nilsophon

女性のインタビューを「女性専用車両は男性差別」という趣旨の意見だと受け取る視聴者は少なくないだろう。女性は自身も学生時代に痴漢被害にあった経験があるそうだ。下着の中まで手を入れられたため、相手の手をつねってドアが開くのに合わせて押し出したという。

「最後は思いっきりにらみました。その日は急いでいたので駅員に突き出したりはしなかったけど、私自身は当時の自分の対応に納得しています。

でも痴漢被害にあった人の中には、声すら上げられず大変な思いをしている人がたくさんいる。そういう人たちの場所として女性専用車両があると思います。

私自身は女性専用車両はあまり利用しませんが、使いたい人が使えばいいし、必要な人がいるのだからなくすべきじゃないと思っています」(女性)

Business Insider Japanが1月17日午後、TBSテレビ広報部に本件を問い合わせたところ、同日18時50分に「ご指摘を頂いた件は、本日17日放送『Nスタ』の午後6時半過ぎに訂正しお詫び致しました」(TBSホールディングス/TBSテレビ・社長室広報部)と回答があった。

Nスタ内では「街頭インタビューを受けていただいた女性のご意見、その内容を十分にお伝えできず、女性専用車両に乗らない派として紹介してしまいました。協力いただいた女性の方にお詫び申し上げます。失礼しました」と謝罪していた。

東京メトロ広報によると、2018年4月から現在まで、女性専用車両内での女性同士のトラブルは「腕を振り下ろされて当たった」などが数件あったが、その他に番組などで紹介されているようなものは把握していないという。

また過去には男性らが乗り込む「任意確認乗車」が問題になり、中には遅延したケースもあった(2018年2月)が、これも2018年4月以降は把握しておらず、「落ち着いている状態」だという。

JR東日本にも同様のことをたずねたが、「個別の具体的な問い合わせ内容や件数、また個別の事例については回答を差し控える」(広報部)とのことだった。

ちなみに「Nスタ」が街で50人に聞いたところ、40人が女性専用車両を利用したいと回答したそうだ。

今回のメディアによる一連の女性専用車両特集には、女性を中心に多くの批判や疑問の声が上がっている。根底にあるのは、痴漢をはじめとした性暴力報道への不信感だろう。メディアは痴漢に「NO」を突きつけてきたのか。女性たちのマナーを問題視する前に、報道が果たすべき役割があるはずだ。

(文・竹下郁子)

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