PTSDを発症した救急隊員の日々とその思いとは

    英国では大学の准教授らが、救急事態に対応する作業員の中でPTSDを発症するリスクが最も高いのは誰か、発症前に突き止めようと研究している。

    3つの出来事が、ポール・エバンスの人生を変えてしまった。

    最初の出来事は、2007年5月の連休中だった。結婚前の独身男性のパーティを終えた7人を乗せた車が、ロンドンを走る環状高速道路M25で大型トラックに衝突。6人が死亡した。

    ロンドン郊外サリー州在住のエバンスは、現場に招集された消防士だ。

    次の出来事は、また交通事故だった。今回は、横転した馬運車が絡んだ事故で、獣医は馬2頭を安楽死させなければならなかった。大型トラックの事故からわずか2〜3カ月後の出来事だったのだが、エバンスは現場で訳も分からず怒りがこみ上げて来た。「事故の写真を撮ろうと車から降りて来た一般の男性に、ものすごく腹が立ってしまった。それで、その男性に向かって、失せろ、車に戻れと言ったのを覚えている」と、エバンスはBuzzFeed Newsに話してくれた。

    最後の出来事は、ヘルメットをかぶらずバイクに乗っていた男性が、れんが塀に頭から突っ込んだ事故直後の現場を見た時だ。

    後で分かったのは、バイクに乗って事故を起こした男性はトビーという名前だったということ。エバンスは現場に駆け付けたが、消防士としてできることはほとんどなかった。「私道を歩いて男性の横を通り過ぎた。救急救命士に囲まれて地面に横たわった男性の姿を、今でも鮮明に覚えている。男性が死んでいるのは、見るからに明らかだった」。

    「家の持ち主に話をしに行った。事故現場は人の家の塀で、持ち主の女性はものすごくショックを受けて動揺していた。正直言ってしまうと、私はその女性に紅茶を入れて気遣いするふりをして、家の中に隠れたんだ。とても耐えられなかった」

    この出来事がきっかけとなって、エバンスは自分の状態がいかにひどいかに気づいた。最初の出来事からの数年間で、彼の心の状態は着実に悪くなっていたのだ。

    2009年のクリスマスのころ、トビーの事故の前だった。エバンスは、自身が言うところの「派手な」神経衰弱に陥った。それからほどなくして、当時の妻と住んでいた家を後にした。トビーの出来事の後、自分の感情を初めて人に話すようになり、エバンスは業務から外された。

    かかりつけの医師に診てもらい、最終的には、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された。「何人の専門家に自分の体験を話したのか、14人目からは数えきれなくなった」とエバンスは言う。「かかりつけの医師、消防署の医師、消防署の労働衛生士、無料の電話相談、カウンセリング、いろんなセラピストに相談した」。

    何か心に傷が残るようなものに関わったり見たりした後、不安になったり、神経過敏になったり、眠れなくなったり、罪悪感を抱いたり、自分を責めたり、嫌な考えや映像が脳裏に浮かんだり、ということはよくある。しかしPTSDの人の場合、こうした症状が消えることはない。

    現場から外れて教育部門で1年が経ったころ、エバンスは通常の業務に戻った。しかし目にしたものが頭から離れることはなかった。エバンスによると、2007年の高速道路での事故の写真が、ストック写真として時々メディアに使われているという。「航空写真で、高速道路には大きなブルーシートがかかっている」と説明する。「知らなければ、ただの大きな青いビニールシートの一部にしか見えない。でもあの下に何があるのか、私は知っている。6人の遺体が横たわっていることを」。

    2年後、物事がまた崩れ始めた。道路での衝突事故の連絡が入った時、エバンスは泣き出してしまったのだ。無線では、航空救急隊も呼ばれたと伝えていた。つまり、状況は深刻ということだ。

    「感情を抑えて対応するのがものすごく難しいと感じた」とエバンスは言う。「当時の仕事は、消防車の運転だった」

    労働衛生士に電話すると、前から計画していた休暇を翌日から取って様子を見るよう言われた。職場に復帰する前に、別の仕事に応募し、採用された。現場に行かずに済む仕事だ。しかしエバンスはその後、救急隊員の仕事を完全に辞め、馬の保護施設に転職した。自分が経験したことのせいで、救急隊の仕事をこれ以上続けるのは不可能に思えたのだ。

    メンタルヘルスの慈善団体「マインド」が2015年に発表した報告書によると、警察、消防、救急搬送の業務に就いている人は、心の問題を経験する可能性が一般の人に比べて2倍になるという。しかしそうした心の問題に対処するためにサポートを受けたり、仕事を休んだりする可能性は低い。

    「報告書によると、心の問題を引き起こした原因は仕事だとする人の割合は、この人たちの場合2倍になる」とBuzzFeed Newsに話すのは、「マインド」の救急業務従事者向けサポート・プログラム「ブルー・ライツ」を運営するフェイ・マックギネスだ。

    警察官のニック・キャッスルもPTSDを抱えており、自身の経験を退役軍人のそれと比較する。「通りを歩いている時は、確かに、爆発音を聞くと何かが誘発されるかもしれない兵士とは違う。でもPTSDで苦しんでいる救急業務従事者にとっては、通りを歩いているだけでまるで戦場にいるかのようなんだ」。

    エバンスと同様に、キャッスルも自分が問題を抱えていると気づいたのは、トラウマを経験してしばらくしてからだ。しかも、気づいたのは危険な状況だった。仕事に行こうと、中央分離帯のある高速道路を運転していた時、自分が車の流れに逆行していることに気づいたのだ。車を止め、Uターンして帰宅した。そのまま、仕事にはもう戻らなかった。

    キャッスルの仕事はほとんどの場合、おとり捜査だった。捜査をしていた暴力団のメンバーから、ひどい怪我を負わされたことがあった。「頭や背中を殴られ、病院送りになった。退院したけど、またすぐ病院行きになった」とBuzzFeed Newsに打ち明ける。

    しばらくの間、仕事を休んで入院していたが、復職した際には同じ地域に戻された。そして、暴力団に見つかってしまった。「車の中にいた時、その地域を仕切っていた暴力団の若い男複数人に、私が乗っていた車を取り囲まれた。それで、『引きずり出してやるから。殺してやる。首を切り落として、通りで見せしめにしてやる』と言われた」とキャッスルは言う。

    当初は、キャッスルの心の治療費は警察が支払っていた。しかしそれにも限りがあった。キャッスルが診察を受けていた専門家が、精神科医にもかかった方がいいと言うと、警察からの治療費の支払いは止まった。「いくらかかるか調べた警察側に、『これは払えない』と言われてしまった。それで、結局はまた自力でなんとかしなければならなくなった」。

    それから1年後、かかりつけの医者に診てもらった後に精神分析医に診察してもらい、ようやくPTSDだと診断された。

    心理学を研究する学者らは現在、エバンスやキャッスルのようなケースが防げるようになるのではないかと期待している。オックスフォード大学で実験心理学を教えるジェニファー・ワイルド准教授が、同僚と共に救急業務従事者に向けた早期介入法を研究しているのだ。実は、そもそもPTSDを発症する前に、最も高い発症リスクを抱えている人たちを、キャリアの非常に早い段階で見極めたいと考えている。

    ワイルド准教授のチームはこれまで、研修中の救急救命士400人以上を2年にわたり追跡。その結果を、英医学誌「サイコロジカル・メディシン」に発表した。研究では、研修中の隊員がPTSDやうつを発症するか否かを予測する2つのリスク要因があることが分かった。過去の出来事についていつまでもとらわれることと、自分の回復力を否定的にとらえることだ。「時間をかけて体調を崩す人の予測因子を、最初から隔離するようにした」とワイルド准教授はBuzzFeed Newsに語った。

    一番リスクが高い人を特定するのは、その人たちを職務から外すためではない、とワイルド准教授は言う。むしろ、PTSDを発症する救急隊員を減らすことが目的であり、回復力向上の訓練や支援を必要としているのが誰なのかを見極めるためなのだ。

    これを背景に、ワイルド准教授のチームはまさにそのためのオンライン研修プログラムを開発した。「救急業務に就いている人たちはリスクが高いグループだと分かっているので、問題が発症しないようにするための介入プログラムの開発は理にかなっている」とワイルド准教授は述べている。

    ワイルド准教授のチームは現在、570人の救急救命士の学生によるトライアルの中でプログラムの評価を行なっている。各救急救命士は6週間のオンライン・トレーニングを受け、その後は半年後、1年後、2年後にそれぞれ、このコースがメンタル・ヘルスにどう影響を与えているか、そして実際にトラウマを経験した時に対処がうまくできるようになっているかを調べるためにフォローアップを受ける。2017年12月に開始し、今のところ132人が6週間のコースを修了した。プログラムは2020年まで続けられる。

    研修は、6つのモジュールに分かれている。各モジュールには、覚えたことを練習するためのテキスト、説明ビデオ、音声ファイルのほか、有資格の救急救命士による体験談も含まれている。ワイルド准教授によるとこれは「リスク要因を修正するためのもの」で、「過去にとらわれるのをやめさせ、自分の回復力にもっと前向きな信念を持ってもらうためのもの」だという。

    救急業務従事者は、自分の心の問題を専門家に相談しづらいと感じることもある、とマックギネスは話す。「救急業務で働いている人は、心の問題について人事や労働衛生士、精神衛生の専門家に話すよりも、同僚や仕事仲間に話す傾向の方がずっと高い」。

    「歴史的に、救急業務に従事する人たちの中には、男性的ないわゆるマッチョカルチャーがある。また、トラウマになるような状況に定期的にさらされる人はそういう状態に免疫がついているので心の問題を発症しないものだという考えがある。しかし我々が実施した調査から、そんなことはないということが分かっている。自分の思いを話せると感じられる環境をただ作るというだけでも、実質的な変化をもたらし、不名誉だと言う思い込みを晴らすことができる」

    救急業務に従事する人が犯罪や暴力、死、怪我といったものに直面するのは明白だが、それ以外のプレッシャーも存在する。意外かもしれないが、救急業務で心の健康(PTSDやうつ、心配性、その他)の問題を引き起こす最大の要因は、トラウマになるような出来事にさらされることではない。マインドが「組織的な要因」と呼ぶものの方が大きい場合もある。つまり、長時間労働やシフトのパターン、心の問題は不名誉だという思い込みが職場にあること、プレッシャー下に置かれている、などだ。

    本記事を書くためにBuzzFeed Newsが話を聞いた人は誰もが、トラウマになるような出来事の後にPTSDを発症していた。しかしそれについて話すのは不名誉だという思いのせいで、問題がさらに悪化した、と全員が口にする。そして、そもそも助けを求めることすらできなかったと言う。中には何年にもわたって、助けを求められなかったと。

    救急業務従事者は、人口全体と比べ民族的に多様ではなく、また、今でも男性の方が女性より多い傾向にある。

    「例えば黒人や民族的に少数派の人が救急業務に就いていて、すでに肌の色などで差別されている場合、その上さらに心の問題を抱えるなんてことになれば、二重の差別を受けかねない」とマックギネスは話す。

    様々なコミュニティにおいて心のケアを求める障壁となっているのは何かを理解するため、マインドは今年、ロンドン警視庁の黒人やアジア人職員からなる「メトロポリタン・ブラック・ポリス・アソシエーション」のような団体と協力を始める予定だ。「このエリアには間違いなく、なされるべきことがあるはず」とマックギネスは言う。

    ワイルド准教授率いるチームの研究のおかげで救われた人物に、イングランド南東部オックスフォードシャー在住の消防隊員マット・バーロウがいる。2007年に、救急要請に向かって消防車を走らせている時、事故を起こした。事故以来、苦しい症状が何年も続き、2012年にそれはPTSDだと診断された。

    「事故には、私以外に別の人がいた。私がぶつかって、怪我をさせてしまった」とバーロウは話す。「車の損傷具合を見て、誰かを殺してしまったと思った」。

    バーロウも事故で肩を脱臼し、病院へ搬送された。しかし同じ病院に運ばれたにもかかわらず、事故の相手がどうなったかを教えてくれる人はいなかった。「壁に阻まれた感じだった。誰かをものすごく傷つけてしまったと思った。そうじゃないとは誰も言ってくれなかったから。何年も罪悪感に苛まれた」。

    「悪夢に悩まされているとか、そういうことをやっと人に話せるようになるまで数年かかった」と、BuzzFeed Newsに話してくれた。

    バーロウは、引きこもるようになったと言う。家を出るといつも、ヘッドホンをした。人と話すのを避けるためだったが、サイレンの音を聞かないようにするためでもあった。「手紙やメールに返事を書かなくなったし、請求書も開けなくなった。事故からの影響はものすごく大きかった」と言う。

    バーロウは不定期の消防隊員からスタートしてその後フルタイムになり、消防隊での勤務年数は17年になった。運良く、当時バーロウが所属していた消防団の医師が、ワイルド准教授のオックスフォード大学での研究について耳にした。そしてバーロウは、PTSDをすでに発症している救急隊員を治療するために准教授が開発した、別のオンライン・コースを修了するに至った。このコースは、オンラインで宿題をこなしたり、週に1度セラピストに話をしたり、というものだった。

    「国民保健サービス(NHS)の順番待ちリストに載せてもらって自分の番を待つ代わりに、コースを通じて一歩前に進むことができた。当時NHSのリストで待っていた人は相当いたんだ」と話す。

    バーロウの症状は今、随分良くなった。しかしそれでも時折、何かに追い詰められることがある。事故の相手に何が起こったかを知るなど(バーロウによると相手は現在、回復しつつある)、事故の日に起こった出来事の空白を埋めて事故のあらすじを書き直すことが、PTSDに対処するための手助けとなった。

    「(セラピーに)行くたびに、出動要請を受けてから事故を起こすまでの出来事全体をおさらいする」とバーロウは説明する。「数週間経ってから、ちょっとしたことを加えるんだ。何度も何度も話をおさらいしてきたけど、話をただ終わらせる代わりに、例えば『相手の男性は今、怪我をしているけど、生きていて満ち足りた人生を送っている』のようなことを加えて、自分の話を完成させることを学んだ。なぜなら、悪夢にうなされた時、目覚めるのはまさにあの瞬間だったから。ドスンと事故を起こした、まさにその時」

    バーロウは、もっと早く助けを求めればよかった、と言う。「早いうちに診てもらって早期介入を受けられれば、とんでもない重荷を肩から下ろせる」

    BuzzFeed Newsが話を聞いた人たち全員が、これまですでに折り合いをつけたと思っていた昔の出来事が、PTSDのせいで再び表面化したと話した。キャッスルは、PTSDの発症をパンドラの箱を開けることに例える。「対処してそのまま落ち着かせたと思っていたことが、その後戻ってきてフラッシュバックが始まり、そのことで頭がいっぱいになる」。

    キャッスルは1度、自殺した人の身元の特定を手伝って欲しいと頼まれたことがあった。死体安置所に行って目にしたのは、以前自分が職務質問をした人物だった。それが、深い罪の意識になった。そして力になってくれない一部同僚の存在は手助けにはならなかった、とキャッスルは言う。

    PTSDが始まった時、キャッスルはあの遺体安置所の日のことばかり考えている自分に気づいた。「やり過ごすのが本当に難しかった。あの青年のことで頭がいっぱいだったから。頭の中で常に自問していたんだ。『俺が殺したのか?』って」。

    「救急業務に就いている人たちは、小さなことがゆっくりと積み重なって行く、いわゆるドリップ効果について話してくれる」とマインドのマックギネスは言う。小さな出来事がPTSDのようなものを引き起こす可能性はある。しかしそれだけではなく、職場環境だったり、キャリアを通じて対処しなければならない様々なことだったりが、見えないところでゆっくりと蓄積されていき、PTSDなどの一因になり得るのだ。

    「つらくなりそうだとか、いろいろなことが困難だと感じ始めたら、その時に話せる文化を作ることが非常に大切だ」とマックギネスは言う。

    キャッスルは自分の経験から、救急業務に当たる組織は、トラウマになるような出来事があったらその度に対応する傾向にあると話す。「現場に行って影響を受けたら、その1つだけに対処する」というのだ。

    しかしキャッスルはまた、責めるべきはたった1つの出来事とは限らないと話す。「救急業務に就いている人のライフスタイルそのものなんだ。仕事の性質そのもので、つまり、対処はそう簡単じゃない」

    キャッスルの症状は、生活のあらゆる面に影響を及ぼした。その後、高速道路を逆行していたあの時に自分は解離していたことが分かった。解離とはPTSDの症状で、キャッスルは今でもこれに苦しんでおり、そのため運転は非常に困難だ。

    妻は、キャッスルの元から去って行った。家族と一緒に食事に出かけると、キャッスルはレストランでメルトダウンと呼ばれるパニックを起こしてしまうものだった。ドアや窓が見える場所に座りたいというキャッスルを、なぜそんなに選り好みをするのかと、家族は理解できなかった。また教会にいた時は、何かがPTSDの引き金を引き、走り出して隠れてしまった。「椅子の下に隠れて泣いているところを見つけられた」とキャッスルは話す。「こういうことが、たくさんあったんだ」。

    キャッスルは現在、イングランド北西部のチェシャーで暮らしている。まだ怪我が少し残っており慢性的な痛みもあるが、医者によるとこの痛みはPTSDに関係しているようだ。

    一方、イングランド北西部ブラックプールで暮らす救急救命士ダン・ファーンワースの場合、最終的に彼を救ったのは、自分の経験を理解してくれる同僚に打ち明けたことだった。

    ファーンワースがPTSDを発症するきっかけとなったのは、子供が殺された事件だった。「これまで目にした中でおそらく最悪で、永遠に忘れられない」とBuzzFeed Newsに話してくれた。

    「この直後、事件を自分の中で消化するのは簡単じゃないと思った。その夜はこのことを考えて、よく眠れなかった」

    しかしもしこれを誰かに話したら、仕事に適さないと判断されるのではないかと恐れた。「何よりも仕事を失うのが怖かった」とファーンワースは言う。

    ファーンワースは不安を感じるようになり、フラッシュバックが起こり始め、死がすぐそこに差し迫っているのではないかという感覚に付きまとわれるようになった。「だんだんと、深くて暗い場所へと日に日に追い込まれるのを感じた。そしてついに、自分がまるでものすごく深くて暗い穴の底にいるような感覚になった。でも一体どこに出口があるのか、分からなかった」。

    あの出来事から2カ月ほど経ったある日、勇気を振り絞って友達にメッセージを送った。

    「仕事仲間にテキストメッセージを書いた。つらい、と書いたけど、やっぱりメッセージを削除した。あまりにも怖くて送れなかったんだ。でもまた書いて、また削除した。それでようやく、勇気を振り絞ってメッセージを送った。そのあと、携帯をオフにして枕の下に入れてしまった。友達が何と言ってくるのか、見るのが怖かったから」

    「携帯を見ると、返事が来ていた。『今から行く。紅茶入れる準備しといて』と書いてあった」

    この時に仕事仲間に話してから、かかりつけ医に行って必要な助けを得るのがずっと楽になったと、ファーンワースは言う。

    「仕事仲間のリッチに話したことが、雲泥の違いになった。話したことで、いろいろと合理的に解釈して今後の計画を考えられるようになった」

    ファーンワースと友人のリッチは一緒に、前述のマインド・ブルー・ライトのプログラムを支援する草の根ネットワーク「アワ・ブルー・ライト」を立ち上げた。救急業務において心の健康が苛まれた経験談を共有するためだ。

    今後数年間、ワイルド准教授のチームがオックスフォード大学で行う研究のおかげで、PTSDが原因で救急の仕事を辞める人の数が減るかもしれない。

    ポール・エバンスは最終的に消防隊を辞めたが、その時、かなりの重圧から解放されたように感じたと話す。馬の保護施設での新しい仕事は、収入でいったら昔の半分にも満たないが、エバンスはずっと幸せだ。

    「お金が全てじゃないし、安定が全てでもないと気づいた。自分にとって害になっているものから逃げなきゃいけない時もある」とエバンスは語る。「消防隊の仕事は、私にとってやっぱり害になっていた」

    しかしファーンワースの場合、仕事を続けるための支援を受けることができた。そして自身の経験を活用し、他の人に手を貸したいと考えている。「カウンセリングをものすごくたくさん受けた。PTSDとはこれからも付き合っていかなきゃいけない。でも今の私は、ずっと強くなった。回復力がもっとついたし、自分が健やかに暮らせるように、もっとずっと気にかけるようになった。それに本当のところ、この恐ろしい経験を活かして、他の人たちを手助けしたいと思っているんだ」

    この記事は英語から翻訳されました。

    翻訳:松丸さとみ / 編集:BuzzFeed Japan