差し押さえ判決、再審で取り消し でたらめ住所に訴状

平峰 麻由、井中 恵仁

 知らない間に元従業員の男性に訴えられて敗訴し、銀行預金を差し押さえられた飲食店関係者が判決取り消しを求めた再審で、久留米簡裁は15日、同簡裁の判決を取り消す判決を言い渡した。簡裁は1月、男性の偽装によって全く関係ない場所に訴状や判決が送達されたことを認め、再審開始を決めていた。

 判決などによると、当時佐賀県鳥栖市に住んでいた原告側男性が2019年10月、勤務経験がある福岡県久留米市の女性が経営するスナックを相手取り、未払い賃金122万円などの支払いを求め提訴。簡裁は男性が記載した虚偽の住所に訴状を送ったため、女性は出廷できなかった。簡裁は昨年1月、男性の訴えを認める判決を出し確定した。

 女性が異変に気付いたのは昨年夏ごろ。銀行の通帳に「サシオサエ」と記され約134万円が出金されていた。裁判所に問い合わせ、初めて判決が出ていたことを知った。訴状を確認すると女性の住所はでたらめだった。女性は弁護士に相談し、判決取り消しなどを求め再審請求した。

 女性は再審で未払い賃金はないと主張。男性側は出廷せず、簡裁は女性側の訴えを認めた。ただ、女性が差し押さえられた金を取り戻すには損害賠償請求訴訟を起こすしかないという。

 久留米簡裁ではこの日、同様の再審判決がもう1件あり、久留米市のラウンジ経営者の女性に対し、男性への未払い賃金67万5千円などの支払いを命じた判決を取り消した。

 男性は熊本簡裁などでも同じ手法で訴訟を起こしており、西日本新聞の取材では約10件を確認している。

 最高裁は、制度悪用の可能性があると、全国の裁判所に情報提供したという。警察に被害届を出すかについて、最高裁は「個別の事案については答えられない」とする。

 男性に訴えられた別の事案を担当する永長寿美子弁護士は「男性は、郵便局や金融機関の手続きも悪用している。裁判所内だけの再発防止策では限界がある。警察に詐欺容疑などの被害届を出して、捜査してもらうべきだ」と指摘する。

 (平峰麻由、井中恵仁)

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