きょうご紹介したいのは、この書評コーナーがきっかけとなって誕生した私の新刊、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(印南敦史著、KADOKAWA/中経出版)。書評を書き続けるなかで、あるいはそれ以前から、ライターとして培ってきた「読むこと」「書くこと」についての考え方をまとめた書籍です。

ターゲットにしているのは、ライフハッカーの読者と重なるビジネスパーソン。書評でも企画書でも「書く」という共通項があるわけなので、日々の仕事に応用できそうな私なりの方法論を記しています。

なにより重要なのは、その媒体の特性、そしてメリットやデメリットを理解したうえで、「伝える」文章を書くことです。(中略)「それを読んだ人がどう感じるか」「伝えたいことが本当に伝わるか」などをしっかりと考慮する必要があるということです。(中略)ターゲットは、書くことに専門的に携わっている人ではありません。好むと好まざるとにかかわらず、日常の業務のなかで「書かざるを得ない」状況に置かれている人たちです。(「はじめに」より)

以下、書籍よりいくつかの要点を引き出してみます。

隅から隅まで読む必要はない

1日1冊以上のペースで本を読み、週に5本の書評を書いているというと、速読の達人であるように誤解されがちです。しかし速いどころか、私はかなり読書速度が遅いほうです。だから本が好きであるにもかかわらず、本を読むたびに「速く読めないコンプレックス」に悩まされていたほど。

そんななかで読書法が変化したのは、2年前に書評を書きはじめてから。毎日読んで書いているわけですから時間に余裕があるはずもなく、必要に迫られて読み続けるしかなかった。しかしその過程で、とてもシンプルだけれど大切なことに行き着いたのです。それは、

「別に隅から隅まで読まなくても、内容は把握できる」(28ページより)

もちろん「しっかり読もう」という気持ちも大切ですが、特にビジネス書などを読む場合には、そこがネックになってしまうことも。完璧に読むことを意識しすぎると、「読み落としがないようにしなければ」という方向に際限なく進んでいき、楽しいはずの読書が義務的なものになってしまうからです。

しかし、小説のようにストーリーの流れを楽しむものは別としても、ビジネス書や自己啓発書などは部分的に読むだけでも大丈夫。ピントさえ合わせれば、得るものは確実にあります。つまり、読み方を工夫すればいいだけの話なのです。だいいち、(実はここが大きなポイントなのですが)きっちり読み込んだつもりでも、忘れる部分は必ずあるもの。すべてを記憶することなど不可能に近く、それが普通だということです。

いわば、眉間にしわを寄せて熟読したところで、大半は記憶の彼方に消え去ってしまう。しかし、自分にとってインパクトが強かった部分だけはしっかり残るということ。そしてそれは結果的に、本全体を象徴する印象(核)となる。だったら最初から、核となる部分を読めばいいというわけです。(24ページより)

読ませる文章には「簡潔さ」が必要

この章では「読ませる文章に必要なもの」をいくつか紹介しているのですが、そのなかのひとつが「簡潔さ」。伝わる文章を書くにあたり、もっとも意識すべきポイントだといっても過言ではないと個人的には思っています。

難しい言い回しをしてみたり、あまり使われない漢字や熟語を使ってみたり、人はつい難しそうな文章を書いてしまいがち。しかし、ここで気をつけたいのは、難しそうに見える文章というのは、意外に簡単に書けてしまうということ。難しく書くことによって「伝わりやすいか否か」を無視できる、つまりは逃げてしまえるからです。

逆にいえば、本当に難しいのは、簡潔に、わかりやすく書くこと。(中略)頭がよさそうに見せることよりも、柔らかな文体でわかりやすく書くことのほうがずっと難しいのです。(127ページより)

伝えることが第一目的なのだから、簡潔な文章を心がけるべきだということ。その際に必要なのは「平易な表現」と「わかりやすさ」。当たり前すぎるといわれそうですが、当たり前だからこそ奥が深く、簡単ではない。しかし、だからこそ取り組みがいのある問題なのです。(126ページより)

時間をかければいいわけではない

私は書評を1時間前後で書き上げ、なるべく時間をかけないように努力しています。作業全体を俯瞰して無駄を削ぎ落としていけば、時間はいくらでも短縮できるものだからです。「時間短縮=手抜き」では決してなく、ダラダラと書き続けた原稿のほうが、クオリティの面では劣るということ。

参考までに記しておくと、私の作業工程は次のようになります。

1.読書:精読の場合は1~3日(1週間かけることも)、斜め読みの場合は30~1時間程度。この段階で、つまり読みながら、どの箇所を引用するかの目星もつけておきます。

2.必要事項の入力。

3.執筆:ここで心がけるべきは、一気に書ききること。(中略)細かい部分は、あとからいくらでも修正できるのだから、とにかく書き上げることだけを考えるというわけです。

4.推敲:いちばん重要なのがここ。(中略)3.の段階で、文章表現などに多少の違和感を抱くこともあるのですが、その段階では手を加えず、ここでじっくり修正していくということ。

(136ページより)

個人的に、文章執筆における最大の無駄は「必要以上の時間をかけること」だと考えています。無駄な時間をかければかけるほど、文章から鮮度が失われていき、表現もお粗末になるものだから。そこで、まずは勢いで書いてみる。とりあえず、書き上げることだけに神経を集中させる。できあがったら(可能であれば少し時間を置いてから)読んでみて、おかしな部分をひとつずつ修正していく。

詰まるところ、それがいちばん効率的で、精度も高められます。最初の段階でパーフェクトを目指すのではなく、書いてみてから修正するほうがいい。無駄な時間を短縮することにもつながっていきます。(134ページより)

なお巻末には、ライフハッカーの米田智彦編集長との対談も掲載。そのダイジェスト版が2回にわたり当サイトにアップされます。初回は11月30日公開です。ちなみに装画は、30年来の友人でもある漫画家/イラストレーターの江口寿史さんに描き下ろしていただきました。

手前味噌ながら、渾身の一冊。「読むこと」「まとめること」「書くこと」、そして「伝えること」を考える際、きっとお役に立てると思います。ぜひ、読んでみてください。

(印南敦史)