タイの反政府活動に高校生たちも参入

タイで相次いでいる反政府活動が高校生の間でも広がりつつある。

8月17日には高校生たちが学校内で反政府デモへの支持を意味する白いリボンを着用したり、政府への抵抗を意味する3本指のポーズを取り、その様子が瞬く間にSNS上で拡散された。一連の反政府活動には国内でタブー視される王室への批判も含まれるため、政府や学校側はこうした高校生への対応に苦慮している。

国歌斉唱中に3本指を掲げる高校生
国歌斉唱中に3本指を掲げる高校生
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8月17日、週初めの月曜日にあたるこの日、多くの高校生があるポーズを取った映像を次々とSNS上に投稿した。その様子を目にした人々は一様に驚きの声を上げた。

タイの学校では毎朝、校庭などで国旗を掲揚し国歌を歌う全校朝礼が義務付けられている。厳粛な雰囲気の行事にも関わらず、映像には国家斉唱中に高校生たちが3本指のサインを掲げる様子が写っていたのだ。

抵抗の印は『ハンガー・ゲーム』から

人差し指・中指・薬指の3本指を合わせ手を上に突き出すサインはアメリカの映画『ハンガー・ゲーム』にならったもので、タイでは2014年から政府に抗議の意志を示すジェスチャーとして頻繁に使われている。デモ隊の主な要求は、軍政の流れをくむプラユット政権の退陣や、軍政下で制定された憲法の改正、そして反政府活動への警察による嫌がらせ行為の中止の3つだ。

3本指のジェスチャー
3本指のジェスチャー

地元メディアによると、こうした高校生による抗議活動は初日の17日だけで少なくとも8つの高校で確認され、その後も全国の高校に広がりつつある。中には表現の自由を求めるとして、白い紙を掲げる生徒たちもいる。

この前日には、バンコク中心部の民主記念党で大学生などがここ数年で最大規模の反政府集会を開催していた。参加者は2~3万人(主催者発表)にも上り、国内での反政府デモの広がりを強く印象づけた。

これに触発された高校生たちが「自分たちも行動すべき」と学校の敷地内で反政府デモへの連帯を示す白いリボンや3本指のポーズを示し、その様子を撮影してSNSに投稿し始めたのだ。こうした映像は多くの人々の注目を集め、今では地元メディアが連日伝える大ニュースとなっている。

8月16日に開かれた大規模抗議集会
8月16日に開かれた大規模抗議集会

一連のデモには王室改革要求も

そもそも学生が抗議デモを起こすこと自体が異例な上に、単なる政権批判を超える内容が含まれ、タイ政府や学校側は高校生たちの動きを警戒している。デモ隊の主張の一部に、絶対的な権威である王室への批判が含まれているためだ。

タイでは王室は絶対的な権威であり、公然と批判することは許されない対象だ。不敬罪(刑法112条)も存在し、国王や王族を中傷・侮辱したと判断されると最高で15年、最低でも3年の禁固刑が科される可能性がある。

当初、タイ政府や学校側は高校生たちの動きを止めるために厳しく対応しようとした。

ナッタポン・ティプスワン教育相は、生徒たちは法的措置の免除対象にはならないと釘を刺した。抗議活動中に法を犯せば、学校内でも生徒の逮捕は可能だ、と高校生側を強く牽制したのだ。

また学校現場では、一部の教師たちが生徒から白いリボンを没収するために警察を呼んだほか、生徒の首を白いリボンで締める、生徒の頭を叩くなど体罰も見られた。教師らが生徒たちを厳しく叱責する動画はSNS上で広まり、強い批判が巻き起こった。

対応に苦慮するタイ政府

しかし高校生や反政府デモの支持者たちが強く反発すると、タイ政府はその日のうちに対応を一変させた。ナッタポン教育相は生徒たちには言論の自由があると強調。教育省傘下の基礎教育委員会事務局(OBEC)は各学校に対し、生徒たちに政治的活動の自由を認め、権利を尊重するよう通達を出した。

それでもナッタポン教育相に対する反発は収まっていない。8月19日にはSNSの呼びかけに応じて、約500人の高校生らがバンコク中心部の教育省の建物前に集まった。教育相が当初強硬な姿勢を示したことが、結果的に抗議活動を更に勢いづかせる結果となっている。

教育省前に集まった数百人の高校生たち
教育省前に集まった数百人の高校生たち

集会での高校生たちによる批判の矛先は学校や教師などへも向けられた。参加した女子高校生は「学校は髪の毛に関するルールが厳しすぎる。教師は生徒の意見を聞かず、自分の意見を押し付ける」と学校に対する不満の声を上げた。「学校が独裁だ」と書かれたパネルを掲げる生徒もいた。多くの学生が自分の通う中学校や高校を権威主義的だと捉えていることがわかる。

一方で自分の子供が政治活動に参加することを快く思わない親も多いが、高校生らの抗議活動は止みそうにない。これまでタイでは幾度となく政治的な混乱が起きてきたが、高校生が学校内で抗議の声を上げたのは前例のない事態だ。タイ政府や学校側は異例の高校生による抗議活動の行方を注視している。

【執筆:FNNパンコク支局長 佐々木亮】

佐々木亮
佐々木亮

物事を一方的に見るのではなく、必ず立ち止まり、多角的な視点で取材をする。
どちらが正しい、といった先入観を一度捨ててから取材に当たる。
海外で起きている分かりにくい事象を、映像で「分かりやすく面白く」伝える。
紛争等の危険地域でも諦めず、状況を分析し、可能な限り前線で取材する。
フジテレビ 報道センター所属 元FNNバンコク支局長。政治部、外信部を経て2011年よりカイロ支局長。 中東地域を中心に、リビア・シリア内戦の前線やガザ紛争、中東の民主化運動「アラブの春」などを取材。 夕方ニュースのプログラムディレクターを経て、東南アジア担当記者に。