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日本の技術をハニートラップで奪い…半導体関係メーカー幹部「韓国勢に協力する人はいない」

 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権が、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を決定したことで、日米両国の怒りが爆発寸前になっている。こうしたなか、韓国が世界一を誇る半導体産業が今後、危機に直面しそうだ。この分野は、かつて日本が世界を牽引(けんいん)していたが、「ハニートラップ」といった反則技などもあり、虎の子の技術を奪われた。日米は、裏切り者の韓国に最新技術を渡すことはない。技術的蓄積に欠ける韓国の現状とは。経済ジャーナリストの石井孝明氏が緊急寄稿する。

 「これが、ハニートラップか…」

 ある日本の半導体関係メーカーの幹部は2000年ごろ、異様な経験をした。韓国の企業で打ち合わせをした後、ソウルのバーで酒を強く勧められて酩酊(めいてい)しそうになった。すると、美女ホステスが並ぶ、怪しげな雰囲気のいるクラブに連れて行かれたのだ。

 「おかしな行為を撮影される。危ない!」と正気に戻り、相手が引き止めるのを振り払ってホテルに帰った。

 日本の技術者の中には、夜遊びの猛者がいた。携帯型の盗聴機探知機を持って接待に付き合った。実際に盗聴器を発見し、さんざん遊んだ後に「盗聴したな」と詰め寄った。韓国側はもちろん否定したが、その人は自分の遊びを不問にさせる交渉材料にしたという。

 しかし、これは例外だ。前出の幹部は「技術者を引き抜けば何千万円も人件費がかかる。ハニートラップは成功して脅せば数十万円ですむ」と語る。

 電子機器を制御する重要部品である半導体。日本はこの分野で1990年代まで世界を牽引していた。1986年の日米半導体協定で、外国産半導体の調達を自主的に行うことになり、韓国企業に技術を供与して半導体を作ってもらった。

 それをきっかけに、韓国の半導体産業は飛躍した。DRAM(記憶素子)や、東芝が発明したフラッシュメモリー(情報の一括消去可能な記憶素子)など、汎用(はんよう)技術に基づく半導体を大量に生産して安値販売し、赤字覚悟でシェアを奪う戦略で成長した。

 2000年前後は、日本企業が汎用半導体部門を縮小した時期で、人についた技術が流出したとされる。日本の半導体産業は10年ごろまで、そうした流出技術を活用したと思われる韓国製品との競争に苦しんだ。

 ライバルの韓国勢に技術を与える日本企業の甘さと設備投資の判断ミス、収益率の低さからの撤退など日本側の問題も多いが、韓国勢のハニートラップを含めた「反則技」の影響も深刻だったといえる。

 もちろん、日本企業も流出技術の実態調査と防衛策を考えたが、「ハニートラップなどの危うい手法は、引っかけた方も、引っかかった方も沈黙するので詳細は分からなかった」(同幹部)。

 ちなみに、韓国企業に協力した技術者の多くは、数年すると勤めた韓国の会社を辞め、中には自殺する人もいた。日本企業にも戻れず、あまり幸せな経歴を歩んでいないという。

 こうしてシェアだけは世界のトップになった韓国の半導体産業だが、その足元は崩れやすいものだ。

 そもそも、韓国勢のつくる主な半導体は市況につられ価格が乱高下する汎用品で、その生産に特化した強い企業が数社あるのみだ。そうした製品の利益率は低い。半導体の検査、製造機械、製造原料などを供給する企業は韓国内にほとんど育たず、今でも日本に依存している。

 高付加価値品は日米メーカーが強く、韓国メーカーはライセンス生産に甘んじている。自社開発も試みているが、なかなか成功しない。

 ■日米はこれまで以上に激しく監視へ

 日本の経産省が、半導体製造に必要な高純度フッ化水素などの輸出審査を厳格化しただけで、韓国の半導体生産は今でも混乱している。

 韓国は経済が破綻してIMF(国際通貨基金)管理となった1997年でも、半導体産業に税制優遇をし、補助金をつぎ込んで守った。ようやく成長し、経済低迷に直面する文政権で唯一の輸出の主力といえる。

 ただ、今回のGSOMIA破棄を受け、日米の姿勢は変わりそうだ。

 前出の幹部は「技術を日本から奪うという安易な発想をしたツケが出ている。『恩を仇で返された』という思いを持つ日本企業で、積極的に韓国勢に協力しようという人はいない。半導体の技術革新が進んだときに、韓国企業は主役になれないだろう」と言い切る。

 実際に、世界経済が減速した今年になって韓国半導体関係企業の収益は大きく悪化している。また敵側の共産圏に寝返ったと言える文政権の外交政策によって、戦略物資と言える半導体技術の流失を、日米両国政府はこれまで以上に厳しく監視するようになるはずだ。

 自業自得とはいえ、韓国経済の苦難はより厳しいものになりそうだ。

 ■石井孝明(いしい・たかあき) 経済・環境ジャーナリスト。時事通信記者、経済誌記者を経て、フリーに。安全保障や戦史、エネルギー、環境問題の研究や取材・執筆活動を行う。著書に『京都議定書は実現できるのか』(平凡社)、『気分のエコでは救えない』(日刊工業新聞)など。

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