アルファ・ロメオ・ステルヴィオ クアドリフォリオ(4WD/8AT)
目下最速のSUV 2017.12.27 試乗記 アルファ・ロメオの新型SUV「ステルヴィオ」に高性能バージョンの「クアドリフォリオ」が加わった。510psを絞り出す2.9リッターV6ツインターボユニットを得て、その走りはどう変わったか? アラブ首長国連邦随一の峠道、ジェベル・ジャイス・ロードに挑む。つまりは“背の高いジュリア”
待望のFRスポーツセダン「ジュリア」に、ザウバーF1とのコラボレーションなど、“往年のアルファ・ロメオ復活!”と思わせる、クルマ好きにはうれしいニュースが続いた。
とはいえ、“歴史の焼き直し”ばかりを志向するわけにはいかない。いくら老舗ブランドとはいえ、新たな血は必要なはず。アルファ・ロメオにとって、それは、すでに欧州市場では流通しはじめたステルヴィオに始まる一連のSUV戦略ということになるだろう。まぁ、SUV戦略そのものは世の中的に決して目新しいものではないのだが……。
目新しいものでないからこそ、アルファ・ロメオは自社初(いにしえの「マッタAR52」はSUVと言うにはいくらなんでもジープ過ぎるだろう!)のSUVに“らしさ”を盛り込むことに注力したようだ。
アルファ・ロメオらしさとは、つまり、誰もがそれと知るスタイルとドライビングファンだろう。
ステルヴィオは、「ポルシェ・マカン」「BMW X3」「メルセデス・ベンツGLC」と競合するミッドサイズのSUVだ。いわゆる欧州Dセグメント相当のSUVであり、ということは当然、ジュリアと共通の“ジョルジョ”プラットフォームを採用する。
つまり、背の高いジュリア、である。事実、アシまわりの形式も同じなら、ホイールベースも同じ。ということは、ジュリアの、あの、ライバル独車とはまるでキャラの違うハンドリングを思い出していただければ、ステルヴィオの乗り味にもだいたい想像がつくというものだろう。
そして今回、これまたジュリアと同様、ステルヴィオにも高性能バージョンの「クアドリフォリオ」グレードが追加されることに。アラブ首長国連邦の素晴らしいワインディングロードで開催された、「ステルヴィオQ4クアドリフォリオ」(以下ステルヴィオQ)の国際試乗会に参加した。
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完成度はジュリアを上回る!?
実は筆者は、ステルヴィオQの国際試乗会に参加する1カ月ほど前に、ノーマルのステルヴィオ(2.2ディーゼルターボ)を駆ってイタリアをドライブしていた。
そのときの印象は、「ジュリアよりいいかも」。
SUVにあるまじき、というか、スポーツカーでもなかなかない、クイックなステアリングギア比(12.0:1)にとまどいつつも、むしろそれがカントリーロードではことのほか楽しく、身のこなしの軽やかさや正確さと相まって、ミラノからパルマまで、愉快な時間を過ごしたものだった。
ジュリアでも、事実上のベースグレードである「スーパー」は良かった。久しぶりに、シャシーが勝っているクルマだった。FRサルーンの復活に際して、FCAの首脳がジュリアにクラス世界最高のパフォーマンスを求めた結果、クアドリフォリオありきで新プラットフォーム“ジョルジョ”は開発されたから、である。しかも、モデナの某工場内で、こっそりと……。
ステルヴィオQの出来栄えも、きっと上々に違いない。ひそかにそう確信しつつ、ドバイ郊外のリゾートホテルにのりこんだ。
渡されたキーは、パールホワイトのステルヴィオQのものだった。その他に、赤、青、黒、ガンメタ、と、何だかいつもどおりの色が並んでいる。ボディーカラーに関して、アルファ・ロメオはかなり保守的のようだ。ハマってはいるけれど、面白みに欠けるし、インパクトも弱い。もっとチャレンジすればいいのに、と思ってみたり……。
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その走りは激速でクイック
インテリアは、ジュリアのそれと同じ雰囲気のデザインである。クアドリフォリオということで、レザーラップのダッシュボードに、カーボンファイバーのトリム、レザー&アルカンターラのシートとカラーステッチ、というまとめ方も、すでに「ジュリア クアドリフォリオ」でおなじみ。510psの2.9リッター90度V6ツインターボエンジンが、小さくない地響きをたて、目を覚ます。
ドライブモード選択のDNAプロを、まずはN(=ノーマル)にして走りだした。8ATもフツウにDレンジを選択。軽くアクセルペダルを踏み込むだけで、ドンと前に進む。力がありあまっている様子が窺(うかが)える。なるべくソフトに踏んでみるが、ATのほうが何だかもぞもぞと躊躇(ちゅうちょ)しているようで、少しだけギクシャクとした。キャビンにも少し震えが出る。定速走行時の洗練度と走りの質感では、ジュリアに若干劣っているような気がした。
乗り心地はというと、やっぱり硬めでフラットだ。SUVらしい、タイヤのタッパを感じることがほとんどない。本当に、ただ背の高いジュリア クアドリフォリオのように走る。ステアリングはやはり相当にクイック(ギア比は12.1:1)で、ここイッパツの加速はさすがに激速だから、混雑した道をスイスイと縫って走るぶんには、とても都合がいい。
小1時間ほど、味気ない平地の道を走ると、急に険しい山が迫ってきた。ジェベル・ジャイス山だ。ここのワインディングロードは世界で最も美しいといわれているらしく、イタリアの“ステルヴィオパス”にちなんだ車名のSUVには、もってこいの舞台である。
SUVであることを忘れさせる
DNAプロを、ためらうことなくレースにセットする。エキゾーストノートのボリュームが何段か上がった。ジュリア クアドリフォリオと違う点は、背が高いことに加えて、4WDシステムを備えること。駆動力は自動的に配分され、リアに最大100、フロントは最大50だ。前後重量配分は50:50をキープしている。
変速は、もちろんマニュアルモードを選んだ。まるでフェラーリ用のように、大きなアルミニウム製のコラム固定型シフトパドルを使って、シフトアップする。バスッバスッと瞬時に変速を行うその様は、まるでDCTのよう。車重をものともせず、爆音をとどろかせて、イッキに坂を駆け登った。一般道では多少一体感に欠けた気がしたボディーとシャシーも、ここにきてようやく、ひとつの塊になりはじめる。
速度が上がってくると、ステアリングのわずかな操作にも、体が少しだけ揺れて、背の高さを感じるようになる。けれども、それが荷重移動と見事に連動しているから、かえって車体のコントロールがたやすい。車体を気持ちよく傾けながら曲がっていく。アクセルペダルを踏み続けると、ノーズがタッターンと内を向いた。トルクベクタリングの効きも、背の高いぶん、ジュリア以上に感じてしまう。
目線が高いということは、ライン取りも見極めやすい。比較的、遅れることなくステアリングの操作もできる。トルクベクタリングの効き具合を頭に入れてアクセルコントロールを心がければ、上り勾配のタイトベンドでも、面白いように“速く”曲がっていく。しまいには、もうほとんどSUVであることを忘れてしまった。
速さだけで言えば、「メルセデスAMG GLC63」と同等あたりだろう。ハンドリングパフォーマンスでは、「BMW X3 M」が不在の今、ポルシェ・マカンや「ジャガーFペース」のいいライバルになると思う。けれども、パワーとハンドリング、その両方を持っているとなれば? ステルヴィオQは、現時点で、確かに最高パフォーマンスを誇るSUVと言っていい。
日本への導入時期だが、ノーマルグレードが2018年上半期、クアドリフォリオが18年中の予定となっている。
(文=西川 淳/写真=FCA、西川 淳/編集=竹下元太郎)
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テスト車のデータ
アルファ・ロメオ・ステルヴィオ クアドリフォリオ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4702×1955×1681mm
ホイールベース:2818mm
車重:1830kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.9リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:510ps(375kW)/6500rpm
最大トルク:600Nm(61.2kgm)/2500-5000rpm
タイヤ:(前)255/45R20/(後)285/40R20(ピレリPゼロ)
燃費:9.0リッター/100km(約11.1km/リッター、欧州複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。