公演中の劇団員8人感染、観客600人検査なし大丈夫? 市は劇場名公表せず

2020/11/14 14:00

観客席前方で、客が密接して観覧している様子が分かる=11月2日、神戸市内(観客提供、画像の一部を加工しています)

 今月初旬、神戸市内の劇場で公演中だった劇団員8人の新型コロナウイルス感染が分かり、感染者集団(クラスター)が発生した。市は「観客の感染の恐れはない」として劇場名などを公表せず、延べ約600人の観客の検査や健康観察に至らなかった。だが、神戸新聞の双方向型報道「スクープラボ」に、観客の女性から「団員が舞台から降りて、客が触れる場面もあった」との証言が寄せられた。市の対応は適切だったのか。(初鹿野俊) 関連ニュース 「防戦一方、現場は疲弊」コロナ重症患者ら受け入れの病院 病床や人員不足、危機感あらわ 感染児童が治癒後不登校、「職場に迷惑」退職余儀なく 新型コロナやまぬ中傷被害 「こんなはずじゃなかったのに」コロナで風俗店勤務の女性は…

 市によると、公演は今月1~3日に1日2回開催。劇団員12人のうち、1日から一部にせきなどの症状が出始め、4日に3人の感染が判明した。残りの団員9人も濃厚接触者としてPCR検査を受け、うち5人が陽性だった。念のため、感染者と一定の接触があった劇場スタッフ5人も検査したが、全員陰性だった。
 市は観客は検査や健康観察の対象ではないと判断した。関係者への聞き取りを踏まえ、入場時の検温や手指消毒の実施▽マスク着用や間隔を取っての着席の呼び掛け▽舞台と客席最前列の距離を2・5メートル確保▽換気のため常時扉を開放-などの感染対策を採っていたことが確認できたためという。
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 しかし、実際に観客席にいた女性によると、舞台に近い客席は客同士が詰めて座り、団員が舞台から降りて客から触れられる場面も。消毒をせずに入場する客がいたり、換気も不十分と感じたりしたことから、女性は「感染していないか不安。市は客に検査や注意喚起をすべきでは」と訴える。
 全国公立文化施設協会が9月に改定した劇場、音楽堂等の感染拡大予防ガイドラインは「感染リスクが高まるような演出は控える」とし、公演関係者に発熱やせき、全身倦怠(けんたい)感などの症状がある場合は「自宅待機等の対応を取る」とする。
 市も公演中の団員と客の接触を把握していたが、「感染者とマスクを着けずに1メートル以内で15分間の接触」という国の濃厚接触者の基準を根拠に「感染リスクは極めて低い」と説明する。
 ガイドラインは公演主催者に来場者の氏名と連絡先の把握に努めるよう求めるが、市によると、この公演では大半は把握していなかったという。投稿者の女性は9月にクラスターが発生した兵庫県明石市内の劇場にも足を運んでいたが、事前に劇場から連絡先を聞かれ、クラスター発生後に保健所から連絡を受けたという。
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 13日時点で、神戸のこの劇場関連の新たな感染者は確認されていない。劇場は18日まで臨時休業中。市は団員が食事や宿泊を共にする中で感染が広がったとみて予防策強化を指導し、劇場には引き続き消毒や換気の徹底などを求める。
 女性は「市が劇場名を発表しないと、クラスターを知らないままの客もいるはず」と疑問を呈し、「多くのファンは公演が見たいから黙っているかもしれないが、客の安全が置き去りにされている感じがする」と話した。
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