遅れてきた男が堂々の白星デビューだ。巨人・山口俊投手(29)が14日のソフトバンク戦(東京ドーム)でFA移籍後初登板を果たし、6回無安打無失点の圧巻投球を披露。セ・リーグ史上初となる継投ノーヒットノーラン達成の一角を担い、3―0の勝利に貢献した。新天地で初白星を手にした右腕は、お立ち台で号泣。涙の裏には、FA選手としての“引け目”と“意地”があった。

 G党の拍手を浴びる右腕の目から、思わず熱いものがこぼれた。「すごく長かったですし、勝ててほっとしています…」。お立ち台で移籍後初勝利の感想を聞かれると、山口俊は言葉を詰まらせた。

 開幕から約2か月半が過ぎてのマウンド。表情には緊張の色も見えたが、序盤から決め球のフォークが冴え、ソフトバンク打線から8奪三振。6回まで圧巻の無安打投球を続けた。ただ球数が102球に届き、故障明け登板だったことを考慮され、お役御免となった。

 その後はマシソン、カミネロが無安打でつなぎ、セ・リーグ球団初の継投によるノーヒットノーランを達成。会心の勝利に、由伸監督は「3人の投手がよく投げてくれた。(山口俊は)素晴らしい、期待通りの投球」と手放しでほめたたえた。

 山口俊にとっては、厳しい立場で迎えたデビュー戦だった。右肩違和感で出遅れた間に、チームは歴史的な低迷に陥った。前日は巨人に誘ってくれた堤前GMが退任。重圧だらけの初登板で、結果を残せた安堵が、涙となって頬をつたった。

「FAで来て、迷惑をかけていた。Gの一員として頑張っていきたい。(GM交代は)特に自分の責任があるし、開幕アウトになってすごく申し訳ない気持ちです。活躍することで、堤前GMに恩返ししたい」と語った山口俊。「チームの一員に少しなれたかな」と控えめに笑みをのぞかせたが、本人にとって不安だったのは、キャンプをファームで過ごし、一軍ナインとのコミュニケーションがまったく取れなかったことだった。

 野手陣には相川、村田という横浜時代の先輩がいるが、投手とはそこまで面識がない。なかでも気がかりだったのが、開幕から孤軍奮闘を続ける後輩エースの心境だった。「先発投手としての実績では菅野が勝っていますが、条件的には自分の方が同等か、それ以上。それなのに自分は出遅れてしまったことで、引け目を相当感じていたようです」(親しい関係者)

 エースに仲間と認めてもらうためにも、復帰後は結果で示すしかないと決意。周囲には「FAできた以上は、活躍してなんぼ。遅れても、まだ勝負できる数字もある。年上として、何かは上回らないといけない」と語っていたという。

 とはいえ、今季の菅野は、勝利数(7勝)、投球回(82回2/3)、完投数(4)、完封数(3)いずれもリーグトップ。防御率も2・50で同6位の好成績。山口俊がこれから後輩を追い上げるのは至難の業だ。ただこの日の投球は、チームメートにも強烈なインパクトを残した。

 移籍後、長かったリハビリ期間を「FAで来た責任とプライドで何とかやってこられた」と振り返った山口俊。“外様の意地”を示す場はまだある。