4月の第1波に続き、新型コロナウイルス感染症が県内の“夜の街”を直撃した。感染拡大を防ぐ対策は講じられたが、一方で街で働き生計を立てる人たちの暮らしをどう支えるのか、議論は抜け落ちたままだ。(社会部・篠原知恵)
「今日もお母さんと一緒に寝られるんだ」。体にまとわりついて無邪気に喜ぶ子どもたちの姿に、20代のシングルマザー、ミサキさん=本島南部、仮名=は胸が締め付けられた。「普通のお母さんって、こんな感じなのかな。今までさみしい思いさせてごめん」。これからこの子たちをどう守っていけるのか。内心、不安に押しつぶされそうになりながら小さな体を抱きしめた。
「店、来週から閉めます」。新型コロナウイルスの影響で客足が減った勤務先のキャバクラ店から、一方的に閉店を告げられた。雇用保険に加入していないため失業手当はもらえず、月30万円ほどの収入はぷつりと途絶えた。
小学生2人を育てる。下の子どもが生後1カ月の頃に夫と離婚。養育費は受け取っておらず、昼はカフェ、夜はレストラン、キャバクラと、三つの仕事を掛け持ち。多いときは月40万円近く稼いで、親子3人の生活を成り立たせてきた。
朝6時半に起きて学校に送り、家事を済ませてカフェへ。午後3時すぎ、一時帰宅し夕飯を食べさせてから、夜の仕事に向かう。遅いときは午前4時すぎに就寝-の毎日。それが今、収入源は時給900円のカフェ1本。そこも客足が遠のき、月収は3万円ほどに減った。
両親はおらず児童養護施設で育ち、頼れる人はいない。「子育ての見本がないから全て手探り」。何度注意しても歯磨きを嫌がる子らに「なんでこんなに思っているのに伝わらないの」とイライラすることも。かろうじて頼りにする役所や子どもの担任も「しょっちゅう人が変わる。一から説明するのも面倒になる」。賃貸アパートで独り、先の見えない不安と育児に向き合う。「もういっか。って思っちゃうときもある」
移動時のバス代や子どもの医療費の一時立て替えなど、お金は出ていく一方。少しずつ貯めてきた50万円を切り崩し始めた。目標だった昼の仕事に移りたくて、車を購入し駐車場付きアパートに引っ越すために準備したお金。「夢は夜、子どもと一緒に寝てあげるお母さんになること。自分がしてほしかったことをしてあげたい」。でも、どうすればいいのか。折れそうな心を奮い立たせる。
夜の街で働く人の存在を否定する社会
救済へ国の一律現金給付が急務
上間陽子・琉球大教授
今“夜の街”で働いている人々の存在は「なかったこと」にされている。本来やらなければいけない支援が、なされていない。松山などに休業要請は出されたものの、4月の第1波と違って今回は現金の一律給付はない。現金給付なき自粛要請のもと、もともとカツカツだった生活はいよいよ回せなくなっている。
沖縄の風俗業界はシングルマザーたちで成り立っているが、子育てに関わる手が一つしかないシングル世帯は、子育ての一部を夜間保育や外食といった形態で外注せざるを得ず、自然と支払うお金は増える。単身で親子の生活費を稼ぐことと、子どもが起きている朝と夕方に「お母さん」をすることを両立するために、彼女たちは相対的に時給の単価の高いキャバクラなどを選んだ状況がある。
受けられるサービスや支援制度がないわけではない。でも、彼女たちには行政的手続きを経て支援やサービスを引き出し暮らしが良くなった、という成功体験があまりに少ない。書類を整理し、他人にどれだけ苦しんでいるかを自己申告しないといけない状況は、それだけでハードルがとても高い。国による「一律現金給付」という形態でなければ支援は間に合わない。(教育学、談)