裁判員制度10年、殺人罪起訴率4割減 未遂含め 「自白なし」慎重対処

 裁判員制度が始まった2009年以降、殺人罪(未遂を含む)の起訴率が4割減ったことが検察統計で分かった。裁判員は直接証拠を重視する傾向にあり、検察側が殺意を認める供述がない事件の起訴に慎重になっていることが一因とみられる。手堅く起訴すれば、上がるはずの有罪率もわずかに下がった。刑事司法に詳しい弁護士は「疑わしきは被告人の利益にという刑事裁判の原則が、市民参加で一定程度実現されてきた」と指摘する。

 検察統計によると、殺人罪(同)の起訴率(検察官が起訴か不起訴かを決めた人のうち起訴した人の割合)は制度開始前の06年は56・8%。制度が始まった09年は48・4%、17年は28・2%に減った。これには、殺人容疑で送検され、傷害致死罪で起訴するなど罪名が起訴時に軽くなる「罪名落ち」は含まれない。

 成城大の指宿信教授(刑事訴訟法)は「裁判員は直接証明できる証拠を重視し、推論に対しては慎重な傾向にある。制度開始以降、起訴猶予になるケースが増えている」と分析する。

 千葉県で16年に男女3人が包丁で襲われた通り魔事件で、千葉地検は殺人未遂容疑で逮捕された女を「殺意を認める証拠がない」として傷害罪で起訴した。

 事件を担当した日弁連刑事弁護センター副委員長の菅野亮弁護士は「裁判員前なら殺人未遂罪で起訴された事件だった」と話す。裁判員事件を約50件担当し、うち2割は、不起訴処分や罪名落ちだったという。

 裁判員制度が始まり、検察側は慎重になっているのか。法務省刑事局長は15年の衆院法務委員会で「(起訴率の)低下傾向は裁判員制度前から始まり、制度と連動しているとは言いがたい」と述べた。

 99・9%と言われる有罪率は、裁判員裁判でわずかに下がった。最高裁の司法統計では、09~17年の一審の平均有罪率は99・8%で、裁判員裁判に限れば99・2%だった。16年(98・8%)と17年(97・8%)は99%を割った。

 菅野弁護士は「裁判員は裁くことに慣れておらず、真剣に証拠と向き合い、市民目線で判断していることの表れだ」と評価する。

 九州大法科大学院の田淵浩二教授(刑事訴訟法)は「証拠を絞り込み、公判での証言や被告人の供述に重きを置く『公判中心主義』が進んだ。長時間の取り調べなど強引な証拠固めが減り、冤罪(えんざい)を生まない司法制度改革が進んできたと言える」と話した。

=2019/05/17付 西日本新聞朝刊=

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