「現実世界がしぼむ」医師に聞くゲーム依存の怖さ 予防策は?

【リアルはどこに ゲーム依存を考える】<5完>

 日常生活を壊すゲーム依存が脳にもたらす影響や予防策について、最前線で治療と研究に取り組む国立病院機構久里浜医療センター(神奈川県横須賀市)の樋口進院長(65)に聞いた。

 -ゲーム依存が怖いのは。

 「日常生活の中心がゲームになり、現実世界がしぼんでいく。ゲーム仲間と競争や協力をするうちに、自分の役割ができ、ゲームの中での人間関係が強くなる。現実の生活に戻ろうとしても、勉強に付いていけず、友達もいないなど、ハードルが高すぎて簡単ではない。さらにゲームに逃げ込むしかなくなる」

 「中高生の場合、昼夜が逆転し学校に行けなくなる。成人では高額をゲームにつぎ込む人が多い。さらに進むと、学校や仕事をやめるなどして将来に大きな影響を及ぼす。単なる『ゲームのやり過ぎ』で済まされる話ではない」

 -ゲームの何が問題か。

 「オンラインゲームの仕組みに問題がある。アップデートを繰り返し、永遠に終わりがない。連続してログインするとボーナスポイントが与えられる仕掛けや、スマートフォンに表示される広告、定期的なイベントの開催など、依存させる仕組みがたくさんある」

 -脳の病気というが。

 「脳画像などを分析した海外の研究で、依存症の人は理性をつかさどる前頭前野の機能が低下していることが分かった。アルコールやギャンブル依存症の人の脳でも同様の傾向が見られる。また、快さを感じる神経伝達物質ドーパミンを受け取る受容体(タンパク質の一種)が減少していることも分かっている」

 「前頭前野の機能が落ちれば、ゲームをやりたいという衝動や欲求のコントロールが難しくなり、悪循環に陥る。受容体の減少は、ゲームでドーパミンが大量に分泌され、それまでのゲームの仕方ではわくわく感を感じられない『報酬欠乏』状態になっていることを示している。満足感を求めて、より長く激しくゲームをして依存が進む」

 「依存症の人はそうでない人と比べて、キャラクターや広告などゲームを連想させる物を見るだけで、脳が過剰に反応することも判明している」

 -依存しやすい人は。

 「久里浜医療センターの研究で、(1)ゲーム時間が長い(2)ゲームを肯定する傾向が強い(3)男性(4)ひとり親家庭(5)友人が少ない(6)衝動性が高い-などがリスク要因に上がっている。またセンターにかかる患者の4割ほどが、うつ病などの精神疾患を併発している。発達障害の一つ、注意欠陥多動性障害(ADHD)の傾向がある子どもも多い」

 -一生ゲームを絶つしか治療の道はないのか。

 「依存症は、ゲームの過剰使用によって不登校など何らかの『明確な問題』が日常生活で起こっている状態だ。ゲームの優先順位を落とし、仕事や学業などを一番にする。明確な問題がなくなることが大切で、ゲームから完全に離れる必要があるわけではない」

 -専門的な治療ができる医療機関が少ないとも聞く。

 「そのためセンターに患者が殺到している。2カ月ごとに新患の予約を受け付けるが、希望者が多すぎて1割ほどしか診察できていない。多くの当事者と家族が難民状態になっている。専門家の育成と医療態勢や相談窓口の充実が急務だ」

 -文部科学省がスマホの小中学校への持ち込みを解禁する検討を始めたり、eスポーツが盛り上がりを見せたりと、ゲームがより身近になっている。

 「『eスポーツの選手を目指している』と話す患者が親に連れられ受診している。生活はまさに依存そのもの。『プロになるため』という言い訳で依存状態を正当化し、回復を妨げている。eスポーツがゲーム依存を助長している側面があることは否めない」

 「学校へのスマホ持ち込みは非常に強い危機感を持っている。『いつでもどこでもできる』が依存助長の大きな要因だ」

 -依存症の予防には。

 「オフラインの時間を毎日設けることが大切だ。学校への持ち込みを認めたとしても、校内ではしっかり使用制限しなければならない。校則などで一律に使用を制限できる学校の役割は大きい」

 「アルコールやギャンブルと違い、ゲームは幼児でも始められてしまう。しかしゲームに触れるのが幼ければ幼いほど危険性が高く、数カ月で依存状態に陥る小学生も少なくない。治療も困難を極める」

 「スマホやゲームを与えるのは、遅ければ遅いほどいいと考えている。子どもだけでなく、親や教師への啓発や教育が必要だ」 =おわり

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=2019/05/15付 西日本新聞朝刊=

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