1847年にルイ=フランソワ・カルティエがパリで創業した宝飾店に始まるカルティエが、展覧会「カルティエ、時の結晶」を東京・六本木の国立新美術館で開催中だ。同メゾンが収蔵する歴史的な作品コレクションに加えて、1970年代以降の作品も個人の所蔵品を含めて出展。170年余にわたり追究してきた美の世界を、約300点で表現する。
カルティエはメゾンの歴史と創作の芸術的な発展の証しとして「カルティエ コレクション」を1983年に創設し、現在は約3000点超を収蔵する。89年以降、パリのプチパレ美術館を皮切りにニューヨークのメトロポリタン美術館、ロンドンの大英博物館、北京の故宮博物院など世界各地の著名な文化施設で34回の展覧会を開き、延べ450万人が訪れた。日本でも東京都庭園美術館(95年)、京都・醍醐寺(2004年)、東京国立博物館・表慶館(09年)の3度、開催している。
今回は初の試みとして1970年代以降の現代作品に焦点を当て、表現をアカデミックに紐解く。自然や異文化に触発されたデザインと、熟達した加工の技が、地球の産み出した原石をどのように変容させてきたか。人類の文化的な活動を物語る資料という新たな視点から宝飾品を捉え直す機会になりそうだ。
6つの見どころ
01. タイムピース
序章「時の間」はミステリークロックとプリズムクロック計14点を出展。文字盤が透明で長針と短針が宙に浮くように見える不思議な置き時計は、近代奇術の父ジャン=ウジェーヌ・ロベール=ウーダンの発明に着想を得て時計師モーリス・クーエが実現した。鳥居にビリケンさんが乗っかる意匠など、エスプリに満ちた装いも魅力だ。
02. 革新的な素材
第1章「色と素材のトランスフォーメーション」では1906年に作られたブローチ「リリー」が見逃せない。枝に連なる花と葉の繊細さを表現し得たのは、数多くのダイヤモンドをつなぐ金属として、銀より硬度が高くのびが良いプラチナを使ったからだ。工業用と見なされていた金属を宝飾品に採用したことで、変色の少ない輝きをも獲得した。
03. トゥッティフルッティ
第1章から。エメラルド、ルビー、サファイアなどが放つ濃密な色彩が眼を射る。インドの装身具に触発されて1920年代以降、コントラスト鮮やかな作品が多数生まれ、色石がぎっしり並ぶさまは「トゥッティフルッティ(フルーツづくし)」とも称される。時代に応じた色づかいの変遷も興味深い。
04. フォルムの源泉
パンテール(豹)のシリーズなど動植物をかたどる作品は数多いが、第2章「フォルムとデザイン」では意外な形態が視線を誘う。ガス管、釘、テレビ、安全ピン。歪んだ腕時計「クラッシュ」は1967年発表。2012年作の個人蔵の腕輪は曲線がザハ・ハディド設計の建物を想起させる。斜行する石の並びで動きを表現したキネティックな作品にも注目。
05. 異文化へのまなざし
第3章「ユニヴァーサルな好奇心」にはアジアやアフリカの文物に想を得た作品が並ぶ。印籠そっくりのヴァニティケース、梅を描出したブレスレット、中国風の龍をかたどったペン、スカラベをモチーフにしたネックレス。3代目ルイ・カルティエが収集した資料のアーカイヴ展示を参照すれば、異文化 への深い関心と理解が当初からメゾンに備わっていたことがわかる。
06. 御簾と洞窟
会場の構成は杉本博司と榊田倫之が主宰する「新素材研究所」が担当。序章は高さ8mの天井へ「羅」による光の柱を林立させ、第1章は御簾の中に作品が鎮座するイメージ。第2章は荒々しい大谷石を積み「洞窟で貴石を見いだしてもらう」(榊田)。第3章の長い楕円の陳列ケースは彗星の軌道に見立てた。「空間自体がアートになった」と主任研究員の本橋弥生は言う。
以上1.3.4.5.6.は、会場構成=新素材研究所 © N.M.R.L. / Hiroshi Sugimoto + Tomoyuki Sakakida
「カルティエ、時の結晶」
会期:12月16日(月)まで
休館日:毎週火曜日
開館時間:10:00〜18:00(毎週金・土曜日は20:00まで。入場は閉館の30分前まで)
会場:国立新美術館 企画展示室2E
住所:東京都港区六本木7-22-2
観覧料:一般 1,600円、大学生 1,200円、高校生 800円、中学生以下無料
Words 深萱真穂 Maho Fukagaya