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「日本メーカーは遅れている」は正しいのか? 報道されない欧州EV販売の実態

2020.11.20 デイリーコラム 鶴原 吉郎

伸長する欧州勢と苦戦する日本勢

ドイツのフォルクスワーゲン(VW)が初となる専用設計の量産電気自動車(EV)「ID.3」を発売し、BMWも最新モデルの「iX」を発表するなど、欧州では新型EVが相次いで登場している。販売実績を見ても、コロナ渦で欧州の自動車販売台数が低迷するなか、EVは成長を示しており、世には「次世代の環境車両はEVで決まり」という雰囲気が漂う。

欧州自動車工業会(ACEA)の発表によれば、欧州における乗用車販売台数は、1~9月の累計で対前年比29.3%減と大きく落ち込んでいる。そうしたなか、EVとプラグインハイブリッド車(PHEV)のシェアは1~3月に6.8%、4~6月は7.2%、そして7~9月は9.9%と尻上がりに伸びている。1~9月を通してのシェアは9.0%で、通年でのシェアは10%が視野に入ってきた。2019年通年でのシェアが4.0%だったことを考えると、大幅な増加といえる。

なかでも台数を伸ばしているのが、欧州メーカーのEVだ。仏ルノーの「ゾエ」は4~9月の販売台数が4万2912台に達し、月間の平均販売台数が約7000台に達する好調ぶりだ。また注目のID.3も、9月に納車が始まっていきなり月販8571台のセールスを記録し、順調な立ち上がりを見せている。

これに対し、ホンダの初めての量産EV「ホンダe」は、事前受注も含めた4~9月の販売台数が1571台だった。マツダ初の量産EV「MX-30」も同じ期間の販売台数は1777台にとどまる。量産EVとしては先輩格の「日産リーフ」も、同期間の販売台数は1万2117台と、ゾエの3分の1以下だ。日本の自動車メーカーは、EVでは先発組であるにもかかわらず、欧州で存在感を示せているとはいえない状況だ。

フォルクスワーゲンID.3
フォルクスワーゲンID.3拡大
BMW iX
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ルノー・ゾエ
ルノー・ゾエ拡大

好調なEVのセールスを支えているもの

こうした現状から、「日本メーカーはEV化で遅れている」という報道も相次ぐ。例えば2020年10月27日付の日本経済新聞は『排出ゼロ、日本企業転換迫られる EV・燃料電池車遅れ』と題する記事を掲載。「日本勢のEVでの挽回に時間がかかる可能性がある」と指摘する。

ただ、筆者は欧州でのEVの勢いがこのまま持続する可能性は低いと見ている。というのも、現在のEV販売は補助金で支えられているからだ。ドイツでは2020年7月から2021年末までの期限付きで、4万ドル以下のEVの補助金をこれまでの3000ユーロから6000ユーロに倍増するという政策が導入された。この6000ユーロに加えて、メーカー負担の補助金が3000ユーロあり、合計額は9000ユーロ(1ユーロ=125円換算で112万5000円)にも達する。

これにより、ほぼエンジン車との価格差が消えるので、EVの維持費の安さ(燃料代に対する電気代の安さ、オイル交換が要らないなど整備費の低さ)も相まって販売が伸びているのだ。ホンダeとマツダMX-30は、航続距離が200km程度(WLTPモード、Extra-highフェーズあり)と欧州の競合車種に比べて短く、エンジン車のようには使えないのがネックになって、この波に乗り切れていないと考えられる。

しかし、こうした補助金政策は持続可能ではない。ドイツの国内自動車市場は正常時で約360万台だから、この10%がEVになれば36万台となり、一台6000ユーロずつ補助金を支給するとすれば総額は21億6000万ユーロ(1ユーロ=125円換算で2700億円)という巨額なものになる。しかも、今後EVの比率が増加すれば予算はそのぶん膨れ上がる。したがって2022年以降に同レベルの補助金が支給される可能性は低いだろう。そうなれば、EV販売は失速する可能性が高い。実際、EVに対する補助金が2019年に半減した中国では、その販売が急減した。 

ドイツでは、車種によってEVに100万円以上の補助金が支給される。欧州でのEVブームは、エンジン車との差額を埋める補助金によって支えられているのだ。
ドイツでは、車種によってEVに100万円以上の補助金が支給される。欧州でのEVブームは、エンジン車との差額を埋める補助金によって支えられているのだ。拡大

EVよりもハイブリッドのほうが伸びている

一方で、補助金の増額がないのに欧州で販売シェアを伸ばしているのがハイブリッド車(HEV)だ。2019年は通年で4.8%だったが、2020年1~3月は9.4%、4~6月は 9.6%、そして7~9月は12.4%と、その伸びはEVを上回っている。2019年にはトヨタ自動車の欧州販売におけるHEVの比率が50%を超えた。

英国の調査会社であるPAコンサルティングのリポートによると、2021年の欧州CO2排出量規制をおおむねクリアできるのはHEVの比率が高いトヨタだけで、欧州最大の自動車メーカーであるVWは、EVやPHEVの比率が10%になると見込んでも45億400万ユーロ(同、5630億円)もの罰金を支払うことになると予測している。このことから分かるのは、EVやPHEVだけでは環境規制の達成には不十分だということだ。中国で現在HEVが見直されているように、欧州においてもEV“ブーム”が去ったあとにはHEVへの揺り戻しが起こると筆者は考えている。

(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/写真=トヨタ自動車、フォルクスワーゲン、ルノー/編集=堀田剛資)

HEVのラインナップを豊富に取りそろえるトヨタ。欧州ではすでにHEVの販売比率が50%を超えている。
HEVのラインナップを豊富に取りそろえるトヨタ。欧州ではすでにHEVの販売比率が50%を超えている。拡大
鶴原 吉郎

鶴原 吉郎

オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。

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