年金開始 何歳が「お得」? 損益分岐点 検討の参考に

2020年11月5日 07時43分
 老後の収入の柱である年金。原則六十五歳から支給が始まるが、自己資金のたまり具合によっては、受け取り開始を早める「繰り上げ受給」か、遅らせる「繰り下げ受給」を選ぶこともできる。二〇二二年度に予定される年金制度の改正を踏まえつつ、ファイナンシャルプランナーで終活アドバイザーの山田静江さん(59)に受け取り方のポイントを聞いた。 (砂本紅年)
 年金をいつから受け取るか。今は六十〜七十歳の間から一カ月単位で指定できる。ただ、選んだ時期によって、もらえる年金額が増減するため、慎重に考えることが大切だ。
 受給開始時期を六十五歳より前に繰り上げると、年金額は一カ月早めるごとに0・5%減る。六十歳から受け取る場合、六十五歳から受給したときと比べて、毎月の年金額は30%(0・5%×六十カ月)少ない計算だ。今回の制度改正後は減額率が0・4%に下がり、24%減(0・4%×六十カ月)となる。
 一方、六十五歳より後ろ倒しに繰り下げると、年金額は一カ月遅らせるごとに0・7%増える。七十歳から受け取り始める場合、年金額は六十五歳に開始するより42%増加。改正後は七十五歳まで遅らせられるようになり、七十五歳からの受給額は84%増となる。
 「繰り上げか、繰り下げを一度選ぶと、その減額率や増額率が一生続く」と山田さん。受給開始後の変更はできないので注意したい。繰り上げ受給は国民年金と厚生年金を同時に始めないといけないが、繰り下げ受給は別々に始められる違いもある。厚生労働省によると、一八年度の年金受給者のうち、国民年金を繰り上げ受給している人は12・9%、繰り下げは1・3%となっている。
 何歳までもらえば得するか。受給総額の「損益分岐点」も気になるところだ。税などを考慮しない単純計算では、受け取り開始を六十歳に繰り上げた場合、六十五歳からの受給総額に追い越されるのは七十六歳の時。改正後は八十歳の時に延びる。一方、七十歳に繰り下げた場合は、八十一歳の時で六十五歳からの総額を上回る。七十五歳からにすると八十六歳の時だ。
 日本人の平均寿命は昨年、女性が八七・四五歳、男性が八一・四一歳となり、いずれも過去最高を更新した。長生きに向け、年金の受け取り開始を一年遅らせて8・4%増額して備えるのもいい。年金は最大五年分をさかのぼって一括請求することもできる。例えば、繰り下げ受給開始前の六十七歳の時に体調不安があれば、繰り下げによる増額は諦めて、六十五歳からもらうはずだった二年分の年金を受け取ればいい。
 「夫婦単位で考えることも大切」と、山田さんは指摘する。例えば、専業主婦の妻が、繰り下げ受給を考えていた会社員の夫に先立たれたケース。妻は、夫の老齢厚生年金の75%を遺族厚生年金として受け取れるが、繰り下げによる増額は遺族年金には適用されない。「夫より年金額が少なく、長生きしそうなら、妻が繰り下げ受給をして自分の老齢基礎年金を増やした方がいい」とアドバイスする。

◆受給のポイント

・繰り上げ受給の減額率は0.5%、繰り下げの増額率は0.7%
・2022年度から、繰り上げの減額率が0.4%に下がる
・平均寿命や自分の健康状態を考慮し、慎重に検討する
・夫婦単位でも考えてみる
※山田静江さんへの取材による

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