「このままでは倒産」韓国客減、観光地から悲鳴 お盆休みの“秋夕”も予約少なく

山下 真、井崎 圭、布谷 真基

 12日から韓国のお盆休み「秋夕(チュソク)」の連休が始まった。例年なら多くの韓国人旅行客で九州もにぎわうが、今年は日韓関係悪化で宿泊施設などの予約は低調。観光関係者には諦めムードが漂う。九州の外国人入国者の約半数を占める韓国人客急減で「このままでは倒産する」との悲痛な声も上がる。

 韓国人客に人気の温泉地として知られる大分県由布市湯布院町。JR由布院駅と観光名所の金鱗湖を結ぶ目抜き通りには、土産物店や飲食店が並ぶ。以前は平日もごった返していた人通りも最近は目に見えて減り、目立つのは中国や台湾の観光客。半年前まで大型バスが殺到していた金鱗湖近くの駐車場も、止まっているバスはまばらだ。

 官民でつくる「由布市まちづくり観光局」などによると、2018年に市を訪れた外国人観光客は89万1676人で過去最高を記録。うち韓国人が半数を占めるが、生野敬嗣事務局次長は「今年の秋夕は期待するほどの訪日客は見込めないだろう」とため息をつく。

 お隣の別府温泉(大分県別府市)で訪日客に人気の「杉乃井ホテル」は、10月以降の韓国人客の予約がゼロになった。西日本鉄道(福岡市)が展開する国内ホテル17店舗では、韓国人客の宿泊室数が7月は前年同月比4割減、8月は6割減まで落ち込んだ。

 釜山から約50キロと近く、訪日客のほとんどを韓国人が占める長崎県対馬市も、8月の韓国人入国者が前年同月比8割減の7613人と急減した。高速船で70分と韓国人に身近な旅行先だったが運休や減便が相次ぐ。4日に市が観光業者らと開いた会議では、韓国以外の海外客や国内客の誘致に注力する方針を確認した。

 掘割を下る「どんこ舟」が人気の福岡県柳川市も韓国人団体ツアー客は減少傾向。堅調な中国や台湾、東南アジアの利用者に支えられているのが現状という。

 福岡-韓国線を運航する韓国系航空会社によると、15日までの秋夕期間のうち前半の予約率は30%台にとどまる。後半は予約率が高い便もあるものの、担当者は「全体では韓国人の利用は前年の半分ぐらいになるのではないか」とみる。JR九州高速船(福岡市)が運航する博多-釜山の高速船「ビートル」も、例年なら秋夕期間は満席というが今年の予約は振るわない。

 韓国の旅行大手「旅行博士」の日本法人(福岡市)の黄教允社長は「リーマン・ショックなどの経済問題ではなく、政治問題でこれほど客が減ったのは初めて」と話す。昨年の秋夕は40組のパッケージツアーを取り扱ったが、今年は1組のみ。年間の売上高が半減する可能性も出てきた。

 取引先のツアーバス会社からは「稼働率低下で今後1、2カ月で倒産するかも」との悲痛な声も出ているという。黄社長は「九州の自治体や関係者と連携して地道に韓国に魅力を伝えるしかない」と前を向く。(布谷真基、井崎圭)

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日韓関係の冷え込み 民間交流に影響も

 日韓関係の悪化は民間交流にも影を落とす。

 佐賀県唐津市の外町小では18、19両日、韓国・麗水市の初等学校から児童約20人のホームステイを受け入れる予定だったが、延期の申し入れがあった。唐津市によると、7月下旬に「日程を再調整したい」とメールが届いた。理由は記されておらず、延期の日程も決まっていない。

 ただ、外町小の児童ら16人が8月下旬、韓国側にホームステイに行った際は歓待されたという。市担当者は「交流自体を拒まれたわけではなく、状況を見守るしかない」と語った。

 一方、韓国・順天市と4年前から交流する福岡市東区の東箱崎校区自治協議会は、中学生が夏と冬に交代で相互訪問するホームステイ事業を続けることを韓国側と確認した。

 同校区国際交流委員会の花田健司さん(76)は「日韓関係は最悪と言われるが、政治的な問題と民間交流は全く違う。市民の付き合いを息長く続けることが、互いの理解を深めていくことになる」と話した。(山下真)