どうなる2022年の中国経済──多重ジレンマの中での安定模索

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中国は改革開放が始まった1978年から、30年に渡って年平均9.9%の高度経済成長を続けた。世界第2位の経済大国にまで発展したが、ここにきて景気の失速が鮮明になってきた。日本をはじめ、世界に大きな影響を与える中国経済はこの先、どうなるのか。

高い成長率の21年GDP

2021年の中国の実質国内総生産(GDP)成長率は前年比8.1%と、他の多くの主要国・地域と比べ高い成長を遂げた。それ自体得難い成果であることは論を待たない。

ただし、21年の高成長は、大規模なロックダウンや移動制限などにより20年に成長率が2.2%に落ちた反動によるところも大きい。また、20~21年の年平均実質GDP成長率は5.1%と、約20年来の最低値であった19年の6.0%と比べて低めであった。

 加えて、年末が近づくにつれ成長率が鈍化し、景気の下支えの必要が強く意識されるようにもなっていった。四半期ごとに前年同期比ベースで成長率をみると、1~3月期から順に18.3%、7.9%、4.9%、4.0%と、「先高後低」であった。「先高後低」となった理由は、20年前半のマイナス成長の反動だけではなかった。経済運営にも原因があった。

固定資産投資、実質伸び率は大幅なマイナス

需要項目別にみた場合、21年の「先高後低」の主因は投資の落ち込みにあった。固定資産投資の実質伸び率は、21年7~9月期が前年同期比マイナス7%程度、10~12月期がマイナス9%程度と大幅なマイナスとなった(推計、図参照)。

特にインフラ投資(電気・ガス・水道を含む)の低迷が効いた。財政刺激策を弱めたことがその一因だ。広義でみた財政赤字(一般財政収支の赤字に、社会保障基金・国有資本経営基金の赤字、地方政府融資平台のインフラ支出、特別建設基金・政府誘導基金の支出等を加えたもの)は対GDP比で20年の17.5%から21年には16.5%に縮小した模様だ(国際通貨基金)。インフラ建設を主目的とした地方政府特別債の新規発行額も21年は0.5%減少した。しかも発行時期が年後半主体となったため、実際のプロジェクト着工はさらに後ずれすることになった。地方政府債務の抑制を図った分、景気が下押しされることになったといえる。

デベロッパーの資金繰り悪化で不動産投信が減少

不動産業の投資も21年後半に実質ベースで大幅に減少した(21年7~9月期前年同期比マイナス7%程度、10~12月期マイナス13%程度、推計値)。「住宅は住むもので投機対象ではない」との認識の下、不動産市場の過熱を抑えるために厳しい融資規制が敷かれたためだ(20年8月の「三つのレッドライン」政策に基づくデベロッパー向け融資規制、21年1月施行の貸出残高に占める不動産関連融資比率の上限規制など)。その結果、恒大集団のデフォルトに代表されるように、デベロッパーの資金繰りが悪化し、不動産投資の減少を招いた。民生の安定や将来の金融リスク低減のために、足元の経済成長鈍化を甘受したといえるだろう。

個人消費も「先高後低」となった。①20年前半の落ち込みの反動②21年後半にかけて高まったインフレによる実質所得の伸び悩み③半導体不足による生産減少に伴う自動車の販売減少に加え、21年後半に新型コロナの国内症例が増え、中国政府が行動規制を強めた結果、交通、文化・娯楽関連の消費が減速したことも個人消費の減速をもたらした。コロナの感染拡大抑制を優先した分、景気減速という対価を払うことになった。

輸出についても「先高後低」となったが、21年後半も実質ベースで前年同期比10%近傍の拡大を保った。一方、上述した内需減速により、実質輸入の伸び率が年後半に同ゼロ%程度に落ちたため、成長に対する純輸出の寄与が高まっていった。

このように、改革と短期的成長の維持のジレンマの中で改革が選択される傾向が強かったこと、コロナの感染抑制と成長維持のジレンマの中で前者が優先されてきたことが21年後半の景気を減速させる要因となったといえる。

中央経済工作会議は「安定」を最優先

しかし、21年12月に開催された中央経済工作会議では、「安定」最優先の経済運営を行うことが明言された。最高指導部を決める中国共産党第20回全国代表大会(以下、党大会)が今秋に控えているからである。習近平総書記の3期目続投を確かなものにするためにも経済の「安定」が殊更に重視されていると考えらえる。中央経済工作会議の結果を伝えた発表には、安定を意味する「穏」の字が25も含まれていたほどだ。

経済の安定を図るため、22年も「積極的財政政策」が取られる。ただし、21年は「財政支出の強度を適度に保証」するとされていたが、今年は「適度に」が削除された。「支出スピードを加速」するという文言も加えられた。上述のとおり、21年は財政赤字の対GDP比率が引き下げられたが、22年は同比率を21年並みに維持しつつ、年初から地方政府特別債の発行を急ぐことでインフラ投資による景気の下支えを早期に図るのだろう。

一方で、金融政策も安定を重視し、「穏健的金融政策」を維持することになったが、「柔軟かつ適度」とし「流動性を合理的かつ十分に保持」するとの方針が掲げられた。①企業の資金繰りを支えるため、預金準備率の引き下げなどを通じて流動性の供給は保つが②インフレ圧力や不動産投機の恐れが残るだけに、金利の引き下げは小幅にとどめる③ただし、景気減速の度が強まった場合には、臨機応変に緩和するというのがその趣旨だろう。

「共同富裕」の実現へ 制度を整備

加えて、中国政府は、昨年混乱や懸念を招いた政策については優先順位を明確にすることで安定化を図ろうとしている。その典型例が「共同富裕」だ。「共同富裕」の実現には長い時間がかかる、「安定的」に推進し、「パイを大きく」したうえで「合理的な制度」を通じて「パイをより良く切り分ける」と中央経済工作会議は明言した。成長が先、分配が後、かつ、分配は恣意(しい)的にではなく制度を通じて行う、ということだ。

2030年のカーボンピークアウト、60年のカーボンニュートラルに関しても、中央経済工作会議は「一気に成し遂げるのは不可能」と述べ、急進的な政策遂行を否定している。伝統的エネルギー(化石燃料)の退出は、新エネルギー(再生可能エネルギーなど)の安全・安定的な供給の基盤を確保した後に漸進的に行うと言っている。21年に天候要因により風力・水力発電量が低下し、電力不足に陥る地域が出たことを意識しているのだろう。現に、昨年秋の電力不足以降、脱石炭よりも電力供給の安定性が優先されるようになっている。

デベロッパーに対する融資規制についても、幾分緩和される動きがみられるほか、デベロッパーの破綻が金融危機や住宅購入者・サプライヤーの不利益にならないよう、国有企業や金融機関などを通じた救済が21年10月頃から図られるようにもなっている。自己責任による経済活動という原則よりも、経済・民生の安定が重視されているからに他ならない。

世界経済安定のカギ握る中国

世界第2位の経済大国・中国の安定は、対中経済依存度の高い日本はもとより、コロナで傷んだ世界経済にとり重要だ。主要機関は中国の今年の成長率は5.0%前後になると予測している。他方で、安定を重視するあまり改革が先送りされることになれば、後により大きな経済の腰折れを中国が余儀なくされる恐れが高まる。中国政府もそれを意識し、「跨周期宏観調控」、すなわち安定成長とリスク防止の長期的なバランスの維持、質の高い発展の長期持続のために、構造問題の軽減につながる分野に財政・金融的支援を行うことを強調している(中小企業・ハイテク産業の発展支援、5Gやクラウドなどの新型インフラ建設・新エネなど)。

それでも懸念は残る。土地使用権の譲渡収入に強く依存した財政構造の是正の遅れだ。その是正のために固定資産税に相当する「不動産税」の導入を中国政府は目指してきたが、安定重視の中、小粒なものにとどまる可能性がある。国有企業に対する「暗黙の政府保証」、経済・社会の安定にも配慮した国有企業の「非商業的考慮」に基づく行動が続き、公平な市場環境の整備が遅れる恐れもある。党大会が終わり、今後5年の最高指導者が固まったところで改革に再び軸足が移っていくのか、その点も注視していく必要がある。

ゼロコロナ政策が大きなジレンマに

改革か経済の安定かというジレンマ以外に、もう一つ中国の先行きを左右する大きなジレンマがある。感染力が強い一方、重症化率が低いといわれるオミクロン株が中国でも散発的に広がりをみせる中、経済的な損失を甘受してでも「ゼロコロナ」政策を続けるのか、それとも経済に配慮し「ゼロコロナ」政策を見直すのかという問題だ。コロナの感染拡大抑制と経済成長の両立はどこの国においても難題だが、経済規模が大きく、また、グローバルサプライチェーンの中核にいる中国だけに、中国政府の決断は世界経済をも左右する大きな要素となるだろう。

バナー写真:中国不動産開発大手、中国恒大集団のビル(中国・上海)、AFP=時事

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