自治体が行うがん検診 新型コロナで大幅減 5月は去年の8%

自治体が行うがん検診 新型コロナで大幅減 5月は去年の8%
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新型コロナウイルスの影響で自治体が行うがん検診を受けた人が大幅に減り、特に5月は去年の同じ時期と比べて8%にとどまったことが日本対がん協会の調査で明らかになりました。協会は「受診が遅れるとがんが進行してから見つかる可能性もあるため検診を受けてほしい」と呼びかけています。
がん検診は、がんを早期に見つけ死亡率を下げるために行われ、自治体が行う検診は年間、延べ1100万人が受け、1万3000人のがんが発見されています。

各地でがん検診をすすめている公益財団法人、日本対がん協会は新型コロナウイルスの影響を調べるため、ことし6月、全国42道府県の支部を対象にアンケートを行い、32の支部から回答を得ました。

それによりますと、胃がんや乳がんなど5種類のがんについて検診を受けた人は、ことし3月以降減り始め、去年の同じ時期と比べて3月は64%、4月は16%、5月は8%になるなど大幅に減りました。

協会は、検診の中止や感染を懸念して受診を控える人が増加したのが原因とみています。

また、回答したすべての支部で、今月までには検診が再開されるとしていますが、感染対策のため一度に受けられる人数を減らす必要があるなどの理由で、半数以上の21支部が今年度の受診者について「3割以上減る」としています。

日本対がん協会の小西宏マネージャーは「受診が遅れてがんが進行してから見つかると治療に影響する可能性もある。地元自治体の集団検診を受けるのに抵抗がある場合は、医療機関でも受診は可能だ。現場では感染対策をしっかりとっているので早期発見のためにも検診を受けてほしい」と呼びかけています。

調査結果の詳細

今回、日本対がん協会は自治体が行っている胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、子宮頸がんの5つのがん検診の実施状況について全国42道府県の支部を対象にアンケートを行い、32の支部から回答を得ました。

調査結果によりますと、ことし1月と2月の受診者の数は去年とほぼ同じですが、3月から減り始め、3万2000人余りで去年のおよそ5万人の64%となりました。

例年だと集団検診が多く行われ、受診者が多くなる4月や5月でも受診者は増えず、4月は3万人余りと去年の19万人の16%に、5月は3万7000人余りと去年の45万人の8%にとどまっていました。

がんの種類別にみますと、落ち込みが最も大きい5月は去年に比べて肺がんが5.8%、胃がんが5.9%、大腸がんが6.8%、乳がんが10.4%、子宮頸がんが19.6%にとどまる結果となっています。

このうち、肺がんは一般的に進行が早いとされていて、協会は、今後、がんが進行した状態で見つかる患者が増えると治療に影響する可能性があると指摘しています。

また、回答したすべての支部で、今月までには検診が再開されるとしていますが今年度の受診者数の見通しを尋ねたところ、「3割減る」と答えたのが12支部、「4割減る」と答えたのが9支部、「2割減る」と答えたのが9支部、「ほぼ例年通りか1割減る」と答えたのが2支部でした。

半数以上の21支部が「3割以上減る」と答えていて、感染対策で1回の集団検診の受診者数を減らすことなどを理由として挙げています。

がん検診の現場では

兵庫県宝塚市は、1か月に6回から8回程度、がん検診の日程を設けていますが、新型コロナウイルスの影響で4月から6月までの3か月間は休止していました。

当時は緊急事態宣言が出され、がん学会なども、集団検診が感染の場になり得るとして中止や延期を求めていました。

宝塚市では先月、1人が受診するごとに機器を消毒するなど、感染対策をとったうえで、1日に受けられる人数を通常の100人から半分の50人に制限して検診を再開しましたが、ことし4月から先月末までの受診者は417人と、前の年の同じ時期の1649人と比べておよそ4分の1にとどまりました。

宝塚市では今後、集団検診の日程を増やすなどして、例年と同じ程度の人数が検診を受けられるようにしたいとしていますが、1回ごとの人数を制限しているため、どこまで増やせるか不透明だとしています。

検診に訪れた71歳の女性は「なかなか個人では行くタイミングがない。怖さはあるが、割り切って来た」と話していました。

宝塚市健康推進課の門田憲亮保健師は「定員を減らして間隔を空け、機器の消毒をするなどリスクの少ない形で実施しているので安心して受けに来てほしい。集団検診が怖い方は、医療機関でも実施しているので検診を受けてがんの早期発見に努めてほしい」と話しています。

最も影響が大きいのは胃がんの検診

がん検診は、がんを早期に発見することでがんで亡くなる人を少しでも減らすために行われていて、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんの5つのがんについて、受診率を50%にすることを目標に国を挙げた取り組みが進められてきました。

東京・新宿区の「東京都予防医学協会」では、5つのがんについて自治体などからの依頼を受けて、毎年、延べ15万人ほどの住民に対して協会の検診センターに来てもらったり、検診車を派遣したりして検診を行っていますが、緊急事態宣言が出されていた4月から5月にかけては感染を防ぐため検診は休止になりました。

6月に再開したあとも、感染対策を行うため多くの人が同時に検診を受けることができないほか、7月以降は感染が再び拡大するにつれ、感染リスクを心配する人のキャンセルが増えています。

このため、4月から7月の受診者の数は去年に比べて半分以下に減りました。

このうち、最も影響が大きいのが胃がんの検診です。胃の内視鏡検査では、受診者の飛沫がかかることを防ぐため、検診の担当者は手袋とマスク、ガウンに加えて、新たにキャップやフェイスシールド、ゴーグル、エプロンを着用し、1人受けるごとに新しいものに着替える必要があります。

また、胃のレントゲン検査では、更衣室で密な状態になるのを防ぐため、一度に利用できる人数を減らすとともに、1人が検診を受けるごとにレントゲンの装置と更衣室をアルコール消毒していて、以前は1時間に16人程度できたのが、10人以下になっているということです。

こうしたことから、胃がん検診を受けた人の数は、4月から7月には、去年より85%減少したということです。

東京都予防医学協会の阿部業務執行理事は、「感染対策を徹底するとともに、今後は検診を受けられる時間を長くするなどして、なんとか少しでも多くの人に受けていただけるようにしたい」と話しています。

「発見遅れ治療効果下がることを懸念」「早期に検査を」

がん医療の専門家は、検診の受診者数が減ることで、患者の治療に影響が出るのではないかと危惧しています。

国内で最も受診するがん患者が多い東京・江東区の「がん研有明病院」では、新型コロナウイルスの感染拡大が始まる前は、検診施設や他の病院から紹介されて受診するがん患者が1日当たり40人前後いましたが、5月から6月にかけてはおよそ35%減少し、25人前後になったということです。

病院では、早期に見つかるはずだったがんが進行した状態で見つかるおそれがあり、数十年かけて下がってきたがんによる死亡率が上がってしまうのではないかと危惧しています。

佐野武病院長は「特に検診施設からの紹介がぱたりと止まり、がんを発見するきっかけがそもそもなくなってしまっている状況だ。実際に3月、4月に検診を受けるはずだった方で7月に延期したところ、がんが転移しているのが見つかったという例も出てきている。発見が少し遅れても影響が少ないがんもあるが、肺がんなど治療が間に合わなくなるがんもある。見つかるべきがんの発見が遅れ、治療効果が下がってしまうことを懸念している」と話しています。

そのうえで「ちょっとした自覚症状をきっかけに病院を受診してがんが見つかる場合も多い。おかしいと思う症状があれば早く病院に行き、検査を受けてほしい。医療者も、がんのリスクや感染対策など、正しい情報を発信していくことが求められている」と指摘しています。