南極観測に新型コロナの影 11月出発予定の第62次隊も人員、業務削減

2020年11月15日 11時04分

南極で大気中のオゾンを測定する日本の観測隊員=国立極地研究所提供

 新型コロナウイルスの世界的な感染が、各国の南極地域観測に影響を及ぼしている。世界中で唯一、感染者が確認されていない南極大陸にウイルスを持ち込まないよう調査規模を縮小。日本も今月から派遣される第62次隊の人員を削減した上、観測業務も一部見合わせる。地球温暖化のシステム解明などを目指した長期計画に遅れが生じる恐れもある。(布施谷航)

◆各国が規模縮小 合い言葉は「ウイルス持ち込むな」

 国立極地研究所南極観測センター(東京都立川市)によると、南極観測をしている各国は「南極にウイルスを持ち込まない」との認識を共有。オーストラリアは隊員数を半減し、大陸内の飛行は自粛した。アメリカ隊はニュージーランドで2週間の隔離を行い、基地到着後も隊員同士の接触を制限している。日本も62次隊は科学者や技師ら80人で編成する予定だったが、今月2日、44人に削減することが決まった。
 日本の観測隊は、現地での観測活動も縮小。地球温暖化に伴う融解が懸念される東南極の「トッテン氷河」に設置した観測機器を回収する予定を延期した。同センターの熊谷宏靖・企画業務担当副マネージャーは「世界でも有数の砕氷能力がある南極観測船『しらせ』でなくては、機器を回収する場所までたどり着けない。諸外国の期待も大きかったはず」と話す。

◆観測機回収を断念 温暖化調査に支障の恐れ

 今回の観測隊の方針は「観測事業の継続」。越冬隊の交代と物資の輸送が主な目的で、ヘリを使った氷床の観測や東京海洋大の観測船「海鷹丸」との共同観測も中止や延期になった。熊谷さんは「遅れは(来年11月派遣の)第63次隊で取り戻したい」と強調する。同時に「今年から来年にかけて各国とも最小限の活動に集中しており、新たな観測は後ろ倒しになっているものも多いのではないか」と指摘。温暖化の影響を含む南極調査への支障を認める。
 日本が派遣する第62次観測隊の隊員は6日から2週間、横須賀市の宿泊施設で待機し、PCR検査を2回実施。陰性が確認されれば20日に出発する。順調なら12月中旬に昭和基地に到着する。今回は1956年の1次隊出発以降、初めてオーストラリアなどへの途中寄港や燃料補給をせずに南極に向かう。

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