米、ワクチン拒む人たち…賞金くじやビールで“勧誘”

 【ワシントン金子渡】米国では新型コロナウイルスのワクチン接種が順調に進む一方、副作用への懸念などから接種を拒否する人たちも少なくない。バイデン政権はコロナ禍からの早期脱却を目指しているが、ワクチンに懐疑的な人たちを説得するのは容易ではなく、今後の足かせになるとの不安が尽きない。

 「いくら説得しても父が接種してくれない」。南部バージニア州の女性(49)は、接種をかたくなに拒否する80代の父に悩まされている。パンデミック(世界的大流行)が始まった昨春以降、父は「コロナによる死亡はうそだ」などとインターネット上の非科学的な情報を信じ込み、家族の説得にも一切耳を貸さないという。女性は「なぜ父が根拠のない情報を信じているか分からない。高齢だし、コロナにかからないか心配だ」と語った。

 米国ではワクチンを少なくとも1回接種した人が6割近くに達するが、最近では普及のスピードが鈍化傾向にある。AP通信が4月29日~5月3日に実施した世論調査によると、ワクチン未接種者のうち34%が「今後も絶対に打たない」と回答。別の調査では、トランプ前大統領の支持者の半数が「接種しない」と答えており、ワクチン接種を巡って政治的な対立も改めて浮き彫りになっている。

 未接種者に対し、連邦政府や各州は工夫を凝らして接種を呼び掛けている。

 バイデン政権は大手企業と提携して食料品の割引クーポンや飲料水、スナックを接種者に無料配布。中西部オハイオ州は、少なくとも1回接種した住民を対象に100万ドル(約1億1千万円)が当たるくじの実施を決めた。他の州でもビールやハンバーガー、スポーツの観戦チケットなどを提供するサービスを実施。首都ワシントンでは接種会場で嗜好(しこう)用大麻を無料配布する民間団体まで登場した。

 カリフォルニア大が未接種者を対象にした調査によると、3分の1以上が「金銭的な報酬があればやる気になる」と回答。ノースカロライナ大の研究でも、インセンティブ(動機づけ)を与えられた場合、受診率が8%上昇するとの結果が出ている。バイデン政権が接種完了を条件にマスク着用を原則不要との方針を示したのも、マスクを嫌う未接種者にインセンティブを与える狙いとされる。

 ただ、これらの取り組みが接種に直接結びつくかは不明で、専門家の一人は「ワクチン効果や副作用を疑う人たちを説得するのは非常に難しい。一定程度打たない人がいるのは仕方がない」と話している。

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