実写にした意図はなんだったの? 超実写版『ライオン・キング』 ジョン・ファブロー監督インタビュー

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  • author 中川真知子
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実写にした意図はなんだったの? 超実写版『ライオン・キング』 ジョン・ファブロー監督インタビュー
Image: ©2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

超実写とは何だったのか?

みなさんはもう超実写版『ライオン・キング』を見たでしょうか。私は池袋のグランドシネマサンシャインの12階にあるIMAXで鑑賞したのですが、迫力満点でしたよ。特に冒頭の「サークル・オブ・ライフ」なんて圧倒されちゃいました。その再現度の高さにね。ショット・バイ・ショットでそっくりそのままなんじゃないかってほど。

でも、見ている途中から疑問が湧いてきたんです。「正直、超実写にする意味なかったんじゃない?」って。あ、ディスっているわけではないんです、多分。でも、この映画の存在意義とは? 実写で表現しないといけなかった理由は? こんな疑問が頭から離れなかったわけです。なので、いろんな疑問をハッピー・ホーガン…じゃなくて、ジョン・ファヴロー監督にぶつけてみましたよ。


Video: ディズニー・スタジオ公式/YouTube

──そもそもなぜ『ライオン・キング』を実写化したのでしょうか。

ジョン・ファヴロー(以下、ジョン):アニメの『ライオン・キング』は今見ても名作で、古臭さがありません。なので、オリジナルの『ライオン・キング』に取って代わるものを作りたかったわけではないんです。僕が面白いと感じたのは、映画版を好きな人は、同様にミュージカル版も好きだという事実です。ファンは違う媒体として作品を愛しているんですね。演劇版は、映画版と比較して上映時間が長く、音楽と流れは基本的に同じでありながら異なる見せ方をしています。

僕は『ジャングル・ブック』で学んだことを使えば、第3の自然ドキュメンタリーのような『ライオン・キング』を生むことができると考えました。

──オリジナルより30分長くなっていますが、その追加されたシーンでは何を伝えていますか。

ジョン:『ライオン・キング』は変えられる部分や独自性を出せる部分が非常に少ないんですね。「サークル・オブ・ライフ」やヌーの大移動、「ハクナ・マタタ」と、象徴的なシーンが沢山あります。なので、掘り下げることができると思った部分には、自分のやりたいことを入れました。俳優たちにはできるだけ自由に演じてもらい、キャラクターを拡充できる部分はアドリブも入れてもらいました。

特にライオン社会を詳しく描きたいと思いました。というのも、現実社会におけるライオン社会ではメスのライオンの働きが欠かせません。たてがみがあるからオスが偉いという表現は避け、実際にその社会を支えているメスにもスポットライトを当てたいと思いました。舞台でもそうでしたし、『ライオン・キング』に大きく影響を与えたハムレットでも同じです。

本作の中で、僕はサラビがもっと注目されるべきだと思いました。王であった夫と次期王であった息子を同時に失い、義理の弟が王座を継いでいるんですよ。新王となったスカーとの複雑な関係をもっと掘り下げる必要があると考えました。サラビを多角的に見せれば、物語に深みを持たせると思ったんです。

──なるほど、納得です。

ジョン:「ハクナ・マタタ」に関しても同様の考えでした。プンバァとティモンははみ出し者で、「サークル・オブ・ライフ」のサークルの中に自分たちは含まれていないと感じながら生きています。しかし、この映画のいいところは、あくまで登場人物が動物なので、人間で描くほど特定の種に対して攻撃的になることがありません。比喩的に伝えることはできますが。

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Image: ©2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

──名作と言われる『ライオン・キング』をリメイクするのはプレッシャーだったと思いますが、製作を始めるにあたって1番はじめにしたことはなんですか。

ジョン:アニメ版をもういちど見る前に、まずはリストを作ってみました。自分が覚えている『ライオン・キング』のすべてを書き出してみたのです。ジョークやダイアログやシーンすべてです。人はすべてを覚えていると思うものですが、実際、私たちの記憶は圧縮ファイルのような働きをしています。本当は核となるものを覚えていて、あとは辻褄が合うように埋め合わせて大きな記憶として保存しているだけなんです。

たとえば、昔のことを友達とはなしていて「そういえばこういうことがあったよね」と言われても僕は覚えていないことがあります。でも、反対に僕が覚えていることを相手が覚えていないことも多々あります。人は自分に起こった、動作が関係していることを鮮明に覚えているものなんです。

ぼくがしたかったのは、この「覚えている事柄すべて」を変えないことです。そして、実際に書き出してみて驚きましたよ。なにせ、山ほど覚えていたんですから。『ジャングル・ブック』でも同じことをしたのですが、出てきたのは4個くらいですよ。

──確かに『ライオン・キング』のシーンは私も事細かに沢山覚えていますね。

ジョン:僕が『ジャングル・ブック』で覚えていたのはヘビとバルーの歌う「ザ・ベア・ネセシティ」と松明を持っているモーグリくらいでしたよ。

しかし『ライオン・キング』は、崖やヌーの暴走、ジョークやライオンのパンチ、楽曲や歌詞、たくさん記憶に残っていました。そのリストを見て、自分がどれだけ多くのものと向き合わないといけないのか気づきました。

そして、この作業を一通り終えてから、改めて映画をみて驚きました。自分が記憶していたことと、実際の映画は随分違ったのです。そこで人がものと記憶をどう繋げているのかを学びました。

僕は映画とミュージカルの両方を見ましたがそこでも同じことが起こっていました。自分としては同じストーリーだと思っていましたが、実際は違うんです。

ということで、本作を作るにあたり最初にやったことは、一言で言えば「リスト化」ですね。

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Image: ©2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

──本作にはティモンとプンバァも語る「ライン」の話が登場しました。あれは『ライオン・キング』のテーマである「サークル・オブ・ライフ」を真っ向から否定するようなものでしたが、真逆の意見をあえて入れた理由はなんですか。

ジョン:オリジナルの2匹は面白キャラでした。「世間が背中を向けたら相手にしなきゃいいのさ」と、自分を甘やかし考えることをやめれば良いと。本作でも全く同じセリフを言っています。

実際、辛い経験をしてきたシンバにとって、気にしすぎるのをやめることは生きていく上で重要だと思います。しかし、ナラが来たことで事態は大きく変わり、シンバはプライドランドに戻ってスカーと対峙しなくてはならなくなります。オリジナルでもうまく表現していますが、自分の作品ではサークル・オブ・ライフの全体像を伝えようと思いました。

「ライン」の話では、人生は無意味で何ひとつつながっていることはないと「サークル・オブ・ライフ」とは真逆のことを話しています。自分のことだけ考えれば良い、自分が何をして誰にどんな影響が出ようが関係ない、と。

精神的なつながりが無いと、そういう考えに至ってしまうことは理解できます。映画の中ではふざけた感じで話していますが、一部の人たちにとってはそれが事実であり、その人たちの考えも理解できます。

シンバには素晴らしい父親がいて、彼は父親からいろんなことを学び、星空を見れば父親の発言を思い出すことができます。そんな父親を持つ彼は、心の奥底では自分は今以上の存在になれると気づいているんです。

僕がこの映画の中で気に入っているのは、シンバの心境の変化に伴って、ティモンとプンバも変わった部分です。自分のことだけ考えれば良いと思っていた彼らも、シンバの命がけの挑戦に手を貸してくれるようになりました。大きな目で見れば、すべては繋がることができると、悪者がいようと、トラウマがあろうと、悪いことが起きようと、コミュニティとともにあれば立ち向かっていける、向上させることができるんです。

──深いですね。

ジョン:僕がオリジナルを好きな理由は、どんなに辛いことがあっても最後は向上させることができると伝えているからです。ムファサの死は悲劇でしかありませんし、何度見ても心が苦しくなります。でも、最後にはうまくいくと伝えているから、人は何度でも見たくなるのでしょう。

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Image: ©2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

──そう言えば本作とオリジナルの大きな違いのひとつに、『Be Prepared』という楽曲を含めたハイエナの設定が挙げられます。かなり大幅な変更ですが理由は?

ジョン:あの楽曲のシーンはとてもコミカルですよね。実写っぽく作った本作とは少し表現のテイストが異なります。

また、PG指定なのでオリジナルよりもターゲットを少し上に設定しています。そのためスカーは声を荒げることもありますし、シリアスめに見せています。

ハイエナに対しても、彼らが嫌われている理由が単純にハイエナだからということにしたくありませんでした。そこで、ハイエナは常に空腹が満たされず、死肉があればそれをすべて食べつくしてしまうから他の動物たちから疎まれているという最もらしい理由を与えました。彼らを悪役にするにあたって、ハイエナという動物だから悪い、ではなく行動が原因で悪者だと思われているとしたかったのです。

──奪うから嫌われているんですね。

ジョン:そう、これはテーマにも沿っています。「サークル・オブ・ライフ」のサークルの中に入るのか、そうでなく自らの意思をもって外れるのか。ムファサも、奪うのではなく与えろと話していますよね。

──今回のキャラクターたちは随分とリアルですが、特定のライオンの写真を参考に少し手を加えてデザインしたりしたのでしょうか。

ジョン:あれは何百枚もの写真を撮って参考にしてデザインしました。フロリダのアニマルキングダムに撮影に行って近距離から撮影したんですよ。その画像を持ち帰って、今度はデジタルスカルプチャーを作り、そこから筋肉や毛をつけてました。スカーはムファサやシンバとはっきり違いがわかるようなデザインにしていきました。

──なるほど、だからエンドクレジットに「アニマル・キングダムにスペシャル・サンクス」と書いてあったのですね。

ジョン動物はもちろんだけど、背景も徹底的に調査しましたね。植物も石も川も、アーティストがコンピューターの中で作るものはすべて現実にあるものと同じにしたかったんです。

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Image: ©2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

──ハイエナの設定同様、ヒヒのラフィキも設定が変わって随分と寡黙でしたね。

ジョン:25年が経過して、世界はより狭くなりました。お互いの文化や言語を以前よりも深く理解しています。だからアフリカ文化を軽く見るような表現方法はしたくありませんでした。オリジナルには造語がたくさんありました。今作ではちゃんとした言葉を話させつつオリジナルの雰囲気を残しています。

ラフィキはあらゆる面で力強いキャラクターです。ラフィキの声は南アフリカ出身のジョン・カニが演じていますが、彼なら、面白さも残しつつラフィキに威厳を持たせられると感じました。シンバを振り回したりもしますし、ヨーダを彷彿させるお茶目な師匠といった感じになっています。

今回のラフィキにはシャーマンの要素も強く持たせています。だから、昆虫が集まってきたり不思議なパワーを見せているんです。

──監督といえば、俳優とプロデューサーと脚本もやられるマルチタレントですが、そのすべてを経験しているからこそ可能になったそれぞれの分野でのパフォーマンスはありますか。

ジョン:僕は違う立場から物語を伝えることができるようになった。つまり、どの立場からもやっていることは同じで、僕はストーリーテラーなんです。『アベンジャーズ』のハッピー・ホーガンを演じている時も、ハッピーの立場から物語を伝えようとしています。

マーヴェルも僕が登場するシーンの内容や順番、設定なんかを変えさせてくれることがあります。俳優として関わっていますが、やっていることは映画やドラマの監督や脚本とそんなに変わりないんです。やっていることは、どうやって物語を伝えるか。観客に興味を持ってもらい、物語の中に引き込むか。注目してもらうに値する物語を作るかを考えています。

僕は映画学校に行っていません。僕は俳優として監督や脚本家の仕事を間近で見て学ぶことができました。彼らは俳優にとても親切で、質問があれば丁寧に答えてくれました。だから、僕が俳優として参加した作品すべてが、監督になるための先生だったわけです。僕は監督としても働いていますが、俳優として他の人のセットに行くのも好きです。僕と違うやり方を学ぶことができますからね。学んだことを自分のやり方に反映して「改善」していくことができるじゃないですか。全てにおいて、伸びしろがありますから、常に向上していけると信じています。

(注:監督は、料理の先生から「改善」という日本語を習い、極めるという意味で使っているそうです。監督の料理好きは、自身が主演、監督、脚本した映画『ザ・シェフ』やNetflix『ザ・シェフ・ショー』でも見れます。かなり本格的!)

VFXにおいても同じですよね。より現実的に、より完璧に近い状態にと押し上げることができます。完璧には到達できなくても、より近い状態にはできますから。

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本作は製作段階でVRが使用された作品です。VRで作り上げた世界の中にヘッドマウントをつけたクルーが入り、その中でドリーやクレーンを使ってカメラを設定し、そうして撮影した映像をVFXアーティストに渡すろいう手法を取っています。このやり方を聞いた時、私は「じゃあ、超実写『ライオン・キング』ではどれくらいの没入感を楽しめるのだろう」と期待していました。その期待が大きかった分、正直言うと没入感に関してはまぁまぁという感想を持ったのは否定できません。

監督と直接会って話して感じたのは、彼がハリウッドを背負って立つ人間として、3人の父親として、映画というミディアムを通して世界にポジティブなメッセージを伝えたいという意思の強さです。おそらく、今の混沌としたアメリカではこういうメッセージを伝えることはとても重要なのでしょう。

映画はその時代を強く反映します。25年前に作られた『ライオン・キング』はその描き方でも問題なく、今も色あせることなく人々を魅了していますが、今の時代に同じことをやろうとしたらバッシングの対象になるのは目に見えています。ただ、今の世の中を反映させたポリコレ的演出が娯楽性を弱めてしまうのは否定しようのない事実ではありますが、ドキュメンタリーを目指したことを考慮するなら、それはそれで十分「有り」だと私は思います。

超実写版『ライオン・キング』は8月9日(金)公開。本作を見た後にオリジナルの『ライオン・キング』を見ると、自分の記憶力のあやふやさに気づけて面白いですよ。本当、監督の言う通り、記憶って圧縮メモリーだと痛感させられると思いますよ。

Source: 映画『ライオン・キング』, YouTube

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