災害があったら六本木ヒルズに逃げ込むべし。インフラを作る森ビルの災害対策への取り組み

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    災害があったら六本木ヒルズに逃げ込むべし。インフラを作る森ビルの災害対策への取り組み

    新宿や渋谷から歩いてでも避難したい。

    東日本大震災から5年が経ちました。直接の被災地ではなかったものの、当時は東京近郊でも多くの帰宅困難者が出たり、輸送や電力供給などの問題から一時的に物資の不足などが起きました。災害は人間の力ではコントロールできないもので、有事はいつ起きるか分かりません。それだけに、日頃から十分な対策をすることが大切です。

    森ビル株式会社(以下森ビル)は六本木ヒルズや虎ノ門ヒルズなどの施設を中心に都市再開発事業をしている企業です。そのミッションのひとつが災害に強い街づくり。1995年に起きた阪神淡路大震災をきっかけに「逃げ出す街から逃げ込める街へ」というコンセプトを掲げて震災への取り組みを強化するようになりました。

    なかでも六本木ヒルズや虎ノ門ヒルズをはじめ、森ビルの各施設では、合計約1万人の帰宅困難者が3日間滞在できる程の体制を整えているのだとか。私たちも仕事や遊びにと、たびたび行く施設です。具体的にどんな取り組みをしているのか、お話を伺ってきました。

    なんと、六本木ヒルズに井戸があるんです

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    森ビル株式会社震災対策室事務局の事務局長 寺田隆さん

    今回案内してくださったのは、森ビル株式会社震災対策室事務局の事務局長 寺田隆さんです。よろしくお願いします!

    森ビルでは、ハードとソフトの両面からさまざまな震災対策を講じています。

    ハード面では、独自の耐震基準のもと、各建物の特性に合わせて最適な耐震構造を選択しています。六本木ヒルズ森タワーの場合は、地震が起きた時に揺れを和らげるセミアクティブオイルダンパーや、衝撃を吸収するアンボンドブレースといった最新の制振装置を導入しています。また、エレベーター内で長周期地震動の揺れをいち早く検知して、エレベーターの中での閉じ込めを防止する長周期地震動管制システムなどを導入。高層ビル内での安全を確保しています。

    また、上水の給水が停止した時に使う非常時用の水も、施設内にある井戸でしっかり確保。都市ガスを燃料にした独自のエネルギープラントにより電力を供給しつつ、東京電力からの供給やストックしている灯油による発電ができるバックアップ体制を取っていて、3重の安定性を持つ電力供給ができます。つまり、交通網の麻痺などによってしばらく孤立してしまっても、ライフラインはしっかり確保できるんです。

    そして、ソフト面で大切なのが非常時に的確な判断をすばやくできる体制作りと、被災者の心のケアです。森ビルでは、東日本大震災をきっかけに建物内の被災度をリアルタイムで計測する「建物被災度推測システム」を独自に開発しました。二次災害の多くは、人々の不安と恐怖心から起きるので、安全宣言をできるだけ早くアナウンスするのが重要という判断からでした。もちろん安全の確認だけではなく「この箇所の天井が脱落する可能性があります」という危険も知らせてくれます。

    誰もが安心して避難できる場所にするために

    六本木ヒルズにある非常用の被災者支援物資の貯蔵庫は、「逃げ込める都市」を象徴する施策として、これまでもマスコミなどで取り上げられてきました。今回、ギズモード編集部も、そこを案内していただきましたよ。

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    六本木ヒルズ某所にある備蓄庫はこんなに広いんです。これでもまだ一部なのだとか

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    ケガをした人や急病人、お年寄りや女性、体の不自由な人など、

    さまざまな人に向けた救援物資も用意されています

    森ビルが受け入れられる帰宅困難者の人数は、六本木ヒルズで5,000人、虎ノ門ヒルズが3,600人、アーク森ビルや表参道ヒルズとも合わせると約1万2000人の帰宅困難者に対応できます。さらに食べ物アレルギーがある人や乳幼児、お年寄り向けの食料もありました。非常食というと乾パンと水というイメージがありましたが、最近は水やお湯を入れるだけで食べられるピラフやドライカレー、レトルト食品などもあり、種類が豊富です。それを見て「僕が日頃食べているものよりいいかも…」と言う編集部員も。

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    支援物資と救助活動にあたる社員に配布される備品の一部

    こちらの写真にある安全靴やつなぎは、災害時に森ビルの社員が使うものとのこと。施設内では定期的に、社員を対象にしたものや近隣の住民も参加できる震災訓練を実施しています。さらに災害時に即時対応ができるように、事業エリアから2.5キロメートル圏内にある防災社宅に住む社員は2カ月に1回のペースで訓練を受けています。他の地域に住む社員も対策要員や復旧要員として活動を行うので、まさに会社が一丸となって有事に備え続けているんです。

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    最後に避難所も案内していただきましたが、「え…? ここだったんですか?」と少し意外でした。避難所というと講堂のような場所を想像しがちですが、六本木ヒルズの場合はこちらを避難所にして配布したエアマットなどを敷いて過ごします。この場所は施設内のエネルギープラントから供給された電力を電源にした空調もあり、デザインも開放的です。ここで待機していれば不安な気持ちも和らぐかも。

    それに、この場所は天井からではなく床から暖かい空気が出る暖房設備なので、比較的快適に過ごせそうです。ふだんは商業施設として使う場所も、設計段階から災害時にも快適に過ごせる場所としてデザインされていたんですね。

    * * *

    森ビルの帰宅困難者への対応は、地元企業や自治会とも連携して今も進められています。また、情報をリアルタイムで共有する情報通信網や無線通信網、地図などと連動した災害ポータルなども整備しています。これは高い技術力を持つ大企業が長年培ってきた人的・技術的な資産があってのことですが、事業規模にかかわらず各企業が自社の持つ資産を活かした取り組みをしてネットワークを広げていくことで、有事に備えられる地域づくりや国づくりができるように思いました。

    source: 森ビル株式会社

    (文:高橋ミレイ/写真:kazoomii)