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もう金の卵をパに渡すな! 広島・松田オーナー音頭で清宮獲りにセ・リーグ談合

近年のおもなドラフト1位抽選の結果
清宮はパに渡したくない

 もうこれ以上、金の卵を渡せない。今秋ドラフト最大の目玉、早実・清宮幸太郎内野手(3年)は22日に進路を表明。プロ野球志望届を提出することを発表した。近年はアマ球界のスター選手がパ・リーグに集中する傾向が強いことから危機感を募らせるセ・リーグ6球団の幹部が今年7月、広島の料亭で膝を接し、全球団一致して清宮を1位指名してセの顔として確保する、前代未聞のプランを討議していたことがわかった。高校通算最多111本塁打を誇る希代のスラッガーを囲い込む秘策は、果たして功を奏するだろうか。

 清宮カルテルが討議されたのは7月3日夜。広島・宮島の高級料亭でのことだった。

 セ6球団の球団社長は、12球団を統括するNPB(日本野球機構)とは別に、2カ月に1度「社長会」と称する会合を開いている。各球団が持ち回りで主催し、この夜も全球団の社長が顔をそろえていたという。

 音頭を取ったのは最年長の広島・松田元オーナー(66)=球団社長兼務。

 6月に親会社から異動してきたばかりの巨人・石井一夫社長、就任2年目の阪神・四藤慶一郎社長らは恐縮しつつ、互いの球団の現状や課題などを語り合い親睦を深めていた。

 出席者によると、場が温まった頃、松田オーナーが「今注目されている大谷(翔平投手=日本ハム)もそうだが、セ・リーグに彼らのようなスター選手がいないのは寂しい。ここはひとつ、全球団で清宮君の獲得を狙い、リーグのスターとして育てないか?」と提案し、各球団社長の意思をただしたという。

 「はい」

 「獲りに行きます」

 温度差はあれ、おおむね前向きな答えが返ってきた。ただ、巨人・石井社長は就任間もないせいか返答に窮し、様子を察した松田オーナーが「言わなくていいよ」と制する一幕もあった。

 セ各球団首脳が危機感を募らせるのも無理はない。近年はダルビッシュ有(元日本ハム)、田中将大(元楽天)、中田翔(日本ハム)、菊池雄星(西武)、斎藤佑樹(日本ハム)、大谷翔平(同)、松井裕樹(楽天)…アマ球界のスターがこぞってパ球団入り。

 2007年のドラフト会議からは、希望入団枠が裏金の温床との批判を受けて撤廃され、1位指名が重複した場合は抽選となると、パ側が圧倒的なくじ運の強さを発揮した。

 さらに巨人、阪神といったセの人気球団がくじを外すリスクを避け、競争率の高い人気選手より、1年目から使える即戦力の指名を優先する傾向が拍車をかけた。

 こうしてセ球団一丸の取り組みが提唱されること自体、隔世の感がある。かつては1試合1億円ともいわれた巨人戦のテレビ中継権に、他球団がぶら下がる統治体制が維持されてきたが、ビジネスモデルが崩壊。足の引っ張り合いが目立つようになっていた。

 一方でパ側は04年の球団再編問題でいち早く危機感を共有。プレーオフ制度の導入、放映権の一括管理など、一体となりリーグ全体の盛り上げを図ってきた経緯がある。

 その結果、05年にスタートしたセ・パ交流戦では、これまで13回中12回でパが勝ち越し。優勝チームも12年と14年の巨人以外はすべてパ球団という圧倒ぶりだ。球界最高峰の日本シリーズも、昨年まで4年連続でパ球団が制している。

 清宮がドラフトの対象となれば、過去最多の8球団(1989年の野茂英雄=新日鉄堺→近鉄、90年の小池秀郎=亜大)を超える1位指名競合も取り沙汰されるが、6球団が申し合わせておけば、清宮をリーグ内に置ける確率は高くなる。

 宮島の夜の談合に従い、セ6球団は10月26日のドラフト本番でも、足並みをそろえて清宮を1位指名するのか。それとも抜け駆けする球団が出てくるのか。

 もっとも、「社長会」が催された時点と現在とでは、ドラフトの情勢が大きく変わっているのも確かだ。

 その後、清宮を擁する早実は今夏の甲子園大会出場を逃し、代わって広島の地元代表である広陵の中村奨成捕手(3年)が1大会で6本塁打をかっ飛ばし一躍スターダムに。こちらも清宮に匹敵する素質にスター性を備えたことで、1位でなければ獲得できない可能性が高まった。

 きら星のごとく若手スターが輩出するパに、実力でも、かつて圧倒的優位を誇った人気でも押され気味で、遅ればせながら危機感を抱き始めたセ。リーグ2連覇の赤ヘル軍団のトップが主導した、奇想天外な清宮獲得大作戦はそうした思いの表れだろう。

 ■近年のおもなドラフト1位抽選の結果

 年度 競合数 名 前 校 名 交渉権獲得

 2006 (4) 田中将大 駒大苫小牧 楽天

 2007 (6) 大場翔太 東洋大 ソフトバンク

      (5) 長谷部康平 愛工大 楽天

      (5) 佐藤由規 仙台育英 ヤクルト

      (4) 中田翔 大阪桐蔭 日本ハム

 2009 (6) 菊池雄星 花巻東 西武

 2010 (6) 大石達也 早大 西武

      (4) 斎藤佑樹 早大 日本ハム

 2012 (4) 藤浪晋太郎 大阪桐蔭 阪神

 2013 (5) 松井裕樹 桐光学園 楽天

 2014 (4) 有原航平 早大 日本ハム

 2016 (5) 田中正義 創価大 ソフトバンク

 【注】2007年は大学・社会人と高校生の分離ドラフト

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