部屋を借りる際に支払う「敷金」はあくまでも戻ってくるお金。しかし「戻ってこない」「さらに追加請求された」というトラブルは多数。今回は泣き寝入りしないための、「敷金」についてお教えします。
敷金は、賃料の1カ月分~3カ月分が一般的で、礼金と同様、引越しの初期費用として必要なお金です。しかし礼金は戻ってきませんが、敷金は、大家(貸主)に保証金として預けるお金で、あくまでも担保。家賃の滞納がなければ、原則、退去時には「全額返還されるべき」お金です。
「え、でも戻ってこなかったよ」という経験をした方、いますよね。残念ながら、「クロス・壁紙の張り替え代やハウスクリーニング代などは全部敷金から支払う」という、家を貸す側に有利な習慣が、長い間まかり通ってきたのが現状です。
以下は国民生活センターに寄せられた相談内容の一部。
「賃貸アパートの退去時、貸主から特約にないハウスクリーニング代と畳表替え費用を請求された。通常どおりに使用しておいたのに。」
「退去時、タバコを吸っていたので壁紙の張り替えは全額負担と言われた。支払うべきか…。」
「マンションの退去時に冷蔵庫を置いてあった跡などのクリーニング代などを請求され支払ったが、納得がいかない」
入居者は退去時「原状回復」が義務づけられていますが、それは「入居前の部屋に戻す」という意味ではありません。普通の生活をしていれば生じる程度の汚れ・キズは、大家さん負担が原則なのです。
「そのルールは国土交通省のガイドライン、東京都の条例で定められています。さらには判例でも出ているもの。敷金は戻ってくるお金なんです」と解説してくれたのは、不動産コンサルタントで『家を借りたくなったら』(WAVE出版)の著書もある、長谷川高さん。「ただし、入居者の不注意や過失で生じたり、入居者が手入れを怠ったり故障を放置したことで発生・拡大した傷や汚れは、入居者が負担をしなければいけませんが、それ以外は入居者が負担する必要はないのです」。
ここでは分かりやすく、東京都が作成した「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」をもとに、「貸し手(大家さん)負担」と「借り手(入居者)負担」の境界線をまとめてみました。
お風呂
<大家負担> 古くなった給湯器を、壊れてはいないが次の入居者確保のために交換
<入居者負担> 空焚きしてしまって壊れたお風呂
キッチン
<大家負担> 冷蔵庫の後部壁面の黒ずみ
<入居者負担> 通常の使用を超える、台所の油汚れ(使用後の手入れが悪く、ススや油が付着している)
床
<大家負担> 家具の設置による床・カーペットのへこみ、設置跡
<入居者負担> 飲み物等をこぼしたことによるシミ・カビ(手入れ不足で生じたもの)
壁
<大家負担> クロスの変色(日照など自然現象によるもの)
画鋲やピン等の穴(下地ボードの張り替えは不要な程度)
<入居者負担> 結露を放置したことで拡大したカビ、シミ(通常の使用を超える)
クギ穴・ネジ穴(下地ボードの張り替えが必要な程度)
こうしてみると、「明らかな過失や故意による故障・傷」でなければ、入居者は負担をしなくてもいい、というわけなのです。とはいうものの、敷金返還のトラブルは珍しくありません。次回では「泣き寝入り」しないための、敷金を取り戻すテクニックについて解説します。
東京都都市整備局 賃貸住宅トラブル防止ガイドライン
HP:http://www.toshiseibi.metro.tokyo.jp/juutaku_seisaku/tintai/310-4-jyuutaku.htm
国土交通省 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン
HP:http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/genzyokaifuku.htm