日本代表NO8姫野和樹(25=トヨタ自動車)が、地元愛知で成長を刻み込んだ。ボール争奪戦で相手の反則を誘発して得点を演出し、後半13分にはW杯初トライを記録。会場は「姫野コール」に包まれ、若き成長株が故郷に錦を飾った。

歓喜の輪の中心で姫野が笑った。19-12の後半13分。ラインアウトからモールを押し込み、FWの奮闘をW杯初トライで形に残した。「姫野! 姫野!」と沸く大歓声に包まれ「地元から愛されているんだ」と自分だけの感情に浸った。

特別な一戦だった。「慣れ親しんだ場所。多くの地元ファンが見てくれる安心感があった」。名古屋市で生まれ、中学で始めたラグビーに「相手をはじき飛ばしたり、タックルであおむけにする。この体を最大限生かせることがうれしかった」とのめり込んだ。3年で身長は185センチ。地元の春日丘(現中部大春日丘)高ではFWながらキックも容認され、自由に育った。

転機は高2だった。宮地真監督(54)との進路相談で、家庭の事情を考慮し「地元に残りたい」と訴えた。だが、日本代表入りを確信していた恩師は認めなかった。「それは違う。能力があるんだから伸ばせ。後から親孝行すればいい」。腹をくくり、進んだ強豪帝京大。日本人離れした才能に知識が加わり、トヨタ自動車入りで地元に戻った。

4年前と世界観は変わっていた。社会人1年目から所属先で主将を務め、代表でもリーダー陣に名を連ねた。同じFW第3列のリーチを「超えなきゃいけない人。ライバルなんですけれど、僕が一番好きな人間であり、一番尊敬している選手。彼を超えられたら確実に成長できる」とあえて意識してきた。練習中、隣で走れば1秒でも先着することを意識した。フィジカルが強いサモアに対しても「負けない自信があります。そこは仕事」と意気込んだ通り、体をぶつけ続けた。

大一番のスコットランド戦へ、その誓いは力強くなる一方だ。「必ず勝ちます。全勝で良い流れを保って、決勝トーナメントに行きたい」。今の姫野は、立ち止まらない。【松本航】

◆姫野和樹(ひめの・かずき)1994年(平6)7月27日、名古屋市生まれ。愛知・春日丘高1、2年時に花園出場。帝京大で大学選手権8連覇などに貢献。17年にトヨタ自動車に加入、1年目から主将。同11月オーストラリア戦で日本代表デビュー。ポジションはロック、フランカー、NO8。趣味は温泉。187センチ、108キロ。