4月8日に正式サービスがスタートする楽天モバイルから、事業のキーマン2人が退職していたことがわかり憶測を呼んでいます。メルマガ『石川温の「スマホ業界新聞」』の著者でケータイ/スマートフォンジャーナリストの石川温さんは、この2人の前職や担っていた役割を紹介し、このタイミングでの離脱を訝しく思っています。石川さんはさらに5Gサービスの地方展開においてソフトバンクとKDDIの協業が決まり、5Gにおいても楽天の苦戦を予想しています。
楽天モバイルから相次いでキーマンが離脱――サービス開始直前、社内でなにがあったのか
4月1日、日経ビジネス電子版が楽天モバイルの副社長であった徳永順二氏とマーケティング担当であった大尾嘉宏人氏が楽天を退職していたことを報じた。大尾嘉氏が退社するという情報は2月上旬、徳永氏の話は3月上旬には業界ではすでに有名な話であった。
徳永氏は楽天入社前はソフトバンクで渉外部門を担当。ソフトバンクから楽天への電撃移籍が業界内で話題となっていた。また、大尾嘉氏はMVNOの楽天モバイル時代から、記者会見にも登壇するなど、同ブランドの顔的な存在であった。渉外とマーケティングのキーマンが、サービス開始直前に離脱するとは、社内的に「何かがあった」と推測したくなってくる。
商用サービスの目玉である「月額2980円で使い放題」や「楽天Link」に対して、社内で擦ったもんだがあったのかもしれない。徳永氏をあれこれネットで検索してみると、ソフトバンク時代に渉外担当として「0ABJ IP電話」の品質基準に関する規制緩和を内閣規制改革会議創業等WGにプレゼンした資料が見つかる。ソフトバンクの渉外担当として、外国と比べて厳しい品質基準を設ける総務省に対して、規制緩和を迫っていたのだ。
楽天モバイルでは、090などの番号でIP電話が使える「楽天Link」がウリになっている。まさに、IP電話の推進は、徳永氏がソフトバンク時代に渉外担当として手掛けていた悲願だったにもかかわらず、なぜ、このタイミングで楽天モバイルを去ることになったのか。
また日経ビジネス電子版では、三木谷浩史社長が、CTOであるタレック・アミン氏を重用し、発言権が高まって来たことが大尾嘉氏が辞めたという推測をしていたが、そもそもタレック氏は技術の人であるし、大尾嘉氏はマーケティングサイドの人間だ。
昨年10月に無料サポータープログラムを開始したが、当時の混乱に対して陣頭指揮をとって処理していたのは大尾嘉氏であったし、その直後に会う機会があったが、相当、苦労した様子であった。そんな苦労話を聞きつつ、「来年のサービス開始を楽しみにしています」と話したのだが、まさか楽天を辞めてしまうとは思わなかった。
果たして、楽天モバイルの中で何があったのか。立て続けに2人のキーマンが楽天に落胆し辞めてしまうとは誰が想像したであろう。
KDDIとソフトバンクが5Gの地方展開を実現する「5G JAPAN」を設立――NTTドコモと楽天は、どうするつもりなのか
ソフトバンクとKDDIは、5Gの地方展開を加速させるための合弁会社「5G JAPAN」を4月1日付で設立したと明らかにした。両社が保有する基地局資産を相互利用するインフラシェアリングを行っていくという。
ソフトバンクとKDDIの取り組みは、2019年7月の合意を持って動き出した。当時、NTTドコモの5G関係者に「NTTドコモは、この2社から距離を置くのか」という質問をしたことがあったのだが「参加するかどうか検討している最中であり、答えが出るのはもう少し時間がかかりそう」という回答であった。てっきり3社で合意するのかと思いきや、NTTドコモは自社並びにNTTグループで地方展開を進めていくのかもしれない。
ソフトバンクとKDDIは、4Gの周波数帯でも5Gのスマホを扱える「DSS(ダイナミック・スペクトラム・シェアリング」の導入に前向きである一方、NTTドコモは、まずは5G向けに割り当てられた周波数帯を活用するという考え方の違いもある。5Gのネットワーク構築については「NTTドコモ」と「ソフトバンク・KDDI」で真っ二つに割れたと言っても良いだろう。
ソフトバンクとKDDIのインフラシェアリングは、実に両社にとってメリットの大きい話だ。「両社が保有する基地局資産を相互利用する」ということなので、全く同じ数、お互いがすでに持っている基地局資産を融通しあえば、一方の会社からの持ち出しは限りなくゼロにできる。2社で全国の地方を展開する際、文字通り約半分の負担で済むことになる。
仮にこの座組みに、楽天モバイルが入ったとしよう。楽天モバイルは、地方にはほとんど基地局資産を持っていない。楽天モバイルが地方の基地局を使いたいと思えば、すでに所有しているKDDIもしくはソフトバンクの基地局資産を間借りしなくていけない。つまり、そこで賃料や使用料が発生するというわけだ。KDDIとソフトバンクは基地局資産を生かして儲けることができるが、楽天モバイルはお金が出る一方となる。
楽天モバイルが負担ゼロで、他の2社と対等にこの座組みに参加するには、KDDIやソフトバンクと同規模の地方インフラネットワークを整備してからのことになる。楽天モバイルとしては5Gに勝機を見出そうとしているが、地方展開においても、まずは自分たちでコツコツとネットワークを構築するところから始める必要がありそうだ。
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