すごく辛そうな料理ですが
辣子鶏と書いて「ラーズーチー(ラーズージー)」。
聞き慣れない料理かもしれませんが、実物はこれです。
うへえ、辛そう。
だが、これがうんまいのである。
辛さに中毒性があって、ビールと一緒に食べたりすると、箸が止まらなくなる。
すごく辛いけど、食べられないほど辛いってわけじゃない。ていうか、唐辛子そのものは食べない部分だから大丈夫。唐辛子に埋まってる鶏肉を食べる料理なんですね。
この辣子鶏について、四川料理の伝道師・人長良次(ひとおさ・よしつぐ)さんに聞いてきました。
四川料理の達人・人長良次さんについては、こちらの記事が記憶に新しいかと。
こちらが人長さんのプロフィールです。このお店で料理長を務められています。
本場では日常的に食べられてるポピュラーな味
人長:辣子鶏は、もともと四川省の重慶が発祥なんですね。四川省では人気があって、どこのお店でもだいたい置いてあります。麻婆豆腐とかと同じような感覚で食べられてます。とくにどういう料理ってことはなくて、唐辛子と花椒を炒めたものに、小さく切った鶏肉が埋もれている料理なんですけど。
── そこから鶏肉をほじくり出して食べるんですよね。
▲重慶の辣子鶏発祥のお店(写真提供:人長さん)
人長:僕が発祥のお店で食べたものは、唐辛子がわーっと山盛りになって、ネギもほとんど入っていない。そこから鶏肉をほじくって、あったあったと食べる。そして食べたら骨をペッと吐き出す(笑)。それがもう、ホントおいしくて。僕、すごい感動したんですよ。なんだこの料理、見たことないぞと。自分で作って、お店で出したいなって思ったんですよ。
── その夢をかなえた、というか、いまちゃんとお店で出していますもんね。
人長:このお店を任された時に「重慶で食べたあれは、絶対にウチの看板メニューにしよう」と。
── まず一番に思いついたわけですね。
人長:本場のお店では、鶏がマルで置いてあるんですよ。丸鶏が何種類か並んでて、選べるんです。地鶏みたいなのとか、脂が多い鶏とか。それぞれ値段が違うんですね。ランクがあるんです。それで「これ」って選んだものを、おじちゃんがその場でバンバンバンと切ってくれるんです。
── ははあ、鶏まるごと単位で注文して、即座にバンバンとたたき切ってくれる。
人長:1センチ2センチくらいに小ちゃく切った鶏肉をそのまま大鍋にバーンと入れて。素揚げですよね。火が通ったら中華鍋に入れて、唐辛子と花椒、塩とチキンパウダーでバババッと炒めて、最後に紹興酒を入れて終わり。簡単なんです。
▲専門店の辣子鶏を前に満面の笑顔の人長さん(写真提供:人長さん)
人長:ただ、本場の辣子鶏と言っても、小さく切った鶏肉とかだとさすがに食べにくいし、アレをそのまま持ってきて「これが本場の味だよ」ってやったとしても、日本ではちょっと受けないかなと思って。
僕をフィルターとして、日本の方においしいと思ってもらえるような料理にしようと考えたんです。で、日本では手羽先ってすごくポピュラーじゃないですか。酒のツマミってイメージもある。
── 手羽先専門の居酒屋さんもありますね。
人長:そこで、本場のものとは違ってますけど、お店では手羽先を使った辣子鶏にしたんですよ。
── 小さい鶏肉に骨が入ったものより食べやすいし、いいと思います。
人長:辣子鶏の「子鶏」は丸鶏のことを言うんです。たとえば「炸子鶏(ザーズージー)」で「鶏のから揚げ」。向こうでは、鶏は骨付きがほとんどなんです。これは人から聞いた話なんですけど、鶏は、骨がついた状態じゃないと何をどう料理されたのかわからないですよね。
── ははあ、たしかに。なんの肉かもわからないですね。中東あたりのおもてなし料理も、その動物の頭をつけて「たしかにこの羊の肉です」みたいなメッセージを含めると聞いたことがあります。
人長:そうそう。本当に鶏を調理したものなのか疑われないために、骨付きのままにしてるという話で。それに味の面でも、骨がついたままだと肉が縮みにくいのでおいしい。僕もそりゃそうだなと思ったんで、お店で出すものは鶏もも肉じゃなくて手羽先にしたんです。
── 手羽先なら鶏のもも肉を骨ごとぶつ切りにするより簡単ですし、家でもまねしやすいです。
人長:手羽先の辣子鶏はすごくおいしいので、ぜひ試しにウチのお店に来て食べてみてほしいですね。とても油をおいしく使いこなしている料理なので、その油が染み込んだネギも非常においしいんです。また、ご家庭で作る場合は、もも肉を使って作る方法が簡単。今回は、簡易版のもも肉を使った辣子鶏のレシピをご紹介しますね。
人長:鶏肉はもちろんなんですが、ほら、この辣子鶏で特にうまいのはここ。ネギなんです。唐辛子や花椒が絡んだネギが、最高にうまい。ネギは甘いでしょ。で、辛くて、しびれがあって、アクセントが効いてる。鶏肉を食べて、ネギにいく。これがもう、おいしいんですよ。
お家でつくろう、辣子鶏
それでは今回の材料です。
ラーズーチー(約2人前)
- ニンニク 3片 (包丁でつぶして香りを出す)
- 長ネギ 1本 (斜めにざく切り)
- 唐辛子 60g (ハサミで斜めに半分に切りタネと分ける、タネも使う)
- 鶏もも肉 200g
- 生姜 小さじ1(チューブの生姜でOK)
- 醤油 小さじ2
- 片栗粉 適量 (鶏ももにまぶす)
- 油 大さじ6 (香りがきつい油でなければなんでもOK)
- 花椒(中国山椒)ホール(粒)で 5g
- チキンパウダー ひとつまみ(ない場合は中華スープの素や鶏ガラスープの素でもOK)
- 塩 ひとつまみ
- 紹興酒 大さじ1(料理酒やウイスキーなどでもOK)
材料を切る
人長:まずは野菜から切りましょうか。
人長:長ネギ1本、まるまる入れちゃいます。半分とか残しても、冷蔵庫で干からびちゃうんで。
人長:長ネギは、具材としてのものなので、これくらい大きく、ザクザクと切ってしまいます。
人長:青いところも使っちゃいます。
人長:普通は捨てるところですが、緑が入ると色味がきれいになる。
人長:こんな感じでネギの用意はオッケーです。
人長:ニンニクは3片。
人長:中華包丁だとこうしてたたいてしまえばいい。
人長:たたいて、それだけでオッケーです。でもまあ普通に皮は外してください。スライスしてもいいんですけど、たたくと香りがいいんです。イタリアンの人も包丁でグッとつぶしたりしますよね。
── ズバーンとたたける。中華包丁いいなあ。
人長:お次に、鶏肉を切ります。鶏のもも肉です。
中華のまな板の上で中華包丁を使い、ドカドカとたたき切る人長さん。
鉈(なた)を振るうがごとき豪快さ。板の薄いまな板だと、板が跳ねてしまってたたき切ることができないのである。中華の包丁とまな板のセットはパワフルなこともできてうらやましい。
人長:鶏のもも肉って、スジとか軟骨が残ってるんですよ。こういうのは口に残りやすいんで、外しましょ。
人長:だいたいひとくち大に切ったらビニール袋に入れて下味を軽くつけます。おろし生姜を小さじ1杯。醤油を小さじ2杯。だいたいでいいです。
── 自分で「小さじ1杯だ」と思った量、ですよね。
人長:そう。そんなんでいいんです。そしたらもんでなじませて、放っておきます。次の作業の間に味が染み込んでくれます。
── 別作業の間に漬け置くメソッドですね。
人長:唐辛子です。60グラムあります。
人長:これをハサミで切っていきます。斜めに切るのがいいです。タネが抜けやすいんですよ。
人長:パック売りの輪切り唐辛子でもできますが、こっち(まるごと唐辛子)のほうがおいしいです。辣子鶏は、唐辛子の料理なんで。そしてこれを延々と切り続けます。地味な作業です。お店だと3キロ4キロくらい切るんですよ。外に出しておくと乾燥してカピカピになっちゃうんで、冷蔵庫に入れてあるんです。
人長:ザルでタネをこしたやつです。お店だと、タネはいろんな使いみちがあるんで、こうしてとっておいてます。
── その4キロの唐辛子、お店のスタッフさんたちがずっと手作業で切るんですか。「唐辛子を自動で斜めに切るマシーン」みたいなものは無いんですか。
人長:ないですね。欲しいですけどね。あったら特許ですよ、トッキョ(笑)。なんで切ってるのかというと、唐辛子って外側の皮の部分よりもタネのほうが辛いんですよね。なので、まるごと炒めるよりも切ってタネを出して炒めたほうが、辛味が増す。唐辛子の辛味が油に、より染み込むんですよ。だからこうやって切るんです。面倒くさかったら、こうして手でちぎってもいいです。
人長:辛いのが苦手な人は減らしてもいいんですけど、そもそもこれはこういう料理なんで。
── 「鶏肉が唐辛子に埋まっている料理」なんですよね。唐辛子自体は食べないし。
人長:こうやってもむとタネが抜けてくるんですよね。タネと房は分けておきます。
人長:ちなみにこの作業のとき、仲間に「目になんかついてますよ」って言って目を触らせようとするイタズラは「中華料理店あるある」です。
── 普通にひどい(笑)。
調理開始です
人長:仕込みは終わりました。これより料理に入ります。まず最初は鶏肉を炒めていきます。
唐辛子の下ごしらえをしている間に、漬けていた鶏肉に味が染み込んでいる計算です。
人長:辣子鶏の鶏は本来、油で揚げるものなんです。でも、家でやるとやっぱりちょっと手間になるので、多めの油で炒めることにします。使う油はなんでもいいんですが、唐辛子と山椒の香りが大事なんで、オリーブオイルなどの香りの強い油はやめたほうがいいかもしれない。
── オリーブオイルに唐辛子とニンニクだと、ペペロンチーノになってしまいますもんね。
人長:おっ? それもいいですね。やってみますか、ひと味違った辣子鶏を!
── ああっ違います、今日は違います。
人長:まあ、僕も、ウチで作っててオリーブオイルしかなかったら使いますけどね(笑)。ちなみに中国では一般的に菜種油が多く使われていますね。サラダ油とかじゃないんですね。さて油の量は、1、2、3、4、5、6……。大さじ6!
── けっこういきますね。
人長:さらに、ここに鶏の油も出るんですよ。あ、この油はまたあとで利用します。
人長:で、鶏肉に片栗粉をまぶして。ちょっと竜田揚げっぽい感じ。
人長:あまり熱い油に入れると跳ねちゃうんで、ぬるい油からで大丈夫です。
人長:火は、中火です。家のガスレンジだと弱火くらいでもいいかもしれません。なんでかっていうと、火が強いと、鶏肉に火が通る前に焦げちゃうんです。まわりだけが黒くなって、中が生焼けになっちゃう。油が跳ねるのがイヤだって場合は、フタをしても大丈夫です。
弱い火でやってますので、カリカリになるまで待ち時間。
人長:醤油と生姜が入ってると、香りがいいですよね。
人長:鶏肉に火が通ってきたのでひっくり返します。表面がカリッとするくらい。カリッとしないとダメなんですよ。片栗粉をまぶしたのでカリッとしやすくなってます。この方法だったら揚げ物じゃなくてもカリッと仕上がりやすいので、今回は多めの油でやってます。
鶏の香りが油に移るので、この油を使ってさらに唐辛子と花椒を炒めて、どんどん香りを移していくんです。
── 鶏肉って、仕込みの段階で余計な脂肪をそいだりしますけど、油が大切となると、その作業はやらないほうがいいですか。
人長:そうですね。そのままで大丈夫です。だって、面倒くさいじゃないですか(笑)。家でやるならそれで十分です。
人長:火が通ったら、いちどお皿に移動させます。
人長:今回は撮影だから別のお皿にしてますけど、一時的によけておくだけなので、食べる皿に盛ってしまっていいですよ。洗い物が増えちゃいますし。
人長:この油はいったん移して。そこから大さじ3杯をフライパンに入れ直してと。
人長:ニンニクと花椒を炒めます。
人長:ニンニク3片。花椒はホール(粒)のままを5グラム。
人長:ニンニクは焦げやすいですけど、かといって生だと臭いじゃないですか。焦げないように弱火でやっていきます。
人長:ここで間髪入れずに、ネギの白い方を投入。
人長:なぜここで入れるかというと、ネギは火が通りにくいんです。生焼けのネギほどおいしくないものはない。あと、ネギを入れると温度が下がるんで、焦げにくくなりますよね。
人長:さっき、油が多いと思ったかもしれませんけど、このとおり。ネギが油を吸うんです。で、火が通るとまた油が出てくる。ネギを焦がさないための油でもあるんです。
── ずいぶん熱心に嗅いでますけど、焼き加減の目安は香りなんですか。
人長:まあそうなんですけど、おいしい料理って香っていたいじゃないですか。
── わははは!
人長:やっぱね、料理って見た目もそうですけど、香りもすごく大事なんですよね。料理が登場してきた時に「わー、めっちゃおいしそう、香りもいい」となると、食欲そそるじゃないですか。そこが大事なんですよ。それがないと、どんなにうまくても、おいしそうに感じない。
人長:そして唐辛子。タネは辛さを決める材料なので、お好みで適量入れましょう。次に唐辛子本体を。ここは加減してください。
(がばー!)
── うーわー!
人長:へへへ。僕は、いっぱい入れちゃいます(笑)。
人長:炒めてみて、焦げそうとか、油が足りなそうとかになったら、さっきの油を足してあげてください。うん。いい香りが出てきましたね。
人長:ここに青ネギです。香りがいいし、色味もよくなる。
── あとから青ネギを入れるのは火の通りが早いからですか。
人長:そうです。クタクタになっちゃうとおいしくないので。
人長:香りと辛味が出てきました。ネギ、火が通りました。青ネギもだいたい火が通りました。そしたらここにさっきよけといた鶏肉を投入してあげます。
人長:こっから焦げやすいので、いったん火を止めます。お塩をひとつまみ。チキンパウダーもひとつまみ。チキンパウダーがなかったら、中華スープの素や鶏ガラスープの素でも代用できますよ。
人長:そしてここで、香りづけにお酒を加えます。ホントは紹興酒がいいんですけど、他のお酒でもいいです。ウイスキーでもいいです。大さじ1です。
人長:最後にお酒を鍋肌に落とす。すると……香りがバーっと上がってきますね!
人長:すごーく丁寧に進めましたけど、普通にやれば10分でできる料理ですね。
辣子鶏の辛さは「うまさ」でもあります。
ある程度の辛さがあるからこそ、おいしいタイプの料理なんです。
激辛チャレンジ的なやつじゃなく、ちゃんと「辛さに意味がある」やつですね。
興味がある人はぜひ作ってみてほしいですが、作るのはちょっと……という人は、まずは人長さんのお店「リバヨンアタック」に行ってみて、本格派の辣子鶏を食べてみるのをおすすめします。
人長さんが実際に作ったものを試してみると、そのおいしさにシビれるはずです。
撮影:平山訓生
お店情報
リバヨンアタック
住所:東京都中央区日本橋室町3-4-4 OVOL日本橋ビルB1F
電話番号:03-3548-0840
営業時間:ランチ/月曜日〜土曜日11:30~15:00(14:30 LO)、祝日11:30~14:30(14:00 LO)
ディナー/平日17:30~翌0:30※金曜日のみ翌1:00まで(23:00 FLO/24:00 DLO)、土曜日17:30〜翌0:00(23:00 FLO/23:30 DLO)、祝日17:30〜22:00(21:00 FLO/21:30 DLO)
定休日:日曜日(20名様以上のご予約の場合は、営業させて頂きます)