第18回:アウディA8(後編)
2018.12.26 カーデザイナー明照寺彰の直言拡大 |
メッキの装飾やプレスラインで、すっかりコテコテになった新型「アウディA8」。新しい挑戦を始めたライバルの中で、アウディのこのデザインは後れをとっているのか? 現役のカーデザイナー明照寺彰が、持論を開陳する。
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このデザインは誰の好み?
明照寺彰(以下、明照寺):ディテールの話を続けさせてもらうと、グリルまわりのコテコテ感も、「アルファード」じゃないですけど、ちょっと国産車の価値観に近い気がします。
永福ランプ(以下、永福):鬼瓦っぽさはありますね。フロントグリルを取り巻くメッキが微妙に太くてタラコっぽく見えるところも、ちょっと品がない。
明照寺:こういう細かい造作にしても、「アウディってもっと先進的でクールな方向性で行くべきだったじゃないのかなあ」とは思いますね。
ほった:お客さんが変わってきてるんですかね?
明照寺:それはあるかもしれません。
ほった:中国市場かな? 押し出しの強いの、好きそうだし。
明照寺:確かに、中国市場はちょっと前まで「そっちの方向にせざるを得ない」と言われていました。ただ、最近はトレンドが変わったらしくて、中国でも本物志向が強まっているみたいです。
永福:日本で見る中国人観光客のファッション、どんどん洗練されてきてますよね。少なくともほった君の数千倍はオシャレだよ(笑)。
ほった:さいですか。
永福:立ち居振る舞いも、ハイソな場所にいる人ほど洗練されてきてる。アウディはもともと中国市場では最強の高級ブランドだったわけじゃないですか。中国共産党の幹部はこぞってアウディだったわけで、権威の象徴でもあった。
ほった:フォルクスワーゲングループの中国進出は早かったですからね。
永福:その流れで、中国ではベンツやBMWじゃなく、アウディが頂点だったわけですけど、現状に関して言えば、アウディが「それなら」と中国向けにコテコテ系に走ったときにはもう、市場のトレンドは逆のほうに振れていたということかな。
ほった:中国でも、永福さんみたいな人から「新型A8はオッサンっぽい」って言われてるのかもしれませんね。
新しい挑戦を見せてほしい
ほった:正直、最近のドイツ車のデザインは行き着くところまで行っちゃってて、みんなグラフィックいじりに終始してる面があったと思うんですよ。そんな中で、メルセデス・ベンツは「CLS」で、BMWは「X2」で、今までとは違う路線に振ってきた。今やアウディは、取り残されつつあるんじゃないでしょうか?
明照寺:そう感じます。今回のA8のデザインは、小手先のところで変化をつけているだけともいえますから、デザイナーとしては魅力を感じません。工夫が見えない。ドア断面にしても、別に何の工夫もない。「レクサスLS」と比較しても、好き嫌いは別として、LSからは「何か新しいことをやらないと」っていう前向きなものを感じます。
永福:前向きすぎて空回りした部分もあるにせよ、ですね。
ほった: LSですか……。正直、A8とかLSとか、こういうクルマを買う人たちがワタシにはよくわからないんですよ。なにを重視してクルマを選んでるのかとか。
永福:このクラスだと、なによりもブランド力が圧倒的に重要だろうから、「Sクラス」からA8にくら替えさせるというのは、並大抵のことじゃないでしょうね。
ほった:となると、新型A8の使命は、アウディ内でのステップアップの受け皿ですか?
永福:「コロナ」から「マークⅡ」「クラウン」へ、みたいな。
ほった:マークⅡとクラウンみたいに見た目が違えばいいんですけど、A8と「A6」って、昔から見分けが難しいですよね。
明照寺:本当に難しいです。
永福:本職のデザイナーがそんなこと言っていいんですか?(笑)
明照寺:正直なところ、よくわからないんですよ。この世界は。
ほった:いや本当にわかんないですよね。A8のオーナーさんは、自分のクルマがA6とソックリで納得できるんですかね? 市場によってはA6がフラッグシップだったりもするので、似せている部分もあるんでしょうか。中国だと「A4」にもロングバージョンがあるわけだし。
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これから出てくるSUVに注目
永福:やっぱり、日本人にはA8が感覚的に理解できない部分があるなぁ。日本ではほとんど売れてないし。
ほった:中古車ではオススメですよ。レクサスの「GS」と同じくらいオススメ。
永福:ただ、A8クラスって電子デバイスのカタマリじゃない。聞いた話だと、安いからって飛びつくと、つまんないところが故障して修理代で目ン玉が飛び出るらしい。
ほった:まあそうなんですけどね。……電子デバイスっていえば、インテリアはすごく斬新じゃないですか、新しいA8。
明照寺:フラッシュサーフェスの極地みたいなデザインで、極力スイッチを省いていますよね。本来、A8ってそういう価値観のクルマのはずなんですよ。それが新型については、「外見がオッサンっぽいのがなあ」っていうのが総評になってしまう。
永福:もともとアウディのデザインは、期待値が非常に高いですから。
明照寺:その通りです。メルセデス・ベンツやBMWもそうですけど、自動車業界をけん引する存在なわけですから。特にアウディは、デザインに関しては一番先進感があった。新しいA8は、そのイメージに応え切れてないですよね。シルエットは普通に奇麗なんですけど。
永福:アウディデザインは、袋小路にはまっているんでしょうか?
明照寺:そうとも言えないと思います。写真を見ただけですけど、例えば「Q8」なんかはすごく堂々としてるんじゃないですか。グリルもデカいだけじゃなくて、立体的に作られているように見える。
永福:ダイナミックですよね。
明照寺:SUVとしてのカタマリ感やダイナミックさや先進感が、ほどよくバランスされてますよ。こういうのを見ると、アウディデザインは決して袋小路にはまっているわけではないという気もします。新しい「Q3」も、おそらく悪くはない。今のQ3はあまりカッコよくないですけど、新型はちゃんとバランスが取れている。
清水:アウディはむしろ、SUVのデザインに注目ってことですか。
明照寺:SUVのほうが、「アウディ・プロローグ」が見せたブリスターフェンダーなどのアイコンと、親和性が高いのかもしれませんね。
(文=永福ランプ<清水草一>)
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明照寺 彰
さまざまな自動車のデザインにおいて辣腕を振るう、現役のカーデザイナー。理想のデザインのクルマは「ポルシェ911(901型)」。
永福ランプ(えいふく らんぷ)
大乗フェラーリ教の教祖にして、今日の自動車デザインに心を痛める憂国の士。その美を最も愛するクルマは「フェラーリ328」。
webCGほった(うぇぶしーじー ほった)
当連載の茶々入れ&編集担当。デザインに関してはとんと疎いが、とりあえず憧れのクルマは「シェルビー・コブラ デイトナクーペ」。