【ワシントン=渡辺浩生】米国防総省高官は11日、ロシアのウクライナ侵攻で、首都キエフ制圧を目指す露軍の部隊が中心部から北西約15キロにとどまる一方、別の部隊が東方20~30キロまで進軍したとの見方を示した。郊外の市街地を激しく砲撃し、キエフ包囲に向けた態勢を整えているもようだ。現地メディアによると、露軍に包囲された東部マリウポリでは市民の死者が1582人に達した。人道危機が深刻化している。
露軍に10日以上包囲されているマリウポリでは、砲撃が続いているため「人道回廊」を通じた市民の避難が実現していない。脱出を待っている市民は約20万人と推定されている。
また、ウクライナ当局は12日、ロシアの侵攻後、全土で子供79人が死亡、約100人が負傷したと発表した。
露軍は11日、制圧した南東部メリトポリの市長を拘束した。米メディアによると、ロシアの侵攻後、政治当局者が拘束されたのが明らかになるのは初めて。ウクライナ政府は、民間人を人質に取るのは戦争犯罪だと非難した。
米国防総省高官によると、露軍は11日、ウクライナ西部のルツクとイワノフランコフスクの軍用飛行場を空爆した。侵攻開始から2週間以上経過したが、前線から離れた西部にも攻撃の対象が広がった。
ルツクは北大西洋条約機構(NATO)加盟国のポーランドとの国境まで約100キロ。西部は戦線から離れ、ポーランドからの軍事支援の輸送路がある。同高官によると、ロシア側の妨害はなく、武器など装備はウクライナ側に確実に届けられているという。
侵攻開始から発射されたミサイルは約810発に達し、半数はウクライナ領内で発射された。露軍は投入戦力のうち約90%を維持しているとみられている。
また、ウクライナ国境警備当局は11日、国境に近い隣国ベラルーシの集落を露軍機が爆撃したと発表した。ウクライナ側は、ベラルーシに参戦の口実を与えるためのロシアの策略とみて警戒している。
一方、ウィーンからの報道によると、国際原子力機関(IAEA)は同日、露軍に制圧された南部ザポロジエ原発から、核物質監視システムのデータ送信が復旧したことを明らかにした。チェルノブイリ原発では送信停止が継続している。