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【高橋洋一 日本の解き方】「政府日銀連合軍」安倍氏の発言、大型財政措置の断行を後押し 衆院選への危機感と打開策に

前回の本コラムでも取り上げたが、安倍晋三前首相が「政府と日銀の連合軍による経済対策の必要性」について発言した。あらためて「連合軍」の意味を解説したい。

新潟県三条市で10日に行われた講演で、安倍氏は以下のように発言した。

「昨年いわゆる金融政策も含めた形でコロナ対策に挑んだ。政府と日本銀行が連合軍で200兆円という対策をとった。このうち100兆円くらいはしっかり財政措置をした。『子供たちの世代につけを回すな』との批判がある。ずっとこの批判は安倍政権に対してあった。でも必ずしもその批判は正しくない。なぜかというと、今回のコロナ対策においては、政府と日本銀行が連合でやっているから、政府が発行する国債は日本銀行がほぼ全部買い取ってくれている」

続けて「皆さん、どうやって日本銀行は政府の出す巨額な国債を買うと思いますか。どこからかお金を借りてくるか、持ってくるのか。それは違う。それは紙とインクでお札を刷る。20円で1万円札ができるから。つまり、それは新しいお金が誕生して世の中に出ていくから、それはデフレの圧力に対抗する力にもなる。日本銀行というのは、政府の言ってみれば子会社の関係にある。連結決算上、実はこれは政府の債務にもならない。ですから、『孫、子の代につけを回すな』というが、これは正しくない」と説明する。

さらに「ただ、1つだけというか2つだけ副作用がある。それはインフレがどんどん進んでいくという問題。もう一点は円の価値がどんどん暴落していくという問題。でも、皆さん、そんなことになっていますか。まったくなっていない。私は今の状況であれば、もう1回、もう2回でもいい。こうした大きなショットを出して、国民の生活を支えていく、大きな対策が必要であり、スピードアップして、足の速い対策を打っていかなければならない」と述べた。

これらの説明は「完璧」だ。

実際に安倍政権と菅義偉政権とで、昨年3回の補正予算を計上した。その総事業費はおおむね200兆円で、真水の財政措置は約100兆円だ。この両者はマスコミ報道でも混同されているが、安倍氏はきちんと使い分けている。

日銀が政府が発行した国債を買い取るという本質論も正しい。本コラムの読者であれば、昨年5月の麻生太郎財務相と黒田東彦(はるひこ)日銀総裁による記者会見で明らかにされたことをご存じだろうが、マスコミはあまり報道していない。

副作用が2つという整理も正確だ。通貨が物に対して多くなるのがインフレで、他の通貨に対して多くなるのが円の価値下落だからだ。

今の時期に安倍氏がこの発言をしたのは、東京都議選や緊急事態宣言、東京五輪の「無観客」などで自民党への逆風を感じ、このままでは秋の衆院選で勝てないという危機意識によるものではないか。実際、内閣支持率は低下し、飲食業者の締め付け問題で政権運営も危うくなっている。その打開策が党内から上がっているのだろう。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

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