【スペック】全長×全幅×全高=4820×1765×1465mm/ホイールベース=2780mm/車重=1670kg/駆動方式=FR/3リッター直6DOHC24バルブ(200ps/5000rpm、30.0kgm/3600rpm)+交流同期モーター(3.0kW/1440から1680rpm、5.7kgm/0から300rpm)/車両本体価格=442.0万円(テスト車=481.0万円)

トヨタ・クラウン ロイヤルサルーン マイルドハイブリッド Uパッケージ(5AT)【ブリーフテスト】

トヨタ・クラウン ロイヤルサルーン マイルドハイブリッド Uパッケージ(5AT) 2001.09.26 試乗記 大川 悠 ……481.0万円 総合評価……★★★★

トヨタは客を知っている

僕の住む集合住宅の前に、朝いわゆる「お迎えのハイヤー」がときおり停まっている。大抵、どんな季節でもエアコンをかけたまま、つまりエンジンを回して待っている。壁面の煉瓦に音を響かせ、敷地内に多くある古い樹木に向かって煙を上げている。たまりかねて一度だけ僕は、青いシーマの運転手さんに言ってしまった。「恐れ入りますが、お待ちの間はエンジンを切っていただけますか」と。彼はそうした。でもその直後、クルマで通勤路に向かった僕は、習慣に従ってエアコンのスイッチを入れた瞬間、複雑な気持ちになった。
いま自分は、快適な空間で移動している。でも停まった車内で待っている人にとっては、夏も冬もエアコン無しには辛い。僕はそういうときは、夏なら車外に出ているし、冬なら近くの書店かどこかに避難しているけれど、御主人を待つ彼らはそうはいかない。だから、彼らの労働条件を考えずに、思わず口に出してしまったことが、後ろめたかった。
クラウンに新設定されたマイルドハイブリッド版は、まさにこんな状況を解決するためのクルマである。もちろんそれだけが目的ではなく、堅いことを言えば既存の機械システムを可能な限り流用し、大きなコストをかけずに、このクルマに相応しい環境調和を実現させるためのモデルだろう。とはいえ、運転者に負担をかけないアイドリングストップをクラウンでやって、社会的正義を狙ったところに、トヨタの戦略の見事さがある。
都内通勤、冠婚葬祭への出席、そして郊外へのゴルフと、まさにこのクルマの典型的な使い方をした結果、自動車としてはともかく、その目的にはほぼ完璧なことを知った。



【概要】 どんなクルマ?

(シリーズ概要)
いうまでもなくトヨタ王国の象徴的存在。いかにセルシオがあっても、やはり「いつかはクラウン」であり、日本的階級社会の頂点に立って、良くも悪くも日本車のひとの典型であり続けるクルマ。それゆえ、かえって積極的に新技術や新コンセプトにも挑戦しなければならない立場にあり、しばしば細かな改変を受けている。“トップ・オブ・クラウン”たる「クラウンマジェスタ」、法人ユーザーを視野にいれた「クラウンロイヤル」、若干スポーティな「クラウンアスリート」、そのワゴン版「クラウンエステート」から構成される。
2001年8月20日のマイナーチェンジで、ロイヤルサルーンに3リッター直噴「2JZ-FSE」エンジンと電気モーターが組み合わされた「THS-M」ことトヨタ・マイルドハイブリッドシステム搭載車が設定された。また、ロイヤルシリーズに2.5リッター直噴「BEAMS D-4 1JZ-FSE」ユニットが積まれたことも新しい。同時にITS関連の装備が増え、細部のデザインにも変更を受けた。
(グレード概要)
各種ハイブリッドシステムを積極的に展開しているトヨタの、一番簡易型かつショファードリブン対応式システムを搭載したのがマイルドタイプ。3リッターの直噴ガソリンエンジンに3kWの小型モーターと36Vの2次バッテリーを加えたもの。狙いは停止時にエンジンを切り(=アイドルストップ)その間はモーターでエアコンをはじめとする補機類を駆動。さらにモーターで車両を発進し、同時にエンジン再スタートする。加えて減速時の運動エネルギーを電気エネルギーに変換してバッテリーに回収するという、いわゆる回生ブレーキを備える。これらによってマイルドハイブリッド車の「10・15モード」燃費は、ノーマルD-4モデルの11.4km/リッターに対して13.0km/リッターと、15%ほど改善された。ベーシックグレードの価格上昇は、わずか15.0万円だ。

【車内&荷室空間】 乗ってみると?

(インパネ+装備)……★★★
すくなくとも装備に関して足りないものはない。というより、いちいち装備品目を数え上げていけば、webが重くなるだけ。ただ、質感も悪くはないし、小さな親切(大きなお世話とは言うまい)に溢れているが、何となく落ち着かない。それは単純にこの種のクルマに慣れていないからじゃなく、妙にモダナイズされたにもかかわらず、きちんとした様式にデザインもコンセプトも統一されていないからだろう。日本的土着様式の昔のモデルの方が、どことなくしっくり感じるのは歳のせいか?
(前席)……★★
シートは適度にこぶりで、サポートもいい。それにパワーであちこち動くし、ステアリングホイールも調整すればほとんどのドライバーに合う。ヘッドルームも広い。だが、不思議なことに長時間乗っていると下半身が疲れる。つまりスタティックなサポートは良くても、ダイナミックな受け止め方は体型によっては合わない。
(後席)……★★★
前に座るのが普通の体型のショファーなら、後ろのレッグルームはじゅうぶん。とはいえ、輸入高級車ほどは広くないのは、全長を4820mmと日本サイズに収めているため。センタートンネルが高いし、中央だけクッションが平らだから、リアシートはあくまで2座と考えるべき。電動リクラインは効くし、座面全体が前より大分高いのがいい。でも前のヘッドレストが大きいから、そんなに視界は良くはない。上級モデルと異なり、さすがに助手席バックレストから足は前に出せない。それはそれでいいことだ。
(荷室)……★★★★
べらぼうに広いというわけじゃないが、左右が広がって、それほど奥行きは深くない。いいかえれば、荷物の出し入れの際に、トランクルームの奥まで頭を突っ込まなくてもいいということだ。特にゴルフバッグの入れやすさは、これまで試したクルマのなかで最高。ということは、その用途にはぴったりということだ。



【ドライブフィール】 運転すると?

(エンジン+トランスミッション)……★★★★
ここでは敢えてエンジンのフィールとかパワー感などは問わない。3リッター直噴は1670kgには充分なトルクがあるし、平均的に静かでスムーズ。アイドリングストップから再スタート時の軽いショックは、運転しているよりむしろ隣に乗っているときの方が気になる。もっともそれは、世界のために我慢すべき。それよりもたった30分間都内を走っただけで、アイドリングストップ総時間(メーターナセル内に表示される)……つまりエンジンが停まっていた時間が10分を超えたのには驚いた。きわだって混んでいたわけでもない。テスト期間は残暑が厳しかったが、その間エアコンは立派に働き続けた。ただし停車時の状態を外から観察すると、モーター音や細かな機械の音がして、決して完全に無音ではない。でも排気が出ていないだけで良しとすべきだろう。パネル内の表示で給油後の平均燃費がわかり、都内だけでは6km/リッター弱だった。やがて遠出が加わり、330kmほどいかにもクラウンらしい使い方をしたときには8.5km/リッターの表示となっていた。実際に給油した後の計算では8.9km/リッターだったが、これは前回の給油方法との違いによるもので、多分表示の方が正しいだろう。いずれにしても悪い数値ではない。トランスミッションもトヨタの流儀どおりスムーズ、といいたいが、ときに妙に反応が遅れたりもした。
(乗り心地+ハンドリング)……★★
都内で最初乗ったばかりのときは、「なんといい乗り心地だろう。特に低速での目地段差の乗り切りが気持ちよくて、ジャガーXJをしのぐ」とさえ思った。ところが100km/hを超えると特に後ろを中心に落ち着かない挙動を示すようになる。要するに205/65R15という細くて軽いタイヤによって低速の乗り心地を稼いでいるという感じであり、速度が上がるとこのタイヤでは心細くなる。それはステアリングフィールにも顕れ、都内では気にならないが、高速ではかなり曖昧に感じられる。すくなくともワインディングを飛ばす気にはならない。その一方で見切りのいいボディ、小さめな回転半径などの恩恵で、狭く混んだ都内での取り回しは、まるでメルセデスのようにいい。要するにその用途にぴったり合った設定で、そう割り切れば5ツ星でもいいのかも知れないが、やはり時代の先端を行くクルマなら、総合的に詰めるべきだと思う。

(写真=小川義文/撮影協力:プレジデントカントリー倶楽部 Tel.0282-31-3111)



【テストデータ】

報告者:webCG大川 悠
テスト日:2001年9月17日から19日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2001年型
テスト車の走行距離:1117km
タイヤ:(前)205/65HR15/(後)同じ(いずれもトーヨー J20)
オプション装備:DVDボイスナビゲーションシステム(31.5万円)/オットマン機能付きシート(7.0万円)/プライバシーガラス(2.0万円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4):高速道路(6)
テスト距離:329.5km
使用燃料:37.0リッター
参考燃費:8.9km/リッター


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