西田宗千佳のイマトミライ

第38回

いよいよ収益化に向かう「AbemaTV」

CAが1月29日に公開した決算に関するライブストリーミングより

1月29日、サイバーエージェント(CA)は、2020年度第1四半期(2019年10~12月)の決算を発表した。CAはここ数年、映像配信事業「AbemaTV」に注力しているが、今回の決算発表に関するライブストリーミングでも、AbemaTV事業に関する説明に長い時間が割かれた。

AbemaTV有料会員は59.3万人に増加。オンデマンド視聴比率が上昇

AbemaTVは国内映像配信事業として確固たる地位を築いているものの、収益性が常に問題とされてきている。

今回は、同社の決算発表会見(ライブストリーミング)で、CA・藤田晋社長が語った戦略を分析し、AbemaTVの今を把握してみたい。

業績回復も、AbemaTVは投資段階。ただし「2020年は赤字抑制」へ

CAは、昨年度にあたる2019年度第1四半期決算で、連結での営業利益見通しを300億円から200億円に下方修正した。それに対し、今年は堅調に推移している。

昨年の下方修正は、ゲーム事業などでの販管費が増大したことによるもの。社全体での事業状況を引き締めて、社員の獲得数にもブレーキを踏んで、全体でのコスト削減に努めた結果、収益は改善している。この辺は、昨年4月に掲載したCA藤田社長への単独インタビューで詳しく述べている。

「もう地上波に戻れない」快適さで攻める。AbemaTV 3年の戦い

2019年度は従業員数を抑制。結果として業績は回復している

この段階では、下方修正の原因はAbemaTVではなく、あくまで他の要因だったのである。

では、現在はどうか? 次の2つの資料を見るのがわかりやすい。2020年度の業績見通しをみても、売上は順調に伸びているものの、利益は横ばいもしくは微増、という状況。AbemaTVに対する投資を今年も継続する、という考え方だ。

2020年度の業績見通し。売上は順調に伸びているが、AbemaTVへの投資により、利益水準は横ばいだ
AbemaTVを含む、CAのメディア事業全体の状況。売上は伸びているが、まだ赤字額が大きく、投資段階だ

だが決算説明の最後に、藤田社長は「毎年(AbemaTVは)200億円程度の営業赤字を出すことを容認していたが、今年はその額を減らす」と明言した。中長期的な投資姿勢を変えるわけではないが、よりマネタイズを強化し、収益の柱にしていく態勢を固めにいく、ということだ。

2020年度も経営方針は変わらないものの、「AbemaTVの赤字額削減」着手に言明

「速報」「恋愛リアリティショー」「ドラマ」でWAU 1,000万突破

では、その流れはどう作るのか?

根拠は複数存在する、と考えられる。

まずは、2019年後半以降、週次のアクティブユーザー数(Weekly Active User、WAU)が安定的に1,000万を超えるようになってきた、ということだ。藤田社長は広告メディアとして成立させるために「1,000万WAUを超えること」をひとつの目標と語ってきたが、その数字に到達した形である。現状は大きなイベント的な配信に引きずられている格好だが、サービスの利用定着には大きく貢献している。

WAUは1,000万を突破することも珍しくなくなった。藤田社長が目標のひとつにしてきた段階に到達している

ではなぜ1000万WAUを達成できたのか?

それは、3つの柱が成立し、定着してきたからと言える。

ひとつめは「速報」。芸能や社会的ニュースなど、大きな話題がある時に「AbemaTVなら必ずなにかやっているだろう」という認識を定着させることができた、ということだ。特に2019年は芸能関係で大きな話題が続き、そこで速報・ライブ配信を柔軟に用意できる態勢であったことは大きなプラスだった。

宮迫・田村亮 会見生中継に見るAbemaTVの強さ

以前にも記事に書いたが、大きな話題の場合、実際には別にAbemaTVだけが中継しているわけではないのだ。だが、これまでずっと継続してきたこと、SNSやニュースサイト向けの告知態勢がしっかりしていること、そして、アプリの構造がわかりやすく明確であることなどから、結局他社よりも速報の価値をうまく活かせている。

二つ目は「恋愛リアリティショー」のヒットだ。CA側は決算資料の中で「女子中高生の3人に1人が視聴」としている。これは、3つの番組の重複を含まない15歳から19歳の視聴者数を、日本の15歳から19歳の人口(約291万人)と比較しての値という。

この値には2つの意味がある。もちろん、恋愛リアリティショーの視聴者が多いのはもちろんなのだが、1,000万WAUというAbemaTVの視聴者の中に、十代の女性という層が相当数含まれるから実現した、ということだ。

AbemaTVの3つの柱。特に「恋愛リアリティショー」のヒットに注目。

実のところ、恋愛リアリティショーのヒットはAbemaTVだけの現象ではない。NetflixやAmazon Prime Videoなど、他の有料型映像配信においても、若年層を引きつけているのは恋愛リアリティショーだ。そういう意味では、視聴層が高齢化したテレビ放送がカバーできていない「若年層の恋愛事情」という部分を、ネット配信がより的確にカバーできている、という分析が成り立つのではないか。

3つめの柱である「オリジナルドラマ」も、より若年層に向けたものが多いのが、AbemaTVの特徴といえる。

そもそもAbemaTVは、テレビではカバーできない若年層を取り込むことを年頭において企画されている。スマホから無料で気軽に、という要素も含め、「若年層の取り込み」に成功したことが、現在のAbemaTVに色濃く反映され、より先鋭化してきている、といえるのではないだろうか。

当然のことながら、視聴者数増加は広告価値上昇に結びつく。CAは、AbemaTVのアプリ上の表示を改良し、新しい広告商品の開発も進めている。これは筆者の推測だが、この広告商品として挙げられているものがみな「スマホ」「縦画面」であるあたりが、若年層利用と大きく関連しているように思える。最近は若年層でも動画を「スマホを横向きに持って」視聴するようになってきたが、年齢層を見ると、スマホを横に持つのは比較的年齢が高く、若年層は縦持ちが多い、と認識している。コメントなどとの相性も良く、若年層向けの広告開拓には必要な機能なのではないか。

今後AbemaTVでは、新広告フォーマットを投入。そのほとんどが「縦画面」であるのは、やはり若年層のスマホ利用を想定してのことか

将来的には「広告:課金」比率を1:1に

そして、AbemaTVのマネタイズに欠かせないのが、有料の「プレミアムプラン」契約者の増加だ。

AbemaTVには生視聴の他、配信済みのコンテンツを視聴する「オンデマンド視聴」がある。いまだ生視聴が中心であることに代わりはないが、オンデマンド視聴の比率は増えている。2018年末には全視聴時間の32%だったオンデマンド視聴は、2019年末には38%に伸びている。オンデマンド視聴は無料プランでも一部可能だが、より高機能な「プレミアムプラン」への呼び水としても機能する。

オンデマンド視聴比率は順調に伸び、全体の4割弱まできた

2019年末段階での、有料プランである「Abemaプレミアム」(月額960円)の契約者数は59.3万人。藤田社長は「2020年中には100万人を超えるのではないか」と見通しを語る。

有料プランの「Abemaプレミアム」の契約者数は、2019年末で59.3万人。2020年度中の100万人突破を目指す

この数は、Amazon Prime VideoやNetflixのような「有料専門サービス」に比べると小さなものだ。だが、そもそもAbemaTVがフリーミアム型であり、フリーミアム型での有料契約者はざっくりいって「利用者数全体の一割以下」であることが多いことを考えると、妥当な数字である。

藤田社長は中長期的な見通しとして、「広告と有料会員からの売上が半々になれば」という目標を掲げている。これは、よりマネタイズが容易なプレミアムプランへの注力といえるのだが、そのためには、フリープラン向けに大量のコンテンツを日々積み上げ、それを楽に見るためにプレミアムプランに入る、という連携が成立する必要がある。この辺は、有料でプレミアムコンテンツを供給する他の映像配信とは違う形だ。

藤田社長の語る、AbemaTVの中長期的な見通し。ここから課金収入を伸ばし、広告との収益費を1:1にもっていく
AbemaTVの位置付け

若年層を押さえ、テレビ放送で成立しづらくなっている層への広告ビジネスを確立した上で、プレミアムプランへの誘引を図る、というのが、AbemaTVの当面の戦略と考えていい。

WAUをどこまで伸ばすのか、そしてその際に必要なコストをどう見積もるのか。さらに、今年は「テレビ放送」の方が、いよいよリアルタイム配信を強化してくる。そことの競争も増えるだろう。とはいうものの、ここまで4年にわたり「赤字ばかり」と言われてきたビジネスがここまで成長したことは、他の事業者にとって脅威であるはずだ。

そこで「脅威」で終わるのか、それとも、AbemaTVがテレビ朝日以外との連携を強める可能性が存在するのか。筆者としては、その辺も気になっている。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41