楽天の駆け込みトレードは“投手中心指名”の布石に

田中貴也(2017年11月11日撮影)

楽天の“駆け込みトレード”は中長期的なビジョンの一端だった。トレード締め切り前日の9月29日に、巨人から金銭トレードで田中貴也捕手(28)を獲得した。翌30日、オンラインで入団会見が行われ、田中貴は「チャンスをしっかりものにできるよう、1軍のレギュラーになれるように頑張っていきたい」と新天地での躍進を誓った。

続けて取材に応じた石井一久GM(47)がトレードの意図と経緯を丁寧に説明した。27日に太田光が、左肩関節唇損傷で離脱。足立も下半身のコンディション不良と、主戦捕手2人の離脱が相次いだ。田中貴の獲得は終盤戦に差し掛かった時期だけに即戦力捕手としての意味合いが強いかと思われたが、同GMは「手薄になったスポットを埋めるためにきていただいたという浅はかな考えはない」と否定した。

もう1歩踏み込んだ、明確な意図がある。田中貴は巨人では1軍経験は2試合だけだが、年齢的に捕手として成長する時間の猶予を残す。「まだ28歳。捕手はそんなぽんぽん代わるポジションじゃない。中期的に1軍の1番手、2番手、3番手、これからの頑張りと成長の仕方ではそこに座る資格がある選手」と立ち位置を示した。その上で「1つとして、今後のドラフト戦略に比重があった獲得だったと思う」と明かした。

10月26日にドラフト会議が控える。チーム編成上の最重要イベントが間近に迫っている。楽天は過去5年で上位3位は投手5人、野手10人を指名。直近2年は18年辰己、19年小深田と即戦力野手を1位指名してきたが、今年は投手中心の指名になりそうだ。同GMは「チーム戦略として今年は優先して獲得したいポジションがあるので、捕手に使う枠が無い」とも言及した。

野手陣の強化が進む一方で投手陣の再構築が急務となっている。先発陣は29日終了時点で、ロッテから加入した涌井がチームトップ9勝も、チームを支えてきたエース則本昂が5勝、岸が2勝にとどまる。先発転向の松井は3勝、昨季8勝の石橋も1勝と勝ち星が伸びない。シーズン途中に巨人から高田を獲得し、有望株の藤平との相乗効果を促すが、未来を見据えたエース候補の手薄感は否めない。今季最後のトレードは、ドラフト会議での“投手中心指名”の布石になりそうだ。【為田聡史】