困窮者の生活保護申請と貸し付け、福祉事務所が「追い返し」 コロナ禍で申請増

2020年6月16日 06時58分

「1人だと申請は難しい」と話す男性=都内で

 新型コロナウイルスの影響で生活保護申請が増加する中、自治体が窓口で申請を拒む「水際作戦」が生活保護だけでなく、各社会福祉協議会(社協)の生活困窮者向けの現金貸付制度などでも行われていることが分かった。生活支援のため、困窮者の申請に同行してきた一般社団法人「つくろい東京ファンド」(東京都中野区)の小林美穂子さん(51)は「行政に粗雑に扱われている」と憤りを隠さない。 (中村真暁)
 インターネットカフェの休業で居場所を失った男性(58)に付き添い、五月下旬に都心の区の福祉事務所を訪れたときだ。
 「このままだと、彼は餓死しますよ」。小林さんが声を強めると、近くにいた職員がにやついたように見えた。所持金は二百円ほど。保護申請と同時に、保護決定までの間、各社協が実施する困窮者向けの現金貸付制度を利用したいと訴えたが、断られた。
 代わりに渡されたのは災害備蓄のサンマときんぴらの缶詰とレトルトがゆ、水、ホテルとの往復切符だ。埼玉県などの社会福祉施設へ行くようにも促された。
 男性は集団生活が苦手で以前にも同様の施設を出た経験があり、休業要請で都が提供するホテルの利用を求めたが、難色を示された。
 こうした対応について事務所職員は「所持金も住まいも無い人には、食事を提供する施設を案内している。貸し付けるかどうかは個々の状況による。食品の支給はした。『仮払い』と言われたので、そんな制度はないと答えた」と説明する。
 小林さんは「仮払いとも言ったが、他区と同様に社協から貸し付けてほしいという言い方もした。職員自身も貸し付けという言葉を使っていたし、了解を得て録音した音声もある。そもそも名称が違うから分からないという理屈は通らない」と断じる。
 男性は「職員はやる気なく応じていて、申請をあきらめさせたいみたいだった。一人での申請は難しいと思う」と振り返る。小林さんらの働き掛けで後日、貸し付けが認められ、保護利用も決定した。現在はアパートを探している。
 感染拡大を受けて、厚生労働省は各自治体に「居宅か施設入所が適当かを判断するための十分なアセスメント」や、申請後も食事などに事欠かないよう「貸付制度などの積極的な活用」などを通知している。
 しかし、同法人が同行した保護や貸し付けの申請現場では他自治体でも水際作戦が目立つ。職員が「他へ行って」と千円を渡そうとしたり、「あなたの実家の方が定額給付金が早く出る」と言われたり。家庭内暴力を振るう家族と和解するよう言われ屋外で寝泊まりした女性もいた。
 別の支援団体でも、神奈川県や千葉県で保護の申請を窓口で拒まれる事例が増えているという。
 稲葉剛代表理事(50)は「もともとオーバーワークの福祉事務所は感染防止対策で窓口対応の職員が減少している。殺到する困窮者を追い返す方向になっている。水際作戦はもっての外。本来は困窮者の助けになるような制度利用を促すべきだ」と強調した。

男性が渡された缶詰やレトルトがゆ



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