豊島区、池袋駅西口での長居や飲酒禁止と警告文

2020年8月21日 06時46分

張られたばかりの警告文の前に座る女性=いずれも豊島区で

 居場所を求める人々が池袋駅前西口広場(豊島区)にやって来て、飲酒をしたり、話し込んだり交流を深めているが、周辺住民から「雰囲気が悪い」などと今年に入って区に数十件の苦情が寄せられている。問題視した豊島区は先月末、「環境浄化」を銘打った式典を広場で開き、長居や飲酒などを禁じる警告文を設置したが、広場に集まる人からは「何のための広場か」と反発の声が上がっている。(中村真暁)
 広場に集まるのは二十〜七十代とみられる近隣に住む男女。ホームレスや障害者、生活保護の利用者、高齢者など多様な人が集っている。広場ではさまざまなグループが将棋をしたり、手料理を分け合ったり…。その一人の女性(51)は独り暮らしで、うつ病と摂食障害を患う。「症状もひどくなるから一人で家にいられない。ここには何でも話せる人がいる」と話す。

◆マナーの悪さ指摘

 区や周辺住民によると、昼ごろから深夜まで、多い時には約四十人が集う。地域の清掃などに取り組むNPO法人「ゼファー池袋まちづくり」常任相談役の石森宏さん(73)は「空き缶などのゴミが何袋分も残され、目に余る」と憤る。区への苦情も「通行できない」「大声を上げている」などマナーの悪さを指摘する。
 池袋駅周辺整備に力を入れる区は昨秋、池袋西口公園をリニューアル。警備員を常駐させ、カフェを新設、ゆっくりしにくい背もたれのないベンチを置いた。そのため、ここに集まっていた人たちが広場に移ってきた。交流は十年以上前から続いてきたとみられる。
 高野之夫区長は式典後、報道関係者に「リニューアルで文化の街のシンボルとなり、たむろしていた人がいなくなった。しかしコロナによりイベントができない中、においをかぎつけて駅前がいい根城になった」と毒づいた。広場の約三十カ所に、長居、寝そべり、飲酒、喫煙、ポイ捨てなどを禁じる警告文を掲示し、警備員の常駐も始めた。

池袋駅前西口広場で警告文を提げて見回る警備員

◆みなで話す場所

 集まっていた人たちは困惑の色を隠せない。セレモニー直後、高齢男性数人が広場で談笑すると、警備員が早速、注意した。男性たちは「みなで話す場所がなくなる」「待ち合わせとどう違うの」と訴えた。
 ある女性(52)は足が悪く、花壇の縁に腰かけていると、「長居している」と注意された。「迷惑をかけないよう、集まるときは他人のゴミすら持ち帰っていたのに」とうつむいた。前述の女性は「弱い人の集まり。社会復帰していない人も多く、みな戦うように生きている」と力を込めた。

◆識者・関係者談話 公共空間の機能軽視/問題伝え対話を

<高千穂大の木村正人教授(社会学)の話>
 公園などの公共空間は本来、誰でも制約なく利用できることが望ましい。迷惑行為の取り締まりは別としても、長居することを禁じるなど、どのような根拠に基づくのか疑わしい。公共空間での民間事業運営や商業施設の導入が進むが、公園での自由な交流や被災者、困窮者の避難場所としての機能が軽視されている。街づくりにはもっと、多様な人々の声を取り入れることが必要だ。
<池袋周辺で炊き出しなどをしているNPO法人「TENOHASI」の清野賢司事務局長の話>
 地域に居場所がなく、孤独を感じる人たちが、自然に集まって交流していた公園は、長居しにくいベンチが置かれるなどのリニューアルが次々と行われ、彼らにとってくつろげる空間ではなくなった。押し出され、広場に集まるようになっただけだ。
 警備員に規制させるだけなら「あなたたちは厄介者」というメッセージを行政が出しているのと同じ。広場に集まる理由やニーズを聞き、他の人が使いにくくなっているなどの問題を伝えながら、対話をするべきではないか。
<池袋駅周辺の整備>
 豊島区は近年、池袋駅周辺の4公園(池袋西口、南池袋、中池袋、としまみどりの防災各公園)を拠点に街づくりを進めてきた。池袋西口公園は1970年、豊島師範学校の焼け跡に建った闇市の跡に開設。2000年には人気ドラマ「池袋ウエストゲートパーク」にも登場し、ナンパ目的の男女が集うなどダークなイメージも持たれたが、昨年リニューアルした。大型ビジョンやステージが設けられた。

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