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【奥能登国際芸術祭2020+】“最先端”の暮らしに触れる 作品紹介<下>

2021年10月9日 05時00分 (10月9日 15時01分更新)

(左)サイモン・スターリング「軌間」(右)中島伽耶子「あかるい部屋」=石川県珠洲市で


 石川県珠洲市で開かれている奥能登国際芸術祭2020+(プラス)。廃止された旧のと鉄道の軌道や山間部の集落など、市全域を会場に点在する作品群を見て回る旅は、最先端のアートを楽しむと同時に、過疎化が進む半島の最先端で生きる人々の暮らしの今に触れる経験でもある。(松岡等)

 山間部の若山地区の集落にある空き家。広々とした玄関や広間に黒い紙でできた無数のチョウやガが舞う。「黒い雲の家」と題した作品を制作したのはカルロス・アモラレス(メキシコ)。無人の広間に並べられている朱漆のお膳は、祭りで客にごちそうを振る舞う「ヨバレ」なのだろうか。その中を舞うチョウは「不在」の意味を問いかける。
 平野部の幹線道路沿いにある珪藻土(けいそうど)工場の事務所だった空き家の屋根や壁に無数の穴を開けた作品「あかるい家」。日中は戸を閉め切った内部に光が差し込み、夜は室内の照明から光が漏れ出す。制作した若手作家の中島伽耶子が珠洲で感じたのは、都市部にはない「生活の質の高さ、豊かさ」だったという。「電気は『明るい未来』の象徴だったが本当にそうなのだろうか」
 正院地区でかつて地域の憩いの場であったであろう「喫茶アンアン」の跡。ドアを開けると、ムーディーな音楽が流れるフロアに、満月を思わせる巨大な球体が出現した。目を凝らすと球はマンガの古本でできている。クレア・ヒーリー&ショーン・コーデイロ(オーストラリア)「ごめんね素直じゃなくて」レトロな空間にユーモアがあふれる。
 前回芸術祭(二〇一七年)から、廃止されたのと鉄道の旧駅舎は作品展示の会場になってきた。今回、旧正院駅では大岩オスカール(ブラジル/米国)が、近隣の焼酎工場で使われなくなった蒸留タンクを巨大な植木鉢に見立てた作品を制作した。カラフルに色づけして線路跡に並べ、モミジなどの紅葉樹を植えられ、駅ができた当時からのサクラとともに、新たに住民が憩う場所になるだろう。

(左)カルロス・アモラレス「黒い雲の家」(中)大岩オスカール「植木鉢」(右)クレア・ヒーリー&ショーン・コーデイロ「ごめんね素直じゃなくて」 =石川県珠洲市で


 旧南黒丸駅ではサイモン・スターリング(英国/デンマーク)が、映像とガラス彫刻の作品「軌間」を展示。二人の男が鉄道を敷くためのワイヤを伸ばす作業をする映像作品には、作家が「金継ぎ」の技法からインスピレーションを得たという「再生」への思いが込められている。
 コロナ禍の中で一年延期されながら、五十三組の作家たちが作品を寄せた「最崖(さいはて)の芸術祭」。のと鉄道の終点だった旧蛸島駅に常設展示されているトビアス・レーベルガー(ドイツ)の作品のタイトルを改めてかみしめたい。「Something Else is Possible/なにか他にできる」=敬称略

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