グーグル(Google)親会社アルファベット(Alphabet)のサンダー・ピチャイ最高経営責任者(CEO)。
REUTERS/Brandon Wade
グーグル親会社アルファベットのサンダー・ピチャイ最高経営責任者(CEO)は2月15日、社内メールを通じて、同社が検索エンジンに統合を計画している対話型人工知能(AI)「Bard(バード)」のパフォーマンス改善を加速するため、全従業員が2~4時間程度の使用テストに協力するよう求めた。
Insiderが独自のルート経由で確認したこの社内メール(本記事後半に全文掲載)からは、AI搭載の次世代検索エンジン開発競争で覇権を握りたいグーグルにとって、事態がいかに切迫しているかが読み取れる。
1月23日、マイクロソフトは米研究団体OpenAI(オープンエーアイ)に「複数年にわたって数十億ドル」を追加投資(2019年、21年に続く資金提供)する計画を発表した。
同団体が2022年11月に一般公開した対話型AI「ChatGPT(チャットジーピーティー)」は、広範かつ無制約な質問に対し自然かつ的確に回答できることから、世界中で利用者が急増している。
その投資計画の発表からわずか2週間後の2月7日、マイクロソフトはChatGPTベースの新開発AIを搭載した検索エンジン「Bing(ビング)」のアップデート版を発表。サティア・ナデラCEOはこれを「検索の再発明」と呼んで、AIの近未来を次のように語った。
「AIは最大のカテゴリーである検索を手始めに、あらゆるソフトウェアカテゴリーを根本から変えていくでしょう」
そしてこの日は、2016年に「AIファースト」戦略を掲げるなど莫大な開発投資を続けてきたグーグルが、一夜にしてマイクロソフトに出し抜かれた事実が白日の下に晒(さら)された、決定的な変化の日でもあった。
アルファベットのピチャイCEOは冒頭の社内メールにこう記している。
「いま私たちが不快なほどに刺激的な転換点にいることは、十分認識しています。そして、それは起きて当然のことでもあります。AIを支える技術は大きな可能性を秘め、急速な進化を続けているのですから」
「私たちがいますぐにできる最も大事なことは、脇目を振らず、素晴らしい製品を作り上げ、責任を持ってそれを発展させることです」
※編集部注:「不快なほどに刺激的」という表現は、グーグル共同創業者のラリー・ペイジらが従業員を鼓舞する際に使った表現。
Insiderが確認した別の社内メールによると、グーグルは2月14日、自社開発の対話型AI「Bard(バード)」の社内テストに着手した。
ピチャイCEOの冒頭のメールによれば、すでに社内外を問わず数千人規模の使用テストがスタートしており、品質や安全性、回答の「依拠する情報の適切性」に関するフィードバックが始まっている模様だ。
グーグルの広報担当に取材したところ、以下のようなコメントが届いた。
「当社の従業員および信頼できる外部スタッフによる使用テストとそのフィードバックは、Bardのパフォーマンスを向上させ、ユーザーに満を持して提供できるようにするための重要な要素です。
自社製品の改善を目的として、従業員の声を取り入れるケースは当社にとって珍しいことではなく、それはグーグルの企業カルチャーの重要な側面でもあります」
マイクロソフトがChatGPTベースの検索エンジンを発表したその前日(2月6日)、グーグルはBardの試験提供を発表。
同日の公式ブログではデモ動画を公開したものの、例として使われた「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による新発見の中で、9歳の我が子に教えられるものは?」との質問にBardが誤った回答を示した(=太陽系外惑星の画像を初めて画像化したとの回答に、事実と異なるとの指摘が天文学者らから相次いだ)ために、想定外にネガティブな注目を集める結果となった。
この誤回答が話題を呼んだこともあり、年初来上昇基調が続いていたアルファベット株価は同日だけで8.9%下落。足元では1月半ばの水準まで逆戻りしている(2月15日終値ベースで年初来7.8%の上昇)。
また、米CNBCは、アルファベットのジョン・ヘネシー会長がBardについて「準備が本当に整っているとは言えないため、グーグルは製品として発表するのをためらっていた」と内幕を語ったことを報道(2月13日付)。
当事者である取締役会トップの発言だけに、大きな話題を呼んだ。
グーグルはここ数年、AI関連の取り組みをめぐる社内トラブルの解決に多大な労力を費やしてきた。
技術が追いつかない中で製品開発プロジェクトが先行すれば、偏見や誤情報の拡散など実社会に悪影響をもたらしかねないと懸念する声が社内で高まったからだ。
その文脈で言えば、新たなデータや信頼できるユーザー(テスター)からのフィードバックが、AI搭載システムの反応や回答をブラッシュアップするのに役立つのは間違いなく、マイクロソフトとの差を縮めたいグーグルにとってその(使用テスト規模拡大の)有用性は高い。
さて、前置きが長くなった。
過去の反省を踏まえ、冷静沈着にいまできることをやるだけ、といったテック業界の巨人らしい表現を交えながらも、マイクロソフトというはるかに長く大きな実績を持つ強大なライバルの攻勢を前に焦燥感と緊迫感を隠し切れないグーグル経営トップの社内メールを、以下に全文掲載する。
全てのグーグラー(従業員の皆さん)へ
Bardの一般公開に向けて社内テストが始まり、一丸となって取り組む皆さんの姿を見てワクワクしています。これは、私たちが責任を持ってこの技術を発展させていくための重要なステップです。
Bard開発担当チームの皆さん、製品テストのために時間を費やしてくださっている皆さんに、心から感謝します。まだテストに関する情報を確認していない方は、こちらのリンク(社内URLあり)先で確認できますのでチェックしてください。
いま私たちは不快なほどに刺激的な転換点にいる…そのことは十分認識しています。そして、これは起きて当然のことでもあります。AIを支える技術は大きな可能性を秘め、急速な進化を続けているのですから。
これはおそらく長い旅になるでしょう。ある分野にとどまらず、全ての人にとって。
私たちがいますぐにできる最も大事なことは、脇目を振らず、素晴らしい製品を作り上げ、責任を持ってそれを発展させることです。
そのために社内外の数千人規模におよぶスタッフが、Bardが生成する回答の品質や安全性、依拠する現実世界の情報の適切性のテストに当たっています。ユーザーや開発者の皆さんとともに、私たち全員がこの困難な課題と向き合い、(確認と修正の)反復を続けていきましょう。
私たちの最も大きな成功を収めた製品が、全て他社に先行して市場に出たわけではないことを忘れないでください。
ユーザーの核心的なニーズに応え、深遠な技術的洞察に基づいて開発を進めたからこそ、ようやく勢いを得て成功に至った製品も数多くあります。時間をかけてユーザーの信頼を獲得し、徐々にその数を増やしてきた実績が私たちにはあるのです。
いまこそ皆さんの力を貸してください。皆さんがこの刺激的な状況で感じている興奮とエネルギーを製品に注ぎ込んでください。Bardを徹底的にテストして、より良い製品にしましょう。
皆さんにはもう一歩踏み込んだ貢献、具体的には2〜4時間を割いて、使用テストへの協力をいただきたいのです。下に詳細を付します。
冬に耐え、春を迎える。その繰り返しを経て、AIはいま再び春を迎え、花開いたところです。
私たちは「AIファースト」企業を宣言し、長年そのための取り組みを続けてきました。準備は万端です。
ユーザーに素晴らしい体験を提供することだけを考え、私たち全員が誇りに思えるような製品を世に送り出しましょう。
サンダー・ピチャイ