グーグルのソフトバンクへのロボット売却は必然だ —— SCHAFT共同創業者・加藤氏に聞いた

ソフトバンクグループは6月9日、グーグルの持株会社アルファベット(Alphabet Inc)からロボット開発のボストン・ダイナミクス(Boston Dynamics)とSCHAFT(シャフト)を買収すると発表した。イヌ型の多肢ロボットの開発で知られるのがボストン・ダイナミクス。一方、SCHAFTはヒューマノイド型二足歩行ロボットを開発する東大発ロボットベンチャーで、2013年にグーグルが買収したことで脚光を浴びた。

ロボティクス分野の関係者たちを驚かせた金曜日の朝(日本時間)、サンフランシスコ郊外に住むSCHAFT・共同創業者の加藤崇氏は、今回のソフトバンクによる買収は必然だと語る。

ボストン・ダイナミクス社が開発したロボット「Spot」

Chip Somodevilla/Getty Images

リーダーシップの不在

BUSINESS INSIDER JAPAN:アルファベットが今回、ロボット開発企業を売却した背景にあるのは?

加藤:グーグルは、そもそもボストン・ダイナミクスやSCHAFTを含め、8社のロボット関連企業を同時に買収しました。グーグル・ロボティクス(Google Robotics)というロボティクス部門を2013年末にスタートしたアンディ・ルービン氏(Andy Rubin:Andoroidの開発者で当時グーグルの副社長)が、2014年10月に同社を辞任したことにより、残念ながら方向性を見失っていった経緯があります。

BUSINESS INSIDER JAPAN:ロボティクス部門トップの辞任は注目されました。

加藤:そうですね。その後ナンバー2だったジェームス・カフナー(James Kuffner)氏がトップに就任しますが、彼もシリコンバレーでスタートしたトヨタのロボティクス/AI部門子会社であるToyota Research InstituteのCTOとして引き抜かれ、Googleを後にしました。

二足歩行であるヒト型ロボットや、イヌ型の多肢ロボットなどは大変に制御が難しく、事業化するには10年とも言われるロングタームのコミットメントが必要である中、リーダーシップ不在の状況は致命的だったのではないかと思います。

このあたりでグーグルのシニア・マネジメントはロボティクス部門の処理に困ってしまい、2016年にはToyota(Research Institute)などを始めとして、売却の打診を開始したのではとの憶測が広がりました。

孫正義・ソフトバンク社長

Koki Nagahama/Getty Images

Pepperには脚がない

BUSINESS INSIDER JAPAN:「Pepper」を開発するソフトバンクの狙いは?

加藤:ソフトバンクはというと、2012年3月のタイミングで、小型ヒト型ロボットを開発していた仏アルデバラン・ロボティクス社(Aldebaran Robotics SAS)の株式80%の取得を皮切りに、徐々に持株比率を95%程度まで引き上げました。

日本市場において、Pepperというヒト型ロボットのプラットフォーム化構想を打ち出してきた歴史があります。おもちゃを思わせる小型ロボットであれば、アルデバラン社が開発した躯体とソフトで問題なく動作をさせることができるかもしれません。

これがそれこそ人間社会に入り込む、人間と同じくらいの背丈と体重を持ったヒト型ロボット、百歩譲って多肢ロボットということになると、世界でもこうした制御に慣れているのは、まさにグーグルが買収したボストン・ダイナミクスと、SCHAFT以外にはなかったのだと思います。

「Pepper」には脚がありません。車輪で動いているのを見るとよく分かります。ボストン・ダイナミクスのCEOであるマーク・レイバート氏(Marc Raibert)はMITのLeg Laboratoryを率いた人間で、まさに脚専門の人SCHAFTも二足歩行、つまり脚にどこまでもこだわった会社でした

今後のロボット革命とAI革命

BUSINESS INSIDER JAPAN:ソフトバンクが「Pepper」の先に見ているロボットとは?

SCHAFT共同創業者の加藤崇氏ーー2013年に同社をグーグルに売却後、サンフランシスコ郊外に住む。現在も、ロボットやAI関連の開発を行う。

提供:加藤崇

加藤:ソフトバンクの孫正義社長は、シリコンバレーのローカルネットワークに深く入り込んでいる数少ない日本人のプレイヤーです。彼のところに(売却の)話が持ち込まれたことに関して違和感はありません。

この買収を機に、ソフトバンクがこれから何をやりたいのかは、この段階では分かりません。ただし、コミュニケーション・ロボット、そのプラットフォームとしてのPepperの開発を下支えしたいという意図だけではないことは確かかと思います。

おそらくは、具体的なアプリケーションに関してはまだ定まっていないものの、今後起こりうるロボット革命、人工知能(AI)革命を想定した際に、数十年単位の技術的鍛錬や積上げ、擦り合わせが必要なこのヒト型、ないし多肢ロボットを開発できる体制を整えておきたいと考えるでしょう。

その周辺技術を囲い込んでおきたいという、よりジェネラルな意図があった上での買収なのではないかと推察します。


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