野球

しくじり先生伊藤隼太、阪神D1・佐藤輝明に魂のエール「僕みたいに自分を見失うな」

慶大時代から慣れ親しんだ神宮球場で、伊藤隼は2打席凡退後に意地の二塁打
佐藤輝は「30本塁打くらい打ちたい。新人王を目指す」と高い目標を掲げた

 阪神は7日、大阪市内で新入団選手発表会。晴れ舞台でドラフト1位の佐藤輝明内野手(22)=近大=がスポットライトを一身に浴びた一方で、9年前のドラフト1位はこの日、神宮球場で選手生命を懸けた12球団合同トライアウトに臨んでいた。入団時には佐藤と同じく大卒の左打ちスラッガーとして、虎党の大きな期待を集めた伊藤隼太外野手(31)だ。定位置をつかめないまま、今オフに戦力外通告を受けたしくじり先生は「全ては1年目の春季キャンプ」と自身のつまずきを回顧。入れ替わりでプロの世界に飛び込む若虎たちへ、「自分を強く持ってほしい。他人の目を気にして自分を見失うな」と魂のエールを贈る。(聞き手・山戸英州)

 --トライアウトでは4打数1安打。右中間への二塁打で得意の打撃をアピールできた

 「センター返し、逆方向を意識する中でうまく打ててホッとした。妻、子供、両親や兄弟が見守るなか、1本出て本当に良かった」

 --今日は阪神が新入団発表。ドラ1の佐藤輝とは今年対戦している

 「近畿大学と阪神2軍で練習試合をやったときに直接見ましたが、とにかくパワーはすごい。助っ人外国人選手級。でも粗削りな面も多い。球団、マスコミ、ファンがじっくり育てられたら、それこそギータ(ソフトバンク・柳田選手)のように成長するでしょうけど、そこまで待てるか。ここがポイントになると思います」

 --阪神のドラ1は大変

 「ほかの球団を知らないんで単純な比較はできませんが、聞いている話だとそうですよね。この9年間、パッと思い浮かぶのはしんどいときのことの方が多い。サヨナラ打、逆転ホームランなどいい思い出もありますが、自分のなかでは苦しかった何もない日々の方がよく覚えていますね。期待も大きかった最初の2年間と、ラスト2年。肩をケガしたときとかね」

 --入れ違いになる佐藤輝に、同じドラ1だから伝えられることは

 「僕はね、1年目で新人王だった高山や、立派に成長した大山のように成功者じゃないから、あまり語れることはないですよ。でもね、どこまで自分を強く持ってやれるかですよ。僕の場合、周りの目を気にし過ぎて。自分自身を見失っている期間が長かったんで。何かね、どういう風にプレーしていたかな…。せっかくアマチュア時代に培った経験、構築したスタイルがあったのに、プロの壁にぶつかるまで貫けなかった。だから自分を強く持ってほしい」

 --自分のなかでこうありたいというイメージができなかった?

 「イメージはしてたんですよ。全てはプロ1年目の春季キャンプでしたね。イメージのなかではアマチュア時代同様、キャンプのなかで自分の打撃、守備をつくりあげてオープン戦、公式戦を迎えるのかなと思っていたんです。でも実際には自分の時間なんて存在しなかった。全てを見られてあちらこちらでメニューをこなし、個人メニューをやる体力はなかった。1日を必死にこなすので精一杯。その時点で自分を見失っていましたね。他人の目を気にせずにやれていたら、また違う結果が出ていたのかなと」

 --周りに合わせようとハイペースに

 「人に合わせよう、期待に応えよう、こればっかり考えてしまっていた。自分がどうなりたいとか、それがなかった」

 --キャンプから大勢のファンが押し寄せる

 「アマチュア時代、慶早戦だと神宮にお客さんもたくさん来ますけど、練習なんて誰も見てませんから。それが新聞を読むと『伊藤、〇スイングで〇本柵越え!』って載っている。あれ、意味わかんないすよ(笑)。逆方向を意識してバットを振っても1スイングにカウントされるし。それで柵越えしなければ、『なんだ、ホームラン打てないのか』と言われたり、書かれたり。結果、自分のペースを見失うことになった。報道陣も多く、ファンの方も予想以上にたくさん来られていた。そんな環境が最初から分かっていたらまた、対応できたのかもしれませんけどね。まあ、それも含めての実力なんでね」

 --中京大中京高、慶応大とエリート街道を歩んでもギャップを感じた

 「完全に、地に足がついてなかった。これに尽きますよ。1月の新人合同自主トレは自主です。キャンプはその延長線上だと思って2月になった途端、別世界に連れていかれた感覚に陥った。当時は金本さん、城島さん、新井さん、鳥谷さん、桧山さん、関本さん、すごい選手ばかり。現実感もつかめなかった」

 --報道陣も多かった

 「当時、申し訳なかったですが会いたくなかった。報道陣だけじゃない、人と会いたくなかった。どこ行っても追い掛け回される。全体練習、ランニングメニューが終わりウエートの時間だけが唯一、気が休まる時間でした。外から部屋の中は見えないので、扉を閉めて30分ほど、何も考えずボーっとしないと心身ともに持たない。それからトレーニングをして、何事もなかったような表情で引き上げる日々でした。佐藤くんも、意識して1日30分だけでもいい、1人になれる時間を絶対に持つこと。そこで頭と体を切り替えて、翌日に臨む。これを1年目からちゃんとやれる、やれないは大きいと思う」

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