男性の性犯罪被害を考える<上>たらい回しにされたSOS 「壁」を取り払った改正刑法

 改正刑法が13日に施行され、男性もやっと女性と同等に、性犯罪の被害者として法的に認められる。明治時代の制定以来、約110年ぶりの大幅改正。女性に限られてきた「強姦(ごうかん)罪」が「強制性交等罪」になり、被害の内容が広く捉えられるためだ。しかし男性被害者は「見えない存在」とされてきただけに、課題は多い。どんな制度や支援が必要なのか。2回に分けて考える。

 2015年夏。関西にある大学のカウンセリングルームで、4年生の小田雅人さん(22)=仮名=は精神科医に切り出した。「実は、親友に犯されて…」

 加害者の男性は、12年来の親友だった。被害の約1年前、同性愛者だと打ち明けられた。男性は、小田さんが女性と旅行したことをとがめたり、体を触ったりするようになる。小田さんが抗議すると、馬乗りで顔を殴られ、口を使った性行為を強要された。「嫌だ」と言うたびにペナルティーのように殴られた。

 しばらくして男性の謝罪を受け入れると「誕生日のお祝いをさせて」と食事に誘われた。その日、肛門性交による被害に遭う。殴られた痛みと恐怖がよみがえり、抵抗できなかった。

 翌朝、泣きながら帰宅し、熱を出した。その夜、遺書を書いた。

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 九州に住む家族には相談できない。消えてしまいたいという絶望の中、小田さんはツイッターで心情を吐露した。気付いた知人が、性被害者に医療や法的な情報を提供する「ワンストップ支援センター」があることを教えてくれた。

 匿名で相談のメールを送った。返信に書かれた電話番号にかけると、初めは優しかった女性相談員の声が、小田さんの低い声を聞いた瞬間、冷たくなった。「ご用件は何ですか」

 経緯を話すと「うちではどうにもできません」と警察署への相談を促された。警察署に電話すると、被害状況を確認するため「診断書を取って」と総合病院の電話番号を伝えられた。

 病院に電話し「性被害に遭ったので診断書がいる」と伝えると、男性なのに産婦人科につながれ、断られた。たらい回しにされるSOS。もうやめよう、と思った。

 友人の強い勧めで大学のカウンセリングを受けたのは、被害から5日後のことだった。

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 性被害者の“駆け込み寺”であるべき「ワンストップ支援センター」。政府は全都道府県への整備を目指し、内閣府によると6月1日現在で39カ所ある。

 ただ、内閣府作成の「開設の手引き」では、センターの支援対象は「急性期(被害後1~2週間程度)の女性被害者」とするにとどまっている。支援に関わる病院は産婦人科がある病院とし、男性被害者には「情報提供など、できるかぎりの対応を」と短く記しているだけだ。センターには男性からのいたずら電話もあり、男性相談者への対応は差があるのが現実という。

 これまで男性は、より刑の軽い「強制わいせつ罪」などの被害者にとどまっていたが、今回の刑法改正で「加害者は男性、被害者は女性」という壁が取り払われた。「僕のように泣き寝入りしている男性はたくさんいると思う。助けを求めて傷つく人間が出るのは、法改正を境になくなってほしい」。小田さんは期待を込める。

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 【ワードBOX】性犯罪に関する改正刑法

 性犯罪の厳罰化が狙い。起訴するのに被害者の告訴が必要となる「親告罪」の規定がなくなり、親など「監護者」による性的暴行を罰する規定が新設される。「強姦(ごうかん)罪」が変更になった「強制性交等罪」は、法定刑の下限が懲役3年から5年に引き上げられる。膣(ちつ)性交だけでなく肛門や口を使った性交なども処罰対象とし、被害者の性別を問わない。


 2017/07/11付 西日本新聞朝刊

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