復興五輪、看板倒れ…選手食堂での被災地食材アピール見送り 「一部の国から拒否の声」に抵抗できず

2021年7月18日 22時01分
 東京五輪を通じ、福島県など被災地の食材を世界に発信する「復興五輪」の目玉事業が、看板倒れとなっている。選手村(東京都中央区)の24時間営業の食堂の食材には産地の表示がない。隣接するカフェの食材には産地表示があるが、東日本大震災や東京電力福島第一原発事故の被災地の食材だと紹介する特設コーナーもなく、他の産地と同じ扱いだ。一部の国から福島県産への懸念が示されたことが背景にあり、地元関係者は落胆している。(原田遼)

◆隣接カフェでは使うと言うけど…

 「選手がふだん利用する食堂で使われてなければ、アピールにならないんじゃないか」。福島市で観光果樹園を営む紺野淳さん(69)はそう嘆く。

福島市内で果樹園を営む紺野淳さん=福島市で(本人提供)

 選手村で選手の多くは、終日稼働している食堂「メインダイニング」で食事をとる。洋食やアジア料理に加え、菜食主義や宗教に配慮したメニューがそろうが、産地の表示はない。大会組織委員会によると、食材が大量なためで、「後日、ウェブサイトでの公表を検討している」とする。関係者によると、輸入品も多いという。
 国産食材のみを使うのは、食堂の隣の複合施設にあるカフェ「カジュアルダイニング」だ。メニューには産地が市町村単位で記されている。全国を8つに分けた地域の産品がローテーションで使われ、福島、宮城、岩手の3県については別途、毎日使う。

選手村のメインダイニングホール

選手村のカジュアルダイニング=東京都中央区で(内山田正夫)

 ただ、カフェ内には3県の食材を紹介するポスターや特設スペースはない。選手がメニューを見ても、食材に「東京産」「福島産」などが入り交じって紹介されるだけで、被災地支援の取り組みとは気づけない。
 紺野さんの果樹園の訪問客は震災前の7割に満たないという。五輪への期待もあっただけに、「これで復興五輪と言えるのか。福島の会場は無観客開催にもなったし、地元の人は冷めている」と話す。
 風評被害の払拭に向け、被災地の食材を活用する方針は2016年、当時の高木毅復興相が打ち出した。しかし、具現化する過程で尻すぼみに。組織委の担当幹部は「本来はもっと復興をアピールしたかったが、一部の国から放射性物質を理由に、福島県産を食べたくないという声があった」と語る。

◆他国の抵抗、乗り越えて欲しかったのに

 福島県は生産者に対して、農薬の適切な使用や衛生管理など細かい条件を満たさなければ取れない「GAP認証」の取得を支援。この認証は選手村に納入される食材の基準となり、19年に県は、認証取得者で選手村への納入を希望する生産者のリストを組織委に提出した。

メインダイニングのメニュー例。原材料や成分は掲載しているが、産地はない(Tokyo 2020提供)

 県産の一部食品を巡っては中国、米国、韓国など6つの国・地域で輸入規制が続く。日本国内でも2月公表の消費者庁調査で、福島県の食品購入について「ためらう」と答えた人が8.1%いた。福島県農産物流通課の伊藤裕幸主幹は悔しさをにじませる。「他国からの抵抗があったとしても、それを乗り越えて、アピールを考えてほしかった。生産者は10年以上、風評と戦っているのだから…」

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