病と向き合い「幻聴アート」初個展 18日から福岡市 姉の後押しで再び絵筆

 てんかん性精神障害を患う下坂卓也さん(32)=大野城市=が18日から、福岡市中央区で初めての絵の個展を開く。1年間の入院生活の後に昨秋、愛する姉に支えられ、創作を再開した。精神症状による幻聴の「助言」に耳を傾けながら描く、「幻聴アート」30点以上をお披露目する。

 下坂さんは中学生の時、買い物中に突然倒れ、脳浮腫と診断された。服薬しながら高校に通い、姉の入江真澄さん(36)に「たあ君の絵はインパクトがある」と言われたことをきっかけに、九産大芸術学部へ進学。原色や蛍光色を使った巨大なツリーハウスも手掛けた。

 卒業後もフリーターや会社員をしながら絵画のグループ展に出展するなどしてきたが、職場で発作を起こすことが増えた。「(発作中の)意味不明な言動で同僚に不審がられ、嫌な思いをしたこともあった」という。2017年夏には退職と入院を余儀なくされ、検査の結果、発作がてんかんによるものだと分かった。

 病床では絵筆を握らなくなった。下坂さんは、当時の心境を「何かに集中するのがきつかった」と振り返る。

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 そんな弟に寄り添い続けたのが、入江さんだった。

 「何とかして引っ張り上げたい」と、糸口を求めて同じような病気と向き合う家族会に参加し、「たあ君を元気にするのは芸術だ」と確信。18年10月に退院し、「脳のリハビリ」で再びキャンバスに向かい始めた背中を押そうと、作品を世に問える公募展の情報を集めに走り回った。

 その姿に、下坂さんは「どんどん色が乗ってきて気分が上がった」。原色を多用したポップな色柄のアクリル画、緻密でもの悲しい雰囲気のペン画…。3カ月の間に100点もの作品を仕上げ、国内外の四つの公募に挑戦した。

 入院の前後で、作風に大きな変化はない。ただ、「幻聴を生かすようになった」のだという。絵を描いていると「そこは赤を塗った方がいい」「点模様を付けた方がいい」などと、2、3人の声が交互に聞こえてくる。「最初は戸惑い、粗暴行為をしてしまったこともあった。でも今は、その助言を取り入れるかどうか自分の意志で決定できている」。下坂さんは、自らの作品を「幻聴アート」と名付けるようになった。

 今回の個展も、入江さんの力添えで実現にこぎ着けた。「幻聴とはいえ彼の意識が生んだ世界。姉として一ファンとして、これからもサポートを続けたい」と入江さん。中央区清川1丁目のペンギン堂ビル3階「カフェアンドバーgigi(ジジ)」で、24日まで開催。要ワンドリンクオーダーで、21日は下坂さんが在店する。

=2019/02/08付 西日本新聞朝刊=

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