2021年7月9日の時点でのラムダ株の分布。
- 新型コロナウイルスのラムダ株は、公衆衛生に懸念をもたらす最新の変異株の一つだ。
- 最近発表された査読前の研究論文では、この変異株が抗体を回避して迅速に拡散する可能性が示唆されている。
- しかし、ある研究者は必要以上に心配する理由はないと述べている。ラムダ株の症例の割合は、ある場所では増加しているが、減少している場所もある。
新型コロナウイルスは変異していくつもの系統に分かれており、その中には問題になるものもある。
ラムダ株は、最近注目を集めているコロナウイルスの変異株だ。2020年にペルーで初めて確認され、その後、南米の他の国や世界中に広がっている。
世界保健機関(WHO)は2021年6月15日、ラムダ株を「注目すべき変異株(variant of interest)」と宣言した。その理由の一つは、ラムダ株には通常とは異なる危険な変異、つまり、特別な感染力や危険性があると疑われているからだ。ちなみにデルタ株も最初は「注目すべき」だったが、その後「懸念される変異株(variant of concern)」に昇格した。
ラムダ株と抗体の関係
日本の研究者が最近発表した査読前の論文によると、ラムダ株のスパイクタンパク質の3つの変異が、ワクチンによる抗体に抵抗できるようにする可能性があるという。
論文の中で研究者たちは、ラムダ株が人間社会にとって脅威になりうると書いている。
「ラムダ株は、ワクチンによる抗血清(特定の抗原に対する抗体を含む血清)に対して比較的耐性があるため、この変異株がブレイクスルー感染(ワクチンを接種していても感染すること)を引き起こす可能性があるかもしれない」
この研究によると、その他の2つの変異が、この変異体の感染力を高めているという。
しかし、チリ大学サンチアゴ校の研究者で、ラムダ株を研究しているリカルド・ソト・リフォ(Ricardo Soto Rifo)博士は、BBCのポッドキャスト「Health Check」で、「注目すべきものではあるが、まだ慌てる必要はない」と語っている。
ラムダ株は一様に拡大しているわけではない
ソト・リフォ博士によると、3カ月前、チリではウイルスの遺伝子配列を決定した症例の半分がラムダ株だったが、現在は23%程度に減少している。しかし、ペルーでは、ラムダ株がますます優位になっており、現在では配列決定された症例の80%を占めている。
「他の国で何が起こるかはわからないが、この変異株の感染が拡大しているという証拠も、病気の重症度が増しているという証拠もない。ラムダ株がワクチンによる免疫から逃れているという証拠もない」とソト・リフォ博士は述べている。
世界の人々がこの変種を理解するためには、南米での研究が必要
8月4日の時点で、アメリカでは少なくとも1053件のラムダ株の感染事例があり、そのうち12件は過去4週間以内に確認されている。しかし、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)のウェブサイトでは、ラムダ株はデルタ株などの「注目すべき(notable)」変異株にはまだ加えられていない。
ソト・リフォ博士は、南米の国々には変異株の遺伝子配列を決定して追跡を行うための資金やリソースが必要だと述べている。ラムダ株が本当に高い感染力を持っているのであれば、世界的に広まっているデルタ株と同様に、患者数が急増する可能性がある。感染者数が増えれば、ブレイクスルー感染も増えることになる。
しかし、これまでのところ、ラムダ株が非常に感染力の高いデルタ株を超えるという証拠はまだない。
ニューヨーク大学グロスマン医学部の微生物学者であるナサニエル・ランドー(Nathaniel Landau)は、ニューヨーク・タイムズ紙に次のように述べている。
「この変異株について必要以上に心配する理由はないと思う。デルタ株よりも脅威になるという根拠はない」
[原文:The Lambda variant is dominating Peru, but experts say there's no evidence it's worse than Delta]
(翻訳、編集:Toshihiko Inoue)